「君はバイトの顔をしている」と言われ奮起...『虎に翼』で人気の戸塚純貴が語る「悔しかった日々」

写真拡大 (全7枚)

「20代の時は迷いながらやっていたけど、今はこれで良かったんだと素直に思えます」

柔和な笑みを浮かべながら、そう語るのは俳優・戸塚純貴(32)だ。NHK連続テレビ小説『虎に翼』での、弁護士・轟太一役としてご存知の方も多いだろう。

「俺の何がわかんだよ!」

戸塚といえばその抜群の演技力でシリアスな役から三枚目役など硬軟さまざまな役柄を演じ、作品に色を添えてきた。今では、脚本家の福田雄一(56)や三谷幸喜(63)などトップランナーの作品に出演しているが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかったという。

’10年に『第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』で「理想の恋人賞」を受賞し芸能界入り。上京して1年で『仮面ライダーウィザード』(テレビ朝日系)の準主役に抜擢されたが、その後は仕事がなくなり、『吉野家』の牛丼を食べるお金すら工面できないほどの極貧生活を送ったこともあったそうだ。

それでも俳優を続けた理由はなんだったのだろうか──。

「芸能界に全く興味がなかったのですが、母がこの世界を勧めてくれて始めました。それで地元の岩手から東京に来たんですが、うまくいかなくて……。ガソリンスタンドでバイトをしたり、裏方の制作のお手伝いをしていました。裏方の時は本当に悔しくて、早く自分も表で活躍したいと思っていましたね。生活をするためにバイトをしていたのに、作品のオーディションに行くと“君はバイトの顔をしている”なんて言われたり。何がわかんだよ、って思っていました」

物静かに語るその姿は真摯で、かなり謙虚な印象だ。今ではコミカルな演技をしたら右に出るものはいないと言われるほど確固たる地位を確立した戸塚。コメディーを好きになったのは“あの名作”を見てからだという。

「小さい頃に見た映画『マスク』が好きで。役者とかよくわからなかったんですが、ジム・キャリーはコミカルで面白くてすごいなって。実際に役者になってからコメディーな役を中心にやる機会に恵まれたうえ、運がいいことに同世代の役者がこのコメディーの道を通らなかったので、自分はそのまま進んだ感じです。逆にぼくは二枚目役にはあまり縁がなくて、色気がないと周りに言われますね。コメディーは演じて楽しいですが、それと同時に演じれば演じるほど難しさも感じるので学ぶことだらけです」

「#俺たちの轟」を知ったきっかけ

現在は、前述した通りNHK連続テレビ小説『虎に翼』で轟太一役を熱演。その真っすぐで熱いキャラクターが人気となり、SNSで「#俺たちの轟」というハッシュタグが作られるほどだ。

「SNSをあまり見ることがないので、正直反響を知らなかったんです。そんな時に伊藤沙莉さんが『轟がすごい人気になってる』って教えてくれました。僕が、というよりかは皆さんが作ってくれたキャラクターだと思っているし、その役が作品にプラスの影響を与えていることにやりがいを感じながら演じました。1年間、学生時代から大人まで演じていて不思議な感じでしたが、とてもいい経験をさせてもらいました」

現在、三谷幸喜が5年ぶりに脚本と監督を担当した映画『スオミの話をしよう』が公開中だ。戸塚は坂東彌十郎演じる身勝手な芸術家・寒川の世話係・乙骨直虎(おっこつなおとら)を演じている。三谷は戸塚起用について、

「僕が30年近く前に脚本を書いた『ヴァンプ・ショウ』という舞台の再々演を見に行ったら、当時古田新太さんがやられていた役を戸塚さんが演じられていて、それが素晴らしかったんです。この人はなんて面白いんだ!と思い、そこからすぐにお願いしました」(『映画ナタリー』’24年7月9日配信より抜粋)

と明かしている。

憧れの三谷さんとの初仕事

初の三谷作品となる戸塚は、

「三谷さんの映画は作り方がとても珍しいと思いました。まず、リハーサル期間があるのもそうだし、長回しで演劇っぽい撮り方をされるのも驚きました。そして、リハーサルでやったものを直前で変えたりするんです。でもそれは三谷さんが新鮮さを大切にするからであって、その結果やっぱりより良いものになっていて勉強になりました。

役作りも事前にして提案させてもらい、演出してもらって。憧れの三谷さんと仕事をしていることが心から嬉しかったです。『スオミの話をしよう』は三谷作品ならではの世界観が広がっていて、こんな長澤まさみさんを見たことがないと思うような作品になっています。長澤さん演じるスオミが独白する衝撃のワンカットがあるので、そこに注目してほしいです」

と、目を輝かせた。唯一無二の存在として輝きを放ち続けている戸塚に目標を聞いてみた。すると、一つ一つ言葉を探りながらこう答えた。

「20代は余裕がなく、いただいた役をがむしゃらに演じてきました。けど、30歳になってから心に少し余裕が生まれて、昔を振り返ることができるようになったんです。僕は役者として劇的にステップアップしたタイプではなく、福田雄一さん三谷さんなど多くの尊敬できる人に出会って、学ばせてもらい今があります。だからこれからもいろんな人と出会い、いろんな役を演じ続けていきたいです」

戸塚はこれからもコメディーセンスを遺憾なく発揮し、見るものを魅了していくはずだ──。

取材・文:富士山博鶴