ジェントルになったモンスターマシン!KTM「DUKE」シリーズのフラッグシップがすごい
READY TO RACEの標語のもと、過激なマシンをリリースしているイメージの強いオーストリアのバイクブランド、KTM。元はオフロードを中心に活躍していたブランドでしたが、そのノウハウを活かしてオンロードにも進出するきっかけとなったのが「DUKE(デューク)」シリーズです。
当初はオフロードで鍛えられた単気筒エンジンを搭載したネイキッドモデルという位置付けでしたが、近年では2気筒エンジンのモデルも登場。そのフラッグシップに位置するのが、V型2気筒を搭載した「SUPER DUKE」です。シリーズ誕生から30周年を迎えた2024年に大きく進化した「1390 SUPER DUKE R EVO」に乗ってみました。
■“BEAST”の異名に似合わない乗りやすさ
「SUPER DUKE」の名を冠したマシンが登場したのは2013年のこと。180PSを発揮する1301ccのVツインエンジンを搭載した「1290 SUPER DUKE R」というマシンでした。当時、このマシンに試乗しましたが、エンジンの真上に座るような“前乗り”ポジションであることに加えて、キャスター角も立ち気味。KTMのマシンらしく、アクセルを開けるとドカンと飛び出すような加速が味わえ、マシンの方から「もっとアクセルを開けろ」と語りかけてくるような過激なモデルでした。コーナーの進入では、ブレーキを握り込むとほとんどフロント1輪で車体を支えているような感覚で、ずいぶんとアグレッシブなマシンをリリースしたものだと感じたものです。
新型の「1390 SUPER DUKE R EVO」は排気量が1350ccまで拡大され、最高出力は190PSに。車体の重量は燃料なしで200kgなので、パワーウェイトレシオはほぼ1:1を達成しています。数値だけを見ると、過激な特性に磨きがかかっている印象で、やや緊張して試乗に臨みました。
従来からアグレッシブだった外観も、さらに個性を強めていて、縦に2つ並んだLEDランプの周囲を取り囲むようにデイタイムライトが配置されています。デザイン的には好みの分かれそうなフロントフェイスですが、これにも機能的な意味があり、ライトの隙間部分がラムエアの取込口になっているとか。
ただ、実際に乗ってみると拍子抜けするほどの扱いやすいマシンでした。スリムなエンジンとフレームのおかげで、排気量が1300ccオーバーとは思えないほど車体はコンパクト。シート高は834mmありますが、車体が軽量な上に細身なので足付き性も悪くなく、片足でマシンを支えるのに緊張感もありません。
ライドモードは最大5種類から選択でき、最も穏やかなRAINモードで走り出すと、最高出力が130PSに制限されることもあって街中や渋滞の中でもびっくりするほど乗りやすい。STREETモードに入れると、フルパワーとなりますがトラクションコントロールやウイリーコントロールが効くこともあり、扱いやすい印象は変わりません。SPORTモードはスロットルレスポンスが鋭くなり、従来の過激な特性が顔を覗かせます。その上のPERFORMANCEとTRACKのモードはオプション設定です。
サスペンションが、自動プリロード調整を備えたWP製の第3世代セミアクティブサスとなったことも乗りやすさに大きく貢献している様子。可変ダンピング機構も備えているので、走行中にストロークセンサーやIMUの情報に基づいてダンピングを最適化してくれます。そのため、荒れた路面でも接地感が掴みやすく、ハードなサスにありがちな路面からの突き上げを感じることもありませんでした。
コーナリング中も荷重や姿勢に合わせて前後サスがダンピングを最適化してくれるので安定感は抜群。アクセルを開けていくとリアがしっかり踏ん張り、タイヤのトラクションがリアルに伝わってきます。シートにもコシがあり、表面のグリップがいいのでタイヤのグリップが感じやすい。滑りにくい表皮の割に、お尻を左右にズラす動きはしやすい絶妙のシートです。
前後ともブレンボのブレーキシステムは、制動力はもちろんコントロールもしやすい。以前のモデルはしっかり奥まで突っ込んで握り込むような特性でしたが、現行モデルでは低速域でのコントロール性も向上しているので、街乗りやツーリングでも扱いやすいフィーリングになっていました。
以前のような過激な特性とは異なるキャラクターになっていますが、エンジンパワーはもちろん、足回りの性能も向上しているのでサーキットを走ってタイムを測れば間違いなく新型の方が速いでしょう。
それでいて、乗りやすさも向上していてタンクの容量も1.5L増えているので航続距離もアップ。ツーリングでも使いやすいモデルに仕上がっています。
価格は283万4000円と高価ではありますが、個性的な外観も含めて、人とは違うネイキッドマシンに乗りたいライダーには気になるモデルとなるでしょう。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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