中小企業ながらも、梅酒市場の中で無二の存在感を示すチョーヤ梅酒。緩やかな繋がりの中での梅づくりの一方で、有機栽培の土壌作りには、梅農家と共同で取り組んでいる(写真:チョーヤ梅酒提供)

従業員130人で、2023年12月期の売上高が139億円を記録したチョーヤ梅酒(以下、チョーヤ)。

前編では、豊凶の波が激しい梅を毎年安定して確保するために、半世紀かけて農家と信頼関係を築き、ストックを持てるタンクやキャッシュリッチな体制を整えた工夫を紹介した。専属契約をとらず、一見、非合理にも思える「緩やかなつながり」のもとで安定した調達を実現したその姿は、中小企業の堅実かつ懸命なビジネスを感じさせる内容だった。

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だが同社が長年梅酒造りを行うなかで、取り組んできた改革はそれだけではない。梅酒の王者 チョーヤの戦略を紐解く3回シリーズ。中編では、梅酒業界の仕組みから変えた「3つの改革」にスポットを当てる。

1.梅の流通形態を変えた

梅雨時期、スーパーや小売店などに並ぶ梅を想像してみてほしい。青色ではないだろうか。現在、市場に並ぶ梅のほとんどは、この「青梅」だ。青梅とは、熟していない固く青い梅のこと。

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実はこの青梅という言葉を使いだしたのは全国の市場だったそうだ。流通時の荷痛みを避けるために求められたのだ。


一般的に市場に流通している青梅(写真:チョーヤ梅酒提供)

しかし、チョーヤは異なる考えを持っていた。専務の金銅俊二氏は、「弊社は、青梅という表現を30年前に捨てました」と話す。すなわち、青梅をほぼ使わない選択をしたのだ。なぜなら、樹上で完熟した梅のほうが大粒で果肉が厚く、酸度が高い。これを使うことで、香り、酸味ともに優れた梅酒ができるからだ。

そのためチョーヤに納品される梅のほとんどが、青梅ではなく熟した梅だ。チョーヤが、独自の流通形態を作ったのだ。そんな特別扱いは農家に負担となるのでは……と思われるかもしれないが、実は真逆。農家にもメリットがある。

その理由は、梅の出荷作業を詳しく見ていくとよくわかる。


チョーヤが原料に主に使用している、熟した南高梅(写真:チョーヤ梅酒提供)

2.出荷方法を変えた

通常の梅の出荷は、梅を木から収穫し、傷物を選別。その後、大きさを4〜5種類に分けて出荷するというものだ。このスタイルは手間がかかり、梅農家にとって大きな負担となる。

しかも、年間生産量の約50%を6月の1カ月間で出荷しなければならない。だから6月は家族総出で梅の出荷を手伝ううえ、アルバイトも雇う梅農家が多い。もちろん、その年によって豊作、不作があるとしても、肉体的にも、精神的にも負荷の大きな期間となる。


6月に行われる出荷作業の様子(写真:チョーヤ梅酒提供)

ここで、さきほどの流通形態を変えたメリットが登場する。完熟した梅は青梅と出荷時期がずれるため、農家に余裕ができるのだ。しかも完熟梅での出荷なら、木からもぐのではなく、自然落下した実をネットで受ける「ネット収穫」となり手間も減る。

さらにチョーヤは、出荷形態も変えている。ネット収穫した梅を選別し、コンテナのままの入荷をOKとしたのだ。また、大きさの仕分けも簡素化し、通常4〜5種類に分けるところを、3種類にした。ただし、完熟梅は傷みやすいため、通常の出荷では行わない1次洗浄を行うことを条件としている。そして、漬け込み直前にチョーヤで2次洗浄を行う。

加えてチョーヤは、出荷時間も変えた。青梅は、午前中に処理して午後13時、14時頃に農協に出荷がするのが基本だが、チョーヤの工場では早朝や夕方、夜間の入荷も受け付けている。このため、農家から農協への出荷が、夕方まで可能となる場合もある。そうすることで農家の時間の余裕を生み出しているのだ。


完熟梅が自然落下したものをネットで受ける「ネット収穫」の様子(写真:チョーヤ梅酒提供)

これら出荷体制の変更は約20年前、2003年頃からスタートしたそうだ。きっかけは1990年代の終わり頃、梅の出荷時期が遅く、有利な価格で販売がしにくいエリアの農家と、出荷時期を変えて取引をはじめたことにあったという。また、「青梅での出荷タイミングを逃して完熟した梅を引き取ってほしい」という声もあったそうだ。

「現在では農家の高齢化対策や、持続可能な農業のための省力化の取り組みにもつながっており、農家のみなさんに喜んでいただいています」と金銅氏は話す。

3.安心安全を届けるため、栽培から変えた

チョーヤは梅の栽培も変えた。前編で、チョーヤ和歌山県の農協を通じて農家と取引していると紹介したが、その理由の1つに安全性がある。和歌山県の農協は、農薬使用などの記録を農家から集めて把握しており、農薬を分析するシステムも持っている。つまり、農薬の量や種類をコントロールできており、万一何かあった際にはトレースも可能な梅を使っているのだ。

そして、チョーヤの安心・安全への追求はそれだけにとどまらない。農家と共に減農薬、有機栽培にも取り組んでいる。

農薬については1997年、「除草剤を使わず草を刈り取り、基準である農薬散布の回数と量を半分に」をスローガンにスタート。当時はまだ農薬の安全性への注目度は低かったそうだが、今はそれが広まり、他府県の農家も取り組むようになった。次のステップとして、有機栽培を始めたのは1999年のことだ。農家とグループを結成し、土作りや育成方法の研究にも取り組んでおり、この考えに賛同する農家は年々増えていっている。


農家と共同で減農薬栽培に取り組む(写真:チョーヤ梅酒提供)

そして、これらの取り組みの際にチョーヤが注意しているのが、農家に一方的な指示をしないことだそうだ。あくまで協力して行うことで、その結果は農家の知識となり、強みとなる。他方、チョーヤとしても、日本ではじめてJONA(特定非営利活動法人日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)有機認証を取得した梅酒『The CHOYA 大地の梅』を発売するなど、目に見える成果を得ている。ここでも、ウィンウィンの関係が構築されているのだ。

金銅氏はそれ以外にも、ほぼ一年中和歌山県に足を運んでいるそうで、「和歌山の梅農家の多くの方が私の顔を知っているのでは。文字通り、顔の見えるお付き合いをしています」と微笑む。日頃から農家や農協に対して、「梅がなくなったらチョーヤは商売を辞めます。弊社を潰さないでください。そのカギはあなたたちの手にあります」と伝えているそうだ。


梅畑で語り合う、農家の方々とチョーヤの仕入れ担当者(写真:チョーヤ梅酒提供)

チョーヤの不変の哲学。「90点の完璧」を追求する

ここまで、梅を安定して仕入れ、安心安全な梅酒を作るため、チョーヤが行ってきた改革を紹介してきた。しかし反対に、長年変わらず伝え続けていることがある。「90点以下のものをつくらない」というスローガンだ。

その理由を金銅氏は、「化学製品や工業製品は100点を目指せます。機能性や、車であればスピードなどで数値化もできますよね。でも天然の果実はどこまでいっても自然の影響を受けますから、味を統一できなくて当たり前。毎年100点は到底無理です」と説明する。

そこで目標に据えたのが、「90点以下のものをつくらない」だったそうだ。「ブレンドの努力で90点は目指せます。90点以下の味をつくらないことを目標にすれば、お客様の期待を損なわず、信頼を失わないのではないでしょうか」(金銅氏)。

チョーヤの企業理念は、「古来健康のために食されてきた梅の文化を継承し、世界へ発信すること」だ。そのため味の基本はあくまで、「焼酎35度1.8Lに対し、梅1kg、砂糖1kg」の家庭のレシピをベースにしている。それをもう少し淡白にしたり濃厚にしたりと、上下にずらしているだけなのだそうだ。


一般家庭で行われている梅酒の漬け込み(写真:チョーヤ梅酒提供)

もちろん、時代と共に甘みを抑えてドライにしたりという微調整はあるが、基本は「代々日本で受け継がれてきた梅酒の味」にある。だから、科学的な添加で無理やり100点を目指すことに意味はないのだ。変えてきたものと、その土台にある変わらないもの。このコントラストがチョーヤのロングセラーを支えているのかもしれない。

「今年は前代未聞の梅不作だそうです。ということは、梅酒のチョーヤは甚大な被害を受けてるはず。笹間さん、ちょっと取材しませんか?」

担当編集の思いつきで始まった本取材だったが、右肩下がりの業界の中で成長を続ける、中小企業の強さ、堅実さを感じさせられた。だが、「関西のおっちゃん」感満載な、饒舌な金銅氏の話はまだまだ続いて……。

ということで、後編では、創業から見据えていた海外展開への挑戦や、技術の核とも言えるブレンドへのこだわり、展望について解説する。


梅農家から届いた、大量の南高梅(写真:チョーヤ梅酒提供)

(笹間 聖子 : フリーライター・編集者)