セブン‐イレブンが2024年8月から宅配ピザに本格参入し、ピザ業界に激震が走っている。この参入を、既存のピザ業界はどのように捉え、どのようにセブンに対抗するのか。宅配ピザ大手のドミノ・ピザ ジャパンのCEOであるマーティン・スティーンクス氏を直撃した。
写真=ドミノ・ピザ ジャパン提供
ドミノ・ピザ ジャパン CEO マーティン・スティーンクスさん - 写真=ドミノ・ピザ ジャパン提供

■セブンの参入は「歓迎」

――セブン‐イレブン(以下、セブン)の宅配ピザ参入をどのように受け止めていますか?

歓迎します。実は、私は、このチャンスを最大限活用したいと思っているんです。セブンのような大手コンビニチェーンが、こういった形で宅配ピザの拡大を検討していることは、とても健全なことです。

――健全、ですか。

はい。そうすることによって、ピザがお客様にとって親しみのある「普段食」になるからです。かつてピザは、クリスマスや誕生日、ゴールデンウィークといったときに食べる「機会食」でした。そこから日常的に食べることになる「普段食」に移行していけるんじゃないか。参入してもらえることの利点は、そこにあると思います。

――ライバルの出現というより、ピザ業界自体を高め合っていける、ということですね。

もちろん、そこからお客様にドミノ・ピザを選んでいただかないといけません。それに関しては、私たちの商品開発がかかっているところですね。

■「できたてアツアツ」で「ヘルシー」なピザで差別化を図る

――商品開発では、どういう点で他社との差別化が図れますか?

「できたてアツアツななピザである」ことが大事だと思います。それは大前提です。

――確かに、ドミノ・ピザではできたてアツアツな「ジャストタイムクッキング」などの取り組みも行っていました。

その上で、一番大事なのは、お客様の声を聞くことです。実際にお客様が何をほしがってるのかを聞くのが大事です。

――消費者の目線からすると、近年では健康志向の高まりから、炭水化物そのものを避ける動きもありますね。ピザを「普段食」にするときの一つの障壁になるかもしれません。

いい質問です。実際、私たちはタンパク質を多く含むような健康志向のメニューを作ろうと思っています。それこそ、チキンをトッピングに入れたり、といったことですね。さらに、チーズは栄養価の高い健康に良い食材ですから、私たちのピザはヘルシーです。

――なるほど。ちなみに、サイドメニューはどうでしょうか。というのも、セブンの宅配ピザの強みは、セブンの他の商品とセットでピザを頼めることにあると言われています。ドミノ・ピザでもサイドメニューを拡充させる予定はあるのでしょうか?

秘密にしておきたいこともあるので、全てはお教えできないのですが(笑)、先ほども話したピザBENTO、ピザと選べるサイドメニューが付いています。ですから、その部分で開拓できるものが大きいと思っています。

私たちの店舗のロゴを見ると、「Domino's」と書いてあるんです。「Domino's Pizza」とは書いていない。つまり、「ピザだけじゃない」ところも打ち出そうとしていて、サイド商品も力を入れているところです。

■「おひとりさま」需要を狙う「ピザBENTO」

――セブン‐イレブンが参入することによって、ドミノ・ピザのターゲット層はどのようなものになるのでしょうか?

今の私たちが注力しているのは、主に2つあります。1つが、「おひとりさま」需要です。そして、もう1つが、今までも特に獲得できていた「ファミリー」需要だと思います。特に「おひとりさま」需要は、世界的に見ても最も急速に拡大しています。

――なるほど。「おひとりさま」需要でいうと、セブン‐イレブンとかなりターゲット層がかぶりそうですが、どのような戦略を取るのでしょうか?

その一つが「ピザBENTO」です。直径15センチほどの、1人用の小さいサイズのピザとサイドメニューを組み合わせたものですね。

そういったおひとりさまに合った需要で、ピザとサイドメニュー、それにドリンクが1つにまとまった食事を提供することができないか、と考えました。値段も590円〜にして、特にランチでピザを食べる学生さんに見合うものになっています。

写真提供=ドミノ・ピザ ジャパン
ピザBENTO - 写真提供=ドミノ・ピザ ジャパン

――「BENTO(弁当)」と付いているのが名称として面白いですよね。

実は1年前にも、同じ内容の商品を「マイドミノ」という形で出しているんです。ただ、消費者調査をすると、この名称からは、メンバーシップカードやポイントカードをイメージする人が多いことがわかりました。

さらにお店からも聞き取り調査をしたのですが、そのときにわかったのが、マイドミノをお客さんに説明するとき、「マイドミノ」と言わずに「ピザBENTO」とか「お1人様向けピザ」、と説明していることがとても多いこと。さらに、その「ピザ」という言い方は、お客さん側から考案されたものだったようなんです。

――元は、お客さんが言い始めたものだったのですね。

そうしたお客様の声を受けて、「マイドミノ」を、もう一度、ピザ という形でリブランディングしようと思いました。それと、「弁当」にしたのは、持ち運びの問題も考えています。お客さんがこれを持ち帰るとき、自転車やバイクのカゴに入れることもあると思うのですが、お弁当箱のサイズがちょうど、カゴにぴったりなんです(笑)だから、「弁当」と名乗っています。

――なるほど(笑)

■「オフライン」を重視して高齢者対応を

――セブン‐イレブンの宅配サービスは、家からコンビニまで通うのが難しい高齢者にも対応する狙いがあります。日本では高齢化が深刻な問題となっていますが、ドミノ・ピザではなにか対応策を考えているのでしょうか?

日本の約30%が65歳以上だといわれています。ですから、対策を考えています。若年層とは違うアプローチが必要です。例えば、彼らはスマホを持っていなかったり、SNSを使っていなかったりなど、そういう部分がすごく違うと思うんです。

だからこそ、私たちはまだ、テレビを宣伝チャネルの1つとして大々的に使っています。それ以外にも、私たちはオフラインと呼んでいますが、オンライン以外でコミュニケーションを取るための工夫も重視しています。実際、そういった方々にどういうふうに、店舗での楽しさを体験していただけるか、お店に来ていただけるかが大事だと思っています。

ドミノ・ピザでは、子どもも大人も楽しくピザ作りが体験できるピザアカデミーという取り組みを開催しているんです。このピザアカデミーの体験を、高齢の方々にもアプローチできないかと思っているんです。ちょうど2週間後に敬老の日があるので、その時にキャンペーンとして、実際に500円で高齢者の方にも参加していただけるキャンペーンを行います。

■リアル店舗の楽しさをどう伝えるか

――さまざまなものがネットで買えるようになった現在、リアルな店舗ではコミュニケーションや「楽しさ」を重視するのが、とても大事だと思います。

まさにそう思います。店舗の周りのコミュニティとピザでつながる――。それ以上にいいことはないと思うんです。それこそ実際に店舗ごとに、地元のスポーツクラブなどに関わったり、そういったことが本当に大事だと思っています。

――店舗を重視されているというのは、とてもわかりました。一方、最近、ドミノ・ピザはかなりの店舗数を閉店するという決定に踏み切りました。特に、今回の閉店によって、山形県からはドミノ・ピザがなくなってしまったことも話題になりました。

そうですね。これは、とても難しい決断でした。私は、ドミノ・ピザに27年ほど関わっているのですが、私が働いているのは、お店を開けるためであって、閉めるためではない。ただ、おっしゃる通り、コロナ禍の中で年100店舗以上に及ぶ急拡大をしました。なので、今年、戦略的にいくつかの店舗を閉店する決断をした。その結果の1つとして、今は山形から一時撤退する形になります。

ただ、確実に約束できるのは、必ず戻ってくる、ということです。確実に。この先、お客様にまたピザを届けられるように、必ず戻ってきます。

■ピザ業界の日本市場での難しさは?

――コロナ禍での急拡大も、閉店の背景にあったと思いますが、もう一つ、「日本市場の難しさ」もあったのでしょうか? マーティンさんは、オランダと台湾のドミノ・ピザでも働かれた経験をお持ちですが、そのマーティンさんの目から見て、日本市場はどのように映りますか?

日本のピザの品質は、他の国のピザと比べると格段に良いんです。なおかつ、サービスの質の良さもとても高いです。私が今までいたどの国よりも確実に良いです。なんでしたら、全ての外国人を一度日本に招いて、本当に学んでほしいと思う。こういうサービスをお客様に届けるべきなんだと。

一方、その分、日本のお客様は、届いたときのサービスが悪かったら許してくれない。そう、強く思っています。

――サービスの質の維持が難しさになると。

だからこそ、私たちはオペレーションの一貫性を大事にしています。どの時間帯に頼んでも同じものが、同じサービスで届く。これをちゃんと保証したい。お客様がリピーターになってくれるのは、そうした質の高さがあるからだと考えています。

――最後に、これからのドミノ・ピザが目指す方向をお教えいただけますでしょうか?

商品ももちろんですが、サービスでも、しっかりと皆さんの期待に合ったものを届けようと考えています。全てのお客様に対して、求めるものを届けたいと思っています。ただ、それだけでなくて、その期待をどう超えていくか、それを考えています。

――それが、対セブン‐イレブンの戦略になっていくわけですね。

ドミノ・ピザ ジャパン CEO マーティン・スティーンクス(Martin Steenks)

オランダ出身。学生時代にアルバイトドライバーとしてドミノ・ピザ オランダに入社、入社後まもなく店長として「ルーキー・マネージャー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。その後、マネージャー、スーパーバイザーを経て、2011年にはフランチャイズオーナーとなり、店舗を8店舗まで拡大させる。2021年9月 ドミノ・ピザ 台湾 CEOに就任、2022年7月 ドミノ・ピザ ジャパン CEOに就任して現在に至る。また、2016年にはマルチユニットフランチャイズオブザイヤー、2017年にはゴールデンフラニーなど社内賞を多数受賞している。

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谷頭 和希(たにがしら・かずき)
ライター
1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。
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(ライター 谷頭 和希)