永嶋 泰子 /

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大人になって読む児童書の魅力

大人になってよかったことのひとつに、本を読んだときに作家が生きた時代背景を深く味わえることがありました。

作家の生きた時代、社会の状況を想像して、作家がどんな気持ちで作品を作り上げたのかを想像できるようになったからです。たとえば、今回ご紹介するドイツ人作家のエーリヒ・ケストナー『ふたりのロッテ』もそんな一冊。

『ふたりのロッテ』と戦後の想像力

『ふたりのロッテ』は、両親の離婚により生き別れになっていたロッテとルイーゼという10歳のふたりの女の子が主人公ですが、ケストナーがこの作品を発表したのは1949年。第二次世界大戦後からたった4年のことでした。

ケストナーは戦争中はナチスから反ナチスとして目をつけられており、自身の著書が目の前で燃やされた経験を持っています。命の危険を感じながらも、彼は執筆をやめませんでした。いつ終わるかわからない戦争の中で子どもたちのために夢を描き続けた作家。

それがエーリヒ・ケストナーなのです。

大人になった今だからこそ、わかります。

豊かな想像力を持ち続ける難しさを。

この平和な日本に生きている私でさえ、仕事と子育てに追われ、夜はクタクタになる日々。ケストナーはそれよりも過酷な状況の中で、想像力を目一杯使って作品を生み出したのでした。

離婚と子どもの心の葛藤

そして、彼は社会的に弱い立場にある子どもの心の声を代弁する作家でもありました。

『ふたりのロッテ』は両親の離婚によって引き裂かれた双子の女の子の話ですが、離婚についてこんなふうに語っているのです。

この世には離婚した親がたくさんいる、そういう親のもとでつらい思いをしている子どももたくさんいる。また逆に親たちが離婚しないために辛い思いをしている子どももたくさんいるとね。そして親たちのせいで子どもたちに辛い思いをさせるなら、子どもたちとそういうことについて、きちんとわかりやすく話し合わないのは甘やかしだし、間違ったことなのだと。

けれども、ケストナーは単純に善悪で物事を判断する作家ではありませんでした。ケストナーの言葉が心にしみるのは、子どもの立場を描きつつも、離婚という選択をせざるを得なかった親の苦悩を見事に描き出しているところです。

例えばこんなふうに。

「ふしあわせな結婚をだらだらと続けていたら、そんななかでわたしたちの子どもたちはしあわせになったと思いますか?」

ケストナーは物語を通じて、物事にはいろんな見方があるのだよ、ということを教えてくれます。

それは、大人になったからこそ心に響いた言葉でもありました。

大人が読む児童書の価値

私自身、親になり子育てをする中で、子どもの気持ちと親の気持ち、ふたつの気持ちを体験することができるようになりました。

物事には、いろんなものの見方があるということを身をもって感じることができる作品。それが『ふたりのロッテ』でした。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

あなたの人生の参考になれば幸いです。

▼参考文献
エーリヒ・ケストナー『ふたりのロッテ』
https://www.iwanami.co.jp/book/b269613.html