『光る君へ』第34話、どす黒い感情に覆われる藤原伊周に視聴者最注目 画面注視データを分析
●敦康親王、強い口調で拒絶「要らぬ」
テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、1日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第34話「目覚め」の視聴者分析をまとめた。
『光る君へ』第34話より (C)NHK
○伊周、憎々しげな顔を道長に向ける
最も注目されたのは20時38分で、注目度83.1%。藤原伊周(三浦翔平)がどす黒い感情に覆われるシーンだ。
「ごほっごほっ!」「敦康様…」病に苦しむ敦康親王(渡邉櫂)の背中を、中宮・藤原彰子(見上愛)は不安そうな面持ちで懸命にさする。彰子が献身的に敦康親王の看病をしていると、1人の公卿がやってきた。「親王様。伯父上がお見舞いに参られました」藤原伊周だった。「思ったよりお元気そうで安堵いたしました。これは源為憲の著した『口遊(くちずさみ)』にございます。もう少しご回復が進みましたら、ぜひお読みください」伊周は敦康親王に見舞いの品を差し出した。
しかし、敦康親王は「要らぬ」と、強い口調で拒絶する。その態度に伊周はもちろん、彰子も驚きを隠せず目を見張った。辺りを重苦しい空気が漂う。
そこに、宮の宣旨(小林きな子)が新たな来客を告げた。「左大臣様のお越しにございます」すると、敦康親王は自ら廊下へと出て、訪れた左大臣・藤原道長(柄本佑)のもとへ駆け寄った。敦康親王の思いがけない行動に、伊周は驚がくの表情を見せる。「いかがされました?」道長に優しく声をかけられた敦康親王は、再びせき込んだ。「あっ…」道長はとっさに敦康親王の背をさすりつつ、ふところから手布を出して口に当てる。その光景を見て伊周は、憎々しげな顔を道長に向けた。
『光る君へ』第34話の毎分注視データ
○辛辣コメント続々「顔しかいいところないじゃん」
注目された理由は、またもや不穏な雰囲気をかもし出している伊周に視聴者の注目が集まったと考えられる。
一条天皇(塩野瑛久)のおかげで、徐々に復権を果たしている伊周だが、道長に比べるとその権力基盤には大きな差が依然として存在する。それでも、息子である藤原道雅(福崎那由他)が蔵人に任官されるなど、少しずつではあるが伊周の足元も固まりつつある。
しかし、道長に対する私怨を募らせる伊周は、以前にも増して人望が失墜しており、甥にあたる敦康親王は伊周よりも道長に懐き、実の息子・道雅からは「父上の復讐の道具にはなりませんから」と、見放されている。
相変わらず人心掌握が下手くそ過ぎる伊周に、X(Twitter)では、「伊周ってやつはいつまでたっても…」「道雅くんが伊周にどえらい反抗心を見せる気持ちも分かる」「伊周はあんなに道長を呪詛していたのに、効果はなかったの?」「伊周、コミュ障すぎる」「本当に顔しかいいところないじゃん」といった辛辣なコメントが多く寄せられた。
今回の火事騒動も黒幕は伊周っぽい描かれ方をしていたが、何をやっても空回りする伊周が、今後どのように行動をエスカレートさせていくのか、彼の悪あがきに注目だ。
一方、物語では道長と敦康親王が今のところ良好な関係を築いている。しかし、史実では彰子が敦成親王(のちの後一条天皇)を出産するとその関係も大きく変わる。皇位継承をめぐって強引なやり方を進める道長に彰子も強く反発する。道長と敦康親王、そして彰子の人間関係が今後どのように描かれるのかに注目だ。
今回、伊周が敦康親王に見舞いの品として持参した『口遊』は、花山天皇(本郷奏多)に仕えていた源為憲が970年に、藤原為光(阪田マサノブ)の子・松雄君(のちの藤原誠信)のために編さんした学習教養書だ。当時の貴族社会で身につけるべき基礎知識を、暗唱しやすい文でまとめられている。子どもたちが遊び感覚で知識を身につけられるという目的で作られた。当時広く流行し、後の「二中歴」や『拾芥抄(しゅうがいしょう)』にも大きな影響を与えている。伊周が敦康親王に期待を込めて『口遊』を用意した気持ちはよく分かるが、相手の気持ちを考慮できない伊周に明るい未来はなさそうだ。
●道長への想いを巡らせ…「若紫」誕生
2番目に注目されたのは20時35〜36分で、注目度80.5%。まひろ(吉高由里子)が、道長より賜った扇から着想を得て、『源氏物語』第5帖「若紫」を書き上げるシーンだ。
曲水の宴の後、まひろは道長から贈られた檜扇を眺めていた。幼いころ逃げ出した小鳥を追う最中、偶然に道長と出会ったあの日のことを思い出す。どれだけ探しても小鳥が見つからずに、泣きそうになっていたまひろに「いかがした?」と声をかけてくれた道長。「小鳥を追っていった先で、出会ったあの人…あの幼い日から、恋しいあの人のそばでずっとずっと一緒に生きていられたら、一体どんな人生だっただろう」と、墨をすりながら、心の中でかなうことのない道長への想いを巡らせた。
庭に目をやると、小鳥が鳴いていた。あの時の小鳥にとてもよく似ている気がした。やがて小鳥は飛び立っていった。次の瞬間、まひろは天啓を得た。今しがたひらめいた情景を書き留めるため、まひろは急いで筆を走らせた。「『雀の子を犬君が逃がしてしまったの。籠をふせて閉じ込めておいたのに』と大層、悔しそうにしています」越前の和紙の上で、「若紫」が鮮やかに誕生した。
(C)NHK
○『源氏物語』ファン勢のテンション爆上がり
このシーンは、『源氏物語』の中でも代表的なエピソード「若紫」の誕生に、『源氏物語』ファン勢のテンションが爆上がりしたと考えられる。
道長から贈られた檜扇をうれしそうに見つめるまひろ。幼いころの思い出を懐かしんでいるうちに、もし道長と結ばれていたらという妄想がどんどん募っていく。かなうことのなかった恋を物語でかなえようとするあたり、陰キャのまひろらしさがよく描かれている。
SNSでは、「とうとう若紫がでてきた!」「幼きまひろの初恋が若紫に続くなんて脚本が素晴らしい」「若紫が降りてきた!」と、若紫の爆誕に多くの反響があった。また、「若紫を読んだ時の道長が見たい!」と、道長が若紫を読んだ時の反応が楽しみという声もあった。
「若紫」は、『源氏物語』でも特に人気の高いエピソードの1つだ。古文の教科書にも掲載されているので知っている方も多いのではないだろうか。主人公・光源氏が北山で美しい少女、若紫と出会う。少女は光源氏が恋焦がれる藤壺によく似ており、光源氏は強く引き付けられる。光源氏は若紫を自分の理想の女性に育てたいと考えるが、若紫の祖母・尼君は若紫が幼すぎるため本気にしない。その後尼君が亡くなると光源氏は半ば強引に若紫を二条院に引き取り育て始めるというストーリーで、のちの物語の展開にも大きな影響を与える。
美しく幼い少女を自分好みの女性に育てるというテーマは現代においても衝撃的で長年にわたって多くの人々を惹き付けてきた。これまで『光る君へ』で描かれてきたまひろの人生が、今後どのように『源氏物語』に落とし込まれていくのか、非常に楽しみだ。
●中宮・藤原彰子、まひろに心を開き始める
3番目に注目されたシーンは20時19分で、注目度79.4%。中宮・藤原彰子がまひろに心を開き始めるシーンだ。
まひろが局に遊びにきた弟・藤原惟規(高杉真宙)の相手をしていると、突然、中宮・藤原彰子が尋ねてきた。帝の正室の急な来訪にあわてながらも、「お呼びくだされば、参りましたのに」と、まひろは彰子を迎える。惟規はすばやく姿を消した。
「藤式部の局が見たいとおおせになって」傍らに侍る左衛門の内侍(菅野莉央)がそう言うと、「そなたはよい」と彰子は冷たく言い放った。「えっ?」驚く左衛門の内侍に、彰子は「下がれ」とだけつけ加えると、左衛門の内侍は何も言えず引き下がった。彰子はまひろと2人だけで話がしたいようだ。
「そなたの物語だが…面白さが分からぬ」すぐに彰子が切り出した。「さようでございますか…」「男たちの言っていることも分からぬし、光る君が何をしたいのかも分からぬ」どうやら年若い彰子には、男というものが理解できないようだ。「はあ…」まひろはどう答えればよいか思案した。
「帝はそなたの物語のどこに引かれておいでなのだろう」「さあ…帝のお心は計り知れませぬ。されど、私の願い、思い、来し方を膨らませて書いた物語が帝のお考えになることと、どこか重なったのやもしれませぬ」まひろは慎重に言葉を選ぶ。「ふ〜ん…」彰子はまひろの言葉を懸命に理解しようとした。
すると「中宮様!」と、敦康親王の大きな声が聞こえた。彰子と遊びたいのだろう。「また来てよいか?」と尋ねる彰子に、まひろは「もちろんにございます」と、笑って答えた。
(C)NHK
○「彰子さまには幸せになってほしい」
ここは、彰子の目を見張るほどの成長に、文字どおり視聴者の視線が集まったと考えられる。
これまでの彰子は、決めゼリフの「仰せのままに」のとおり、周囲にながされ、自分の感情を表に出すことなく生きてきた。しかし、敦康親王を引き取って育て、夫・一条天皇と炎の中で一時とはいえ触れ合い、そして(変わり者の)まひろと出会ったことで、徐々に自分らしさを取り戻しつつある。
ネット上では、「笑顔の彰子さまは最高に可愛らしい」「彰子さまの感情がだんだん表に出てくる様子がいい!」「彰子さまには幸せになってほしい」「『そなたはよい。下がれ』の圧、すごかった」「彰子さまが深窓の姫君から強い女性へ変わっていく道程に魅入られる」と、彰子の成長を喜ぶ多くの視聴者の声がアップされている。
『紫式部日記』によると、史実でも彰子は非常に遠慮がちな性格だったようだ。彰子が中宮となったのは他の后(きさき)や女御との競争が激しい時期だった。彼女は争いを避けるため、徹底して目立たないように振る舞っているうちに、自分の意志を周囲に伝えることができなくなってしまったようだ。闊達な皇后・藤原定子(高畑充希)とはまさに対照的といえる。
まひろは赤染衛門(凰稀かなめ)とともに、彰子に和歌や漢詩を指南した。その際、漢文のテキストとして一条天皇も好んだ『新楽府』を選んでいる。かつて、まひろは弟・藤原惟規に頼み込んで借りた『新楽府』を読んで勉強した。それがきっかけとなり、後に一条天皇と接点をもつに至ったが、彰子と一条天皇の仲を深めるきっかけにもなり得るのだろうか。
定子にとって清少納言(ファーストサマーウイカ)はかけがえのない存在だったが、藤式部も少しずつ彰子にとって大事な存在となりつつある。この後2人は同じ時間を過ごしていくうちに、より強い信頼関係が芽生えていくのだろう。
●大勢の人々が『源氏物語』に夢中
第34回「目覚め」では、1006(寛弘3)年から1007年(寛弘4)の様子が描かれた。幼いころの淡い想いを源氏物語第5帖「若紫」を書き上げるまひろ。一条天皇が夢中になる『源氏物語』を理解しようとする彰子。敦康親王だけでなく、息子である藤原道雅からも嫌われながら、性懲りもなく何かをたくらむ藤原伊周。今回も様々な人間模様が繰り広げられた。
トップ3以外の見どころとしては、まひろが書いた『源氏物語』が内裏で広がりつつある場面が挙げられる。藤原公任(町田啓太)・敏子(柳生みゆ)夫婦、藤原行成(渡辺大知)、藤原斉信(はんにゃ.・金田哲)や女房たちなど大勢の人が夢中になって読んでいる。
その女房の中に、Eテレの人気テレビアニメ『おじゃる丸』の主人公・坂ノ上おじゃる丸役の声優・西村ちなみが筑前の命婦役でひっそりと登場している。西村は『光る君へ』公式Webサイト特集記事の動画で、おじゃる丸の声で「空蝉」の一節を朗読している。
また、成長した藤原道長の長男・藤原頼通も注目を集めている。頼通を演じる渡邊圭祐はアミューズに所属する宮城県出身の30歳。大河ドラマの出演は『光る君へ』が初めてとなる。ネット上でも「頼通さま、さわやかな青年になられた」「めっちゃカッコいい!」「ついに圭祐さんが大河ドラマに!」と、その凛々しい姿が話題になっている。
屋敷が火事に遭い、茫然自失となった藤原斉信、藤原道綱(上地雄輔)のコンビも注目された。「しょんぼり斉信と道綱のLINEスタンプほしい」「金田さんの演技すごい!」「深刻な事態なんだけど、2人のコミカルさがおもしろい!」「弟大好きが揺るがない道綱がスゲェ」と、2人の表情に笑いをこらえきれなかった視聴者が続出した。
そして、SNSでは曲水の宴に登場しなかったある人物について多くのコメントが寄せられました。「公任さまがいない、何で?」「なにか理由があるのかな?」「公任さまの得意分野なのに〜」「雨宿りのシーンにもいなかったのは寂しい」といった、町田ファンの悲鳴にも似た声が多数アップされている。史実では、今回の道長が開いた曲水の宴の出席者は定かではないので、出席者はオリジナルで選定できるように思うが、町田が多忙でスケジュールが合わなかったなど、何か大人の事情があったのかもしれない。もし、公任が曲水の宴に出席していれば、曲水の宴のシーンがトップ3入りを果たした可能性が大いにある。
(C)NHK
きょう15日に放送される第35回「中宮の涙」では、金峰山の登攀に苦戦する藤原道長・頼通父子や、涙ながらに「お慕いしております!」と、一条天皇への愛をさけぶ中宮・藤原彰子の姿が描かれる。また、久々の登場となるあかね(泉里香)や、恋人・斎院の中将と引き離される藤原惟規など、とても多くの見どころが詰まっている。次回は果たしてどのシーンが最も注目されるのか。
REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら
テレビ画面を注視していたかどうかがわかる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、1日に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合 毎週日曜20:00〜ほか)の第34話「目覚め」の視聴者分析をまとめた。
『光る君へ』第34話より (C)NHK
○伊周、憎々しげな顔を道長に向ける
最も注目されたのは20時38分で、注目度83.1%。藤原伊周(三浦翔平)がどす黒い感情に覆われるシーンだ。
しかし、敦康親王は「要らぬ」と、強い口調で拒絶する。その態度に伊周はもちろん、彰子も驚きを隠せず目を見張った。辺りを重苦しい空気が漂う。
そこに、宮の宣旨(小林きな子)が新たな来客を告げた。「左大臣様のお越しにございます」すると、敦康親王は自ら廊下へと出て、訪れた左大臣・藤原道長(柄本佑)のもとへ駆け寄った。敦康親王の思いがけない行動に、伊周は驚がくの表情を見せる。「いかがされました?」道長に優しく声をかけられた敦康親王は、再びせき込んだ。「あっ…」道長はとっさに敦康親王の背をさすりつつ、ふところから手布を出して口に当てる。その光景を見て伊周は、憎々しげな顔を道長に向けた。
『光る君へ』第34話の毎分注視データ
○辛辣コメント続々「顔しかいいところないじゃん」
注目された理由は、またもや不穏な雰囲気をかもし出している伊周に視聴者の注目が集まったと考えられる。
一条天皇(塩野瑛久)のおかげで、徐々に復権を果たしている伊周だが、道長に比べるとその権力基盤には大きな差が依然として存在する。それでも、息子である藤原道雅(福崎那由他)が蔵人に任官されるなど、少しずつではあるが伊周の足元も固まりつつある。
しかし、道長に対する私怨を募らせる伊周は、以前にも増して人望が失墜しており、甥にあたる敦康親王は伊周よりも道長に懐き、実の息子・道雅からは「父上の復讐の道具にはなりませんから」と、見放されている。
相変わらず人心掌握が下手くそ過ぎる伊周に、X(Twitter)では、「伊周ってやつはいつまでたっても…」「道雅くんが伊周にどえらい反抗心を見せる気持ちも分かる」「伊周はあんなに道長を呪詛していたのに、効果はなかったの?」「伊周、コミュ障すぎる」「本当に顔しかいいところないじゃん」といった辛辣なコメントが多く寄せられた。
今回の火事騒動も黒幕は伊周っぽい描かれ方をしていたが、何をやっても空回りする伊周が、今後どのように行動をエスカレートさせていくのか、彼の悪あがきに注目だ。
一方、物語では道長と敦康親王が今のところ良好な関係を築いている。しかし、史実では彰子が敦成親王(のちの後一条天皇)を出産するとその関係も大きく変わる。皇位継承をめぐって強引なやり方を進める道長に彰子も強く反発する。道長と敦康親王、そして彰子の人間関係が今後どのように描かれるのかに注目だ。
今回、伊周が敦康親王に見舞いの品として持参した『口遊』は、花山天皇(本郷奏多)に仕えていた源為憲が970年に、藤原為光(阪田マサノブ)の子・松雄君(のちの藤原誠信)のために編さんした学習教養書だ。当時の貴族社会で身につけるべき基礎知識を、暗唱しやすい文でまとめられている。子どもたちが遊び感覚で知識を身につけられるという目的で作られた。当時広く流行し、後の「二中歴」や『拾芥抄(しゅうがいしょう)』にも大きな影響を与えている。伊周が敦康親王に期待を込めて『口遊』を用意した気持ちはよく分かるが、相手の気持ちを考慮できない伊周に明るい未来はなさそうだ。
●道長への想いを巡らせ…「若紫」誕生
2番目に注目されたのは20時35〜36分で、注目度80.5%。まひろ(吉高由里子)が、道長より賜った扇から着想を得て、『源氏物語』第5帖「若紫」を書き上げるシーンだ。
曲水の宴の後、まひろは道長から贈られた檜扇を眺めていた。幼いころ逃げ出した小鳥を追う最中、偶然に道長と出会ったあの日のことを思い出す。どれだけ探しても小鳥が見つからずに、泣きそうになっていたまひろに「いかがした?」と声をかけてくれた道長。「小鳥を追っていった先で、出会ったあの人…あの幼い日から、恋しいあの人のそばでずっとずっと一緒に生きていられたら、一体どんな人生だっただろう」と、墨をすりながら、心の中でかなうことのない道長への想いを巡らせた。
庭に目をやると、小鳥が鳴いていた。あの時の小鳥にとてもよく似ている気がした。やがて小鳥は飛び立っていった。次の瞬間、まひろは天啓を得た。今しがたひらめいた情景を書き留めるため、まひろは急いで筆を走らせた。「『雀の子を犬君が逃がしてしまったの。籠をふせて閉じ込めておいたのに』と大層、悔しそうにしています」越前の和紙の上で、「若紫」が鮮やかに誕生した。
(C)NHK
○『源氏物語』ファン勢のテンション爆上がり
このシーンは、『源氏物語』の中でも代表的なエピソード「若紫」の誕生に、『源氏物語』ファン勢のテンションが爆上がりしたと考えられる。
道長から贈られた檜扇をうれしそうに見つめるまひろ。幼いころの思い出を懐かしんでいるうちに、もし道長と結ばれていたらという妄想がどんどん募っていく。かなうことのなかった恋を物語でかなえようとするあたり、陰キャのまひろらしさがよく描かれている。
SNSでは、「とうとう若紫がでてきた!」「幼きまひろの初恋が若紫に続くなんて脚本が素晴らしい」「若紫が降りてきた!」と、若紫の爆誕に多くの反響があった。また、「若紫を読んだ時の道長が見たい!」と、道長が若紫を読んだ時の反応が楽しみという声もあった。
「若紫」は、『源氏物語』でも特に人気の高いエピソードの1つだ。古文の教科書にも掲載されているので知っている方も多いのではないだろうか。主人公・光源氏が北山で美しい少女、若紫と出会う。少女は光源氏が恋焦がれる藤壺によく似ており、光源氏は強く引き付けられる。光源氏は若紫を自分の理想の女性に育てたいと考えるが、若紫の祖母・尼君は若紫が幼すぎるため本気にしない。その後尼君が亡くなると光源氏は半ば強引に若紫を二条院に引き取り育て始めるというストーリーで、のちの物語の展開にも大きな影響を与える。
美しく幼い少女を自分好みの女性に育てるというテーマは現代においても衝撃的で長年にわたって多くの人々を惹き付けてきた。これまで『光る君へ』で描かれてきたまひろの人生が、今後どのように『源氏物語』に落とし込まれていくのか、非常に楽しみだ。
●中宮・藤原彰子、まひろに心を開き始める
3番目に注目されたシーンは20時19分で、注目度79.4%。中宮・藤原彰子がまひろに心を開き始めるシーンだ。
まひろが局に遊びにきた弟・藤原惟規(高杉真宙)の相手をしていると、突然、中宮・藤原彰子が尋ねてきた。帝の正室の急な来訪にあわてながらも、「お呼びくだされば、参りましたのに」と、まひろは彰子を迎える。惟規はすばやく姿を消した。
「藤式部の局が見たいとおおせになって」傍らに侍る左衛門の内侍(菅野莉央)がそう言うと、「そなたはよい」と彰子は冷たく言い放った。「えっ?」驚く左衛門の内侍に、彰子は「下がれ」とだけつけ加えると、左衛門の内侍は何も言えず引き下がった。彰子はまひろと2人だけで話がしたいようだ。
「そなたの物語だが…面白さが分からぬ」すぐに彰子が切り出した。「さようでございますか…」「男たちの言っていることも分からぬし、光る君が何をしたいのかも分からぬ」どうやら年若い彰子には、男というものが理解できないようだ。「はあ…」まひろはどう答えればよいか思案した。
「帝はそなたの物語のどこに引かれておいでなのだろう」「さあ…帝のお心は計り知れませぬ。されど、私の願い、思い、来し方を膨らませて書いた物語が帝のお考えになることと、どこか重なったのやもしれませぬ」まひろは慎重に言葉を選ぶ。「ふ〜ん…」彰子はまひろの言葉を懸命に理解しようとした。
すると「中宮様!」と、敦康親王の大きな声が聞こえた。彰子と遊びたいのだろう。「また来てよいか?」と尋ねる彰子に、まひろは「もちろんにございます」と、笑って答えた。
(C)NHK
○「彰子さまには幸せになってほしい」
ここは、彰子の目を見張るほどの成長に、文字どおり視聴者の視線が集まったと考えられる。
これまでの彰子は、決めゼリフの「仰せのままに」のとおり、周囲にながされ、自分の感情を表に出すことなく生きてきた。しかし、敦康親王を引き取って育て、夫・一条天皇と炎の中で一時とはいえ触れ合い、そして(変わり者の)まひろと出会ったことで、徐々に自分らしさを取り戻しつつある。
ネット上では、「笑顔の彰子さまは最高に可愛らしい」「彰子さまの感情がだんだん表に出てくる様子がいい!」「彰子さまには幸せになってほしい」「『そなたはよい。下がれ』の圧、すごかった」「彰子さまが深窓の姫君から強い女性へ変わっていく道程に魅入られる」と、彰子の成長を喜ぶ多くの視聴者の声がアップされている。
『紫式部日記』によると、史実でも彰子は非常に遠慮がちな性格だったようだ。彰子が中宮となったのは他の后(きさき)や女御との競争が激しい時期だった。彼女は争いを避けるため、徹底して目立たないように振る舞っているうちに、自分の意志を周囲に伝えることができなくなってしまったようだ。闊達な皇后・藤原定子(高畑充希)とはまさに対照的といえる。
まひろは赤染衛門(凰稀かなめ)とともに、彰子に和歌や漢詩を指南した。その際、漢文のテキストとして一条天皇も好んだ『新楽府』を選んでいる。かつて、まひろは弟・藤原惟規に頼み込んで借りた『新楽府』を読んで勉強した。それがきっかけとなり、後に一条天皇と接点をもつに至ったが、彰子と一条天皇の仲を深めるきっかけにもなり得るのだろうか。
定子にとって清少納言(ファーストサマーウイカ)はかけがえのない存在だったが、藤式部も少しずつ彰子にとって大事な存在となりつつある。この後2人は同じ時間を過ごしていくうちに、より強い信頼関係が芽生えていくのだろう。
●大勢の人々が『源氏物語』に夢中
第34回「目覚め」では、1006(寛弘3)年から1007年(寛弘4)の様子が描かれた。幼いころの淡い想いを源氏物語第5帖「若紫」を書き上げるまひろ。一条天皇が夢中になる『源氏物語』を理解しようとする彰子。敦康親王だけでなく、息子である藤原道雅からも嫌われながら、性懲りもなく何かをたくらむ藤原伊周。今回も様々な人間模様が繰り広げられた。
トップ3以外の見どころとしては、まひろが書いた『源氏物語』が内裏で広がりつつある場面が挙げられる。藤原公任(町田啓太)・敏子(柳生みゆ)夫婦、藤原行成(渡辺大知)、藤原斉信(はんにゃ.・金田哲)や女房たちなど大勢の人が夢中になって読んでいる。
その女房の中に、Eテレの人気テレビアニメ『おじゃる丸』の主人公・坂ノ上おじゃる丸役の声優・西村ちなみが筑前の命婦役でひっそりと登場している。西村は『光る君へ』公式Webサイト特集記事の動画で、おじゃる丸の声で「空蝉」の一節を朗読している。
また、成長した藤原道長の長男・藤原頼通も注目を集めている。頼通を演じる渡邊圭祐はアミューズに所属する宮城県出身の30歳。大河ドラマの出演は『光る君へ』が初めてとなる。ネット上でも「頼通さま、さわやかな青年になられた」「めっちゃカッコいい!」「ついに圭祐さんが大河ドラマに!」と、その凛々しい姿が話題になっている。
屋敷が火事に遭い、茫然自失となった藤原斉信、藤原道綱(上地雄輔)のコンビも注目された。「しょんぼり斉信と道綱のLINEスタンプほしい」「金田さんの演技すごい!」「深刻な事態なんだけど、2人のコミカルさがおもしろい!」「弟大好きが揺るがない道綱がスゲェ」と、2人の表情に笑いをこらえきれなかった視聴者が続出した。
そして、SNSでは曲水の宴に登場しなかったある人物について多くのコメントが寄せられました。「公任さまがいない、何で?」「なにか理由があるのかな?」「公任さまの得意分野なのに〜」「雨宿りのシーンにもいなかったのは寂しい」といった、町田ファンの悲鳴にも似た声が多数アップされている。史実では、今回の道長が開いた曲水の宴の出席者は定かではないので、出席者はオリジナルで選定できるように思うが、町田が多忙でスケジュールが合わなかったなど、何か大人の事情があったのかもしれない。もし、公任が曲水の宴に出席していれば、曲水の宴のシーンがトップ3入りを果たした可能性が大いにある。
(C)NHK
きょう15日に放送される第35回「中宮の涙」では、金峰山の登攀に苦戦する藤原道長・頼通父子や、涙ながらに「お慕いしております!」と、一条天皇への愛をさけぶ中宮・藤原彰子の姿が描かれる。また、久々の登場となるあかね(泉里香)や、恋人・斎院の中将と引き離される藤原惟規など、とても多くの見どころが詰まっている。次回は果たしてどのシーンが最も注目されるのか。
REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら