アップルは米国本社で開催したスペシャルイベントにおいて、「iPhone 16」シリーズや発表から10周年を迎えたApple Watchの「Series 10」など数多くの新製品を発表しました。今年も現地でイベントを取材した筆者が、ハンズオンで体験した製品の手応えをホンネでレポートしたいと思います。

 

イベント会場はApple ParkのSteve Jobs Theater。冒頭に現れたCEOのティム・クック氏によると、今年は世界30カ国からジャーナリストやインフルエンサーがイベントに集まったそうです。正式に何名が集ったのか明らかにされていないため、あくまで筆者の感覚ですが、昨年アップルが開催した秋の新製品発表会よりも集まった人の数はぐんと増えた印象を受けました。イベント後に開放されるハンズオン会場も、ものすごい熱気に包まれていました。

↑スペシャルイベントのステージに登壇したティム・クックCEO。近年はCEOによる挨拶の後、全世界に配信されるイベントの動画を集まった皆で観るという流れになっています

 

↑発表会直後のハンズオン会場は“超”が付くほど盛り上がっていました

 

アップルは今回のスペシャルイベントで以下の新製品を発表しています。

【スマートフォン】
・iPhone 16 Pro
・iPhone 16 Pro Max
・iPhone 16
・iPhone 16 Plus

【スマートウォッチ】
・Apple Watch Series 10
・Apple Watch Ultra 2

【オーディオ】
・AirPods 4
・アクティブノイズキャンセリング搭載 AirPods 4
・AirPods Max(USB-C)

 

一方で意外だったことは、例年この時期に発表されてきた、いわゆる「無印iPad」の知らせがなかったことです。

↑Apple Intelligenceの正式ローンチが、日本国内では2025年のどこかになることが発表されました

 

これに関連する話題ですが、アップルは独自のAIモデルによる生成AIサービスプラットフォームである「Apple Intelligence」を6月開催の世界開発者会議「WWDC 24」で発表済みです。ベータ版として米国英語版が年内に公開される見込みのApple Intelligenceには、iPadとApple Pencilによるクリエーションの生産性を高める数々の機能が含まれているとされます。しかし現在、Apple Intelligenceに対応するデバイスの中に無印iPadとiPad miniは含まれていません。なぜなら、両機種とも搭載するチップがAppleシリコンではないからです。

 

iPadとiPad miniは最も広く普及するふたつのiPadですから、Apple Intelligenceの提供が始まった段階で「使える機種がない」ということはないように思います。プロセッサーをAppleシリコンに積み替えた新しいiPadのラインナップを、アップルは最低でも年内発売に向けて用意しているはずです。

 

さて、話題をスペシャルイベントに戻しましょう。今年のスペシャルイベントの発表から、筆者が特に気になった5つの製品と機能に関連するトピックスを順に挙げたいと思います。

 

■今年の本命は「iPhone 16」

iPhoneの最もスタンダードなナンバリングモデルです。6.1インチのiPhone 16と、6.7インチの画面の大きなiPhone 16 Plusが揃いました。Apple Intelligenceのために設計を1から起こしたという高性能な「A18」チップを搭載。この秋に買い換えておけば、今後アップルが発表する様々なAIのサービスなどが快適に楽しめると思います。

↑鮮やかな“ウルトラマリン”の「iPhone 16」

 

カメラは望遠を含むトリプルレンズを搭載したiPhone 16 Proシリーズの方が多機能ですが、iPhone 16シリーズに「超広角カメラによるマクロ撮影(接写)」の機能が搭載されたことは要注目です。光学ズーム相当の2倍ズーム撮影も、メインの広角カメラが高品位な写真とビデオの撮影に対応する48MP Fusionカメラになっており、ベースの画質アップが期待できます。

↑デザートチタニウムの「iPhone 16 Pro」

 

iPhone 16 Proシリーズは4色が揃うチタニウムボディのカラバリが1色入れ替わり、ブルーチタニウムの代わりに上品なデザートチタニウムが加わりました。一方でiPhone 16シリーズには鮮やかなウルトラマリン/ピンク/ティールを含む5色(ほかホワイトとブラック)があります。筆者は仕事がらProシリーズのiPhoneを買うことになるとは思いますが、クオリティアップとともにできることが増えて、カラバリも充実するiPhone 16シリーズがとても気になっています。実際のところ6.1インチのiPhone 16が、秋以降に一番売れるモデルになりそうです。

 

■期待を超えてきた「カメラコントロール」

iPhone 16世代の全4機種が共通搭載する、写真・ビデオ撮影のための「カメラコントロール」は、筆者の期待を超える魅力的な新機能でした。

 

カメラのシャッターとして機能する物理ボタンを備えるスマホは、特段珍しくはありません。iPhoneもカメラアプリを起動中に音量ボタンを押すと、写真・ビデオ撮影のシャッターとして機能します。しかし、カメラコントロールはシャッター操作の「その先」にも踏み込んだユーザーインターフェースです。

↑iPhone 16世代の4モデルが本体の側面に搭載する「カメラコントロール」

 

iPhoneの側面に搭載されたカメラコントロールには感圧センサーと静電容量センサーが内蔵されています。ボタンをぐっと押し込む、または表面をスワイプする操作により、iPhoneのカメラが搭載する様々な機能を選んだり、ズームや被写界深度の設定を変更したりできます。例えば、iPhoneのカメラアプリで撮影する写真に色合いやトーンのひと工夫が加えられる「フォトグラフスタイル」は、iPhone 15 Proなどの場合は少し入り組んだ所に配置されていました。iPhone 16世代のモデルはカメラコントロールから素早くアクセスできるというわけです。

 

カメラコントロールはiPhone本体を縦と横のどちら向きに構えた状態でも使える機能なので、使いこなせば一段と”映える”写真やビデオが撮れるようになると思います。「そんなこと言ったって、iPhoneのカメラはシャッターを押すだけでキレイに撮れるからいいじゃんか」と思われるかもしれません。実際そうではあるのですが、iPhoneフォトグラファーとしての自分の可能性を広げたいなら、iPhone 16シリーズを買った際はぜひ「カメラコントロール」を使ってみるべきです。

↑写真・ビデオの撮影時にはカメラコントロールからズーミング操作が素早くできます

 

↑iPhoneを縦に構えた状態でもカメラコントロールが活躍します

 

■魅力いっぱいの対抗馬は「Apple Watch Series 10」

iPhone 16に負けない魅力を放っていたのは、2014年にアップルが初のApple Watchを発表してから10年のアニバーサリーを迎えた「Apple Watch Series 10」です。ケースの素材は「アルミニウム」と、ステンレスに代わって「チタニウム」の2種類になりました。

 

↑アルミニウムケースの「Apple Watch Series 10」、ケースサイズは46ミリ。艶やかに輝くジェットブラックの魅力に抗える人はいないでしょう

 

イチオシはアルミニウムケースの新色「ジェットブラック」です。2016年にiPhone 7/7 Plusを購入した方々は懐かしく感じる名前かもしれません。グロッシーな光沢感あふれるブラックがApple Watchとよくマッチしています。チタニウムケースの輝きももちろんゴージャスなのですが、あちらはスタート価格が10万円を超えてくるなど、アルミニウムより倍近く高価であることは無視できません。アルミニウムのApple Watch Series 10は、59,800円(税込)から買える「Appleの最も身近な最新デバイス」です。

 

本体はSeries 9よりも薄く・軽くなり、ディスプレイのサイズが拡大しました。ソフトウェアキーボードをタイピングしやすくなったので、簡単なメールやメッセージの返信はもはやiPhoneをバッグやポケットから取り出さず、Apple Watch Series 10で完結させるスタイルがこれからの常識になりそうです。

↑チタニウムケースのApple Watch Series 10

 

Apple Watch Series 10と、Apple S9チップを搭載する「Apple Watch Ultra 2」、「Apple Watch Series 9」のユーザーは、9月中のソフトウェアアップデートにより睡眠時無呼吸症候群の兆候をApple Watchでチェックする機能が使えるようになります。Apple Watchを身に着けて眠る間、ウォッチに内蔵する加速度センサーで「呼吸の乱れ」が計測され、リスクが観測された場合はヘルスケアアプリを通じてユーザーに通知が届くという仕組みです。ヘルスケアアプリに集まった計測データをPDFに出力して、専門医に相談できる機能もあります。働き盛りの世代にとって、またひとつApple Watchが手放せなくなる理由が増えそうです。

 

■ダークホースだったノイキャン搭載の「AirPods 4」

 

イベントの開催前から、ワイヤレスイヤホンの「AirPods」に新製品が加わるというウワサは聞こえていました。筆者はAirPods Maxの新製品を予想していました。開放型のAirPodsが代替わりする可能性も想定していましたが、まさかアクティブノイズキャンセリング機能を載せてくるとは思いませんでした。

↑「AirPods 4」のノイキャン効果が絶妙でした

 

通常、アクティブノイズキャンセリング機能を搭載するイヤホンは「AirPods Pro 2」のように、イヤーチップで耳栓をして、音が生まれるスピーカー部(ドライバー)の周囲の殻を密閉構造にした製品が主流です。開放型でノイキャン搭載という製品も珍しくはありませんが、十分な遮音性能が得られる製品はあまり多くはありません。

 

アクティブノイズキャンセリング機能を搭載する「AirPods 4」は十分に高い遮音効果が得られるうえ、低音域から高音域までバランスの整ったサウンドがどんなタイプの楽曲にもフィットします。装着感も前身である「第3世代のAirPods」に比べて万人にフィットしそうな心地よさでした。ちなみに、アクティブノイズキャンセリング機能を非搭載にして価格を8,000円落としたAirPods 4もラインナップされていますが、これぐらいの価格差であれば、騒々しい場所で音楽リスニングやハンズフリー通話にも快適に使える「ノイキャン付き」の方を選ぶべきです。

 

■奮起を促したい「AirPods Max」

今回のイベントで発表された新製品の中で、筆者が少しガッカリしてしまったのが「AirPods Max」です。価格は据え置いて、新しいカラバリを揃えた所までは良いのですが、中身の変化があまりに少なかったからです。デジタル端子がLightningからUSB-Cになり、充電ケーブルがiPhoneやMacと共通になったことは歓迎すべきポイントなのですが、Apple Musicのカタログに並ぶ「ロスレス/ハイレゾロスレス」のコンテンツ再生に対応していない可能性があります。

↑明るいオレンジの「AirPods Max」。その実力は今後明らかにしていく必要がありそうです

 

プレスリリースではUSB-Cは充電専用をうたっています。筆者が取材により得た情報では、将来ソフトウェアアップデートでUSB-C接続による有線再生も可能になるとのことですが、ロスレス再生の可能性については現時点で調べ切れていません。今後製品を取材できる機会があれば報告したいと思います。

 

エキサイティングな情報が盛りだくさんだった、アップルのスペシャルイベント「Glowtime」を振り返ってみました。また実機レポートなどを通じて製品の詳細を報告していきたいと思います。