「認知症」はワクチン接種で防げる!? 肺炎球菌ワクチンでリスク減少 調査で明らかに
新潟大学らの研究グループは「約1万人の高齢者を3年半追跡した結果、肺炎球菌ワクチンを接種していた人は接種しなかった人と比べて認知症を発症した割合が23%少なかった」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。
≫【イラスト解説】認知症になりやすい人の“口癖”監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
研究グループが発表した内容とは?
新潟大学らの研究グループが発表した内容を教えてください。
中路先生
今回紹介するのは新潟大学らの研究グループが発表したもので、研究結果は学術誌「Brain, Behavior, and Immunity」に掲載されています。
研究グループは、2013年に65歳以上で要介護認定を受けていない約1万人の高齢者を対象に、認知症の発症に影響する可能性がある年齢、性別、教育歴、婚姻状況、家族構成、喫煙、飲酒、高・中・低強度の運動の頻度、BMI、心臓病、高血圧、糖尿病、耳の病気、呼吸器の病気、老年うつ、フレイル、肺炎およびインフルエンザの罹患歴、ワクチン接種歴、社会的つながりについての調査を実施しました。さらに、2016年には、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの接種に関する調査もおこない、2016年の調査後の3年6カ月または6年5カ月にわたって、認知症による要介護認定を受けたかの追跡調査を実施しました。
調査の結果、3年半の追跡期間で肺炎球菌ワクチンを接種したグループは、接種しなかったグループと比べて認知症が23%減少していたことが明らかになりました。一方、インフルエンザワクチン接種では、肺炎球菌ワクチンを接種した人を除いても、接種した人と接種しなかった人の間で認知症発症に統計学的に有意差はなかったとのことでした。これらの結果は、6年5カ月の追跡期間においてもほぼ同じでした。
今回得られた結果と今後の展望について、研究グループは「今後、ワクチン接種が認知症予防に効果があるのかについて、無作為抽出試験などで検証する必要があります。また、ワクチン接種がどのようにして免疫システムや脳神経に働きかけて認知症を予防するのか、明らかにする必要があります」とコメントしています。
研究を実施した背景とは?
今回の研究がおこなわれた背景には、どのようなものがあったのでしょうか?
中路先生
認知症の高齢者は世界中で増え続けており、日本では要介護になる最多の原因となっています。認知症予防には禁煙や運動、社会的つながりの維持が効果的であると考えられている一方、「インフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹などのワクチン接種を受けた高齢者は、ワクチン接種を受けていない高齢者と比べて認知症が少ない」という報告が最近相次いでいます。ここに研究グループは着目しました。
アメリカ、イギリス、台湾の高齢者を対象にした報告の中で、認知症の減少と関係するという結果が最も多かったのは、インフルエンザワクチンでした。しかし、これらの国々では、多くの高齢者がインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの2つのワクチンを接種しているため、どちらのワクチンが認知症の減少と関係しているのか不明でした。そのため、研究グループはインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンのどちらが認知症の減少と関係するのかを調べました。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
新潟大学らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
中路先生
高齢者の認知症と肺炎球菌のワクチン接種の関連を明らかにしたことは、素晴らしいと考えます。しかし、肺炎球菌のワクチン接種が認知症予防に直接効果があるのかはわかりません。また、肺炎球菌のワクチン接種がどのようにして認知症を予防するのかの仕組みについても現時点で不明です。これらについて、さらなる追加研究が望まれます。
まとめ
新潟大学らの研究グループは、「約1万人の高齢者を3年半追跡した結果、肺炎球菌ワクチンを接種していた人は接種しなかった人と比べて認知症を発症した割合が23%少なかった」と発表しました。認知症をどう予防するかについては、国を挙げて取り組むべき大きな課題なので、今回の研究結果も注目を集めそうです。
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