定期的に上司(マネージャー)と部下が行う1対1の面談「1on1ミーティング」。多くの企業が導入する取り組みだが、「何を話したらいいのかわからない」と悩むマネージャーもいるのではないだろうか。社員の個性・才能を発掘し戦略人事を加速させる"タレントマネジメントシステム"を提供するカオナビのアカウント本部 エンタープライズビジネス部 部長の野田和也氏に解説してもらった。

「1on1で話すことがない」マネージャーの悩み



Q.「若手メンバーとの1on1で話すことが見つからず、雑談や日常業務の進捗確認で終わってしまいます。これでいいのでしょうか?」(30代後半・会社員・管理職)

A. 野田氏の回答

若手メンバーとの雑談も大事ですし、業務に追われて1on1がタスクマネジメントの場になってしまうこともありますよね。決して「ゼッタイにダメ!」というものではないと思います。ただ、「話すことがないから」という部分が気になりますね。

1on1はノウハウ自体が属人化しやすく、要点を掴めずに困っている方は意外に多いです。そういう方は、そもそも1on1とは誰のために、何を目的として行う場なのかを改めて見つめ直すことをオススメします。

まず「1on1はメンバーのために使う時間であり、当事者同士が互いに理解し合い関係を円滑にするための時間である」、これが大前提です。

その上で、ピープルマネジメントに特化した場として、彼らの個性や能力を引き出していくための関わりを、「上司と部下」という枠組から一時的に離れて行います。なので、本来1on1では、メンバーのメンタルケアや一人では把握できない課題の整理、中長期的なキャリア自律への支援が主な内容になります。

これらを念頭に置いた上で、冒頭の相談を考えてみましょう

「1on1で話すことがない」とは、どういうことか

1on1はメンバーのための時間です。つまり、メンバーが主体的に話したいことを決める時間であり、マネージャーはメンバーの話を引き出す役、あくまで伴走者です。「最近調子どう?」とアイスブレイクからスタートし、メンタルケアや抱える課題を相手が話せるようにしていくもの。ですから、「自ら話題を決めなければ、話をしなければ」と気負っていたのなら、「そんなに意気込んで話そうとしなくて大丈夫」というのがお答えになります。



しかし、「1on1の目的であるメンバーの内的な課題にまで話がつながらない」「本音が引き出せない」という意味合いで冒頭の悩みを持つ方もいるでしょう。この場合、もしかすると1on1という枠組みにとらわれすぎているのかもしれません。

日頃話ができていないメンバーとの1on1でいきなり相手が本音をさらけ出すことは、まずありません。土台は何気ない日常会話で醸成される信頼関係ですから、まずその土台づくりを大事にしましょう。飲み会、オンライン朝会、取引先への移動中の雑談、そんな中でポロッと出てくるやりたいことや好きなこと、プライベートな情報が1on1の糸口にもなりますし、そのまま1on1でするような深い話に発展していく場合もあります。

日常的なコミュニケーションが充実した結果、メンバーが「先日悩みについて聞いてもらったので、今日話すことはありません」と言うなら、1on1を短く切り上げてもいいんです。また、緊急度の高いタスクを抱えている状況なら「今日はこれで切り上げて、次回落ち着いて話を聴く時間にしようか?」と、切り出しづらい選択肢をこちらから提示してあげてもいいはずです。

自分一人の1on1で解決しなくてもいい

ただ、日常の会話が大事とは言っても人と人なので、相性も当然あります。私も過去に1on1で「話すことがない、話が弾まないな」と悩むこともありました。

しかし、その場合でも難しく考える必要はありません。なにより重要なのは、そのメンバーのメンタルケアを疎かにしないこと、どのような状況にあるかの聴き取りを不足させないことです。

マネージャーは担当するメンバーのケアや人となりに関わる情報を一人で抱え込まず、他のマネージャーや人事部などと連携し、チームでメンバーをフォローしていけばいいのです。

そうした体制を築くとともにタレントマネジメントシステムなどを活用することで、マネジメントラインが変更になった場合でもスムーズに情報が引き継がれます。新しい上司に情報が伝わっておらず「またここから話すのか」というメンバーの徒労感を引き起こす事態は防げますし、新しいマネージャーも「情報不足で1on1で話すことがない」とはならないはずです。



1on1は手段、「メンバーのため」に集中しよう

総合的なコミュニケーションフローの中でリアルタイムにメンバーをフォローできる1on1が機能すると、上司が部下の退職や異動希望を把握していない、いわゆる「ビックリ退職」や「ビックリ異動」は非常に起こりづらくなります。それはメンバーが自身の価値観や置かれた状況、秘めた思いを吐露できている状態になるからです。

だからこそ、どうか1on1に囚われすぎないでほしいのです。メンバーの希望やマインドを理解し、それを叶えてあげられるように思考すれば、日常的なコミュニケーションやフォローアップの体制づくりなど、やるべきことが見えてくるはずです。

野田和也(カオナビ) 株式会社カオナビ アカウント本部 エンタープライズビジネス部 部長 慶應義塾大学卒業後、新卒で大手コンサルティング企業に入社し、デジタル部門のコンサルタントとしてCRMプロジェクトなどを担当。その後カオナビに入社、開発からセールス・サポートまでの事業戦略策定に従事。マネージャーとして、多数の自治体、エンタープライズ企業を支援した後、同部門の部長に就任、現在に至る。 この著者の記事一覧はこちら