アリは意外と厄介な侵入者(画像提供:さうすさん)

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「家に小型のアリが侵入して、寝ている時に肌を咬まれたりして非常に煩わしい。とはいえ、対策をするにはまず敵をよく知る必要がある。というわけで、このアリを手順を踏んで慎重に同定することにした」

【写真】アリを駆除するにはまず、アリの種類を確認…こんな方法で!?

アリの自宅住居への侵入に悩むさうすさん(@sagittaria251pg)がXに投稿。どうしたら駆除できるのか!?というところからスタートしたアリの観察日記が「これはもう夏の自由研究の域では!?」と思うほどの面白さ! 筆者と同じく興味津々で続投を首を長く待ちわびて読んだ人たちも多かったようで、132万PVを超えるほど注目されました。

駆除するために敵を研究、アプローチが面白過ぎる!

「素晴らしい防除方針だと思います。感服しました」
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」
「凄いです。今年の自由研究終わりましたね」
「ルリアリ、家電に入るんで注意した方がいいです。パソコンとか…」
「なんか新種の蟻でも発見しそうだな」
「科学的でスゴく知識が増えた」

驚く人が続出したさうすさんの観察方法はこのようなものでした。

アリの種類はナニ?特定するために、体を細かく観察開始!

まずは、家に侵入したアリが、どこからなぜ入ってくるのか徹底調査。

「このアリが目につくようになったのは記憶が正しければ5月の終わり頃だったかと思う。あまり気密性の高い家ではないので夜遅くまで電気をつけていると窓の隙間からユスリカなどが屋内に入ってきて、そのまま死ぬ。このアリたちはそういった羽虫の死骸を回収しに来ているようだ」

侵入経路は窓の隙間と判明。次に、アリの種類を調べるべく、特徴を観察。

「アリの特徴(自分視点)。体長は3mm程度で、体色は黒く腹部に艶がある。脚のふ節が淡褐色。見かける時は大抵列を成して歩いているか、虫の死骸に群がっている。アリの図鑑が手元にないので、インターネットリソース(日本産アリ類画像データベース)からこの種を検索を行った」

そんなデータベースあるんかい!と突っ込みたくなりますが……。まずアリの種類を特定するために「腹柄の節の数」を観察せねばならないらしい。

「今回のアリの腹柄(画像1枚目)を観察すると、腹柄が一節であることがわかる。(参考に、腹柄が二節になっているアリの写真を横に並べます)」

おお、写真で見ると確かに腹柄といわれる部分が一節になっています。ちなみに、腹柄が二節になっているアリの写真を比較のため並べているあたりが心得ています。さらに進む調査。

「『体が黒い』、『体は円筒状ではない』、『(解剖をしたわけではないが)刺針がない』などの特徴から、4つの亜科が除外される。したがって、ヤマアリ亜科とカタアリ亜科に絞られた」

もはや専門的すぎて分かりませんが、ヤマアリ亜科とカタアリ亜科のいずれかのようです。さて、ここからどう区別するのか?

「ヤマアリ亜科とカタアリ亜科を分ける明確な基準は記述されていないが、この種が『働きアリの単眼を欠く』『3mmの小型種』『触角が12節』なことから概ねカタアリ亜科の特徴に合致するので、こちらから先に探してみることにした」

ええ!あの小さなアリの触覚の節を、正確に数えるさうすさんを尊敬します。

「すると、5つの属に絞られることがわかった。データベースの写真と今回の種を見比べ、色やプロポーションから最も形態的に近いと判断したルリアリ属を開いてみる。『腹柄節が鱗片状で高く薄い』『腹部第1節は腹柄節におおいかぶさらない』『頭部と胸部の体表に明瞭な点刻を持たない』」

「日本産ルリアリ属は、現在ルリアリ一種しか確認されていないようで、ひとまずルリアリと同定した。ふつう草地や林縁部の枯れ枝、朽ち木中、石下などに営巣するが、鉄道の信号機の隙間に侵入して作動不良を引き起こす事例もあるようで、今回家に入ってきたのも納得」

おお、さうすさんの調査結果ではさまざまなアリの体の特徴から、ついに侵入者はルリアリと判明!いやしかし、さうすさんは一体何者?と思うほど、緻密な調査に興味が湧いてしまいます。ご本人にお話を伺いました。

「防虫目的」でアリを徹底調査!

ーーすごい調査でしたね。さうすさんは虫にお詳しいようですが、昆虫観察が趣味ですか?

「はい、今は昆虫観察は趣味ですが、大学生の時は昆虫(カナブンの幼虫)が落ち葉の分解に及ぼす影響を研究していました」

ーーやはり研究経験があってこその今回の投稿なんですね。いつも防虫や害虫駆除する時は、このように観察から入るアプローチをされるんですか?

「これまで積極的に今回のようなアプローチで虫対策をしたことはなかったのですが、コバエやゴキブリの天敵となるクモの仲間を、あえて駆除せず招き入れるようにはしてきました」

ーーええ!面白いですが、ちょっと怖いような…(笑)!どうして殺虫剤を使うことはしないんですか?

「今回の件について、なぜ殺虫剤を使わないのか?と思われる方もいらっしゃるかと思います。使わないのは『他に生き物を飼っているから』『全滅させるとかわいそうだから』という理由ももちろんありますが、それ以上に『昆虫の生態に基づいて戦略的に防虫するのも面白そう!』という興味からですね」

ーー今回はルリアリにどような対策をされたんでしょうか?

「防虫対策として、消灯時間を早めること、こまめな掃除を行いました(遅くまで明かりを付けていると部屋に羽虫が入ってきて、アリの餌になるため)。また、Xで投稿をご覧になった方から『ルリアリがティッシュを好む』ことを教えてもらったので試してみました。あえて侵入口にティッシュを置くことで、ルリアリがそこに留まって部屋に入ってこなくなりました。これらの対策によって以前ほどは見かけなくなりましたね。ただ侵入口が複数あり、それらを塞がないことには侵入をゼロにできないので、まだまだ戦いが続きそうです」

今回は駆除せずに、侵入口を塞いで防衛したさうすさん。とはいえ、アリは時には人を噛んだり、食品を食べたりと意外と厄介なもの。どういう対策が有効か、アース製薬のご担当者の方にも聞いてみました。

害虫のプロによる、アリ駆除へのアプローチは?!

ーー今回、家屋に侵入したのはルリアリではないかと同定されていましたが、正しいですか?

「はい、送っていただいた写真は特徴からも、『ルリアリ』だと思われますという」

ーーお、すごい。正解だったんですね!ではアリは人に害を及ぼすんでしょうか?

「砂糖や食品に集まり、まれに人をかむ種類もあるので注意が必要です。さらに、特定外来生物の危険な『ヒアリ』や『アカカミアリ』、攻撃性が非常に強いので在来種を駆逐して生態系を破壊するとも言われている『アルゼンチンアリ』を見つけたら注意してください。

『ヒアリ』や『アカカミアリ』は刺されると火傷のような激しい痛みを生じます。毒性が強く、毒針で刺されるとアレルギー反応で死に至る危険性があります。『アルゼンチンアリ』は1つの巣にたくさんの女王アリがいて繁殖力がとても強く、食欲旺盛で雑食。大軍団を形成するのも特徴です。土の中だけでなく、どんな場所でも巣をつくる上、攻撃性が非常に強いです」

ーーやっぱり外来種は怖いですね。一般的に家でよく見かけるアリは、どんな種類なんでしょう?

「アリはその食性から「雑食性」と「吸蜜性」に大きく分けられます。『雑食性のアリ』は、虫の死骸を好みますが、蜜も舐めます。エサを持って運んでいるのは大抵がこのタイプ。民家の周辺でよく見られ『トビイロシワアリ』『イエヒメアリ』『オオズアリ』『ルリアリ』などです。

『吸蜜性のアリ』は、主に砂糖やアブラムシが分泌する蜜を食べています。エサを持って運ぶことはあまりなく、雑木林といった緑の多いところにいます。種類としては『アミメアリ』、『トビイロケアリ』などです。

アリの生態はさまざまですが、基本的には、一つの巣に女王アリ1匹いて、春から初夏にかけて卵を産み続けます。夏にはオスとメスの羽アリが羽化して結婚飛行に出かけ(6月以降)、新たな場所にコロニーを作るのが特徴です。この羽アリはシロアリの羽アリとは別で、シロアリの羽アリは4〜6月に見られます」

ーーやはりいろいろ種類によって好むエサにも違いがあるんですね。面白い

「そしてアリは社会性を持った昆虫で、女王アリを中心に全てのアリが役割を持って集団で生活しています。化学物質(フェロモン)で仲間と情報交換をし、エサの場所や危険を知らせているのです。見つけたエサは、エサの持ち運びのために使う体内組織『社会胃(消化吸収をしない)』に貯めて巣に持ち帰り、仲間に分け与えます」

ーー咥えて運ぶのかと思っていました!運搬用の胃に貯めて持ち帰れるとは…!

「弊社がつくっているアリの忌避・駆除剤『アリの巣コロリ半生タイプ』は、まさにこの習性を活用したものです。強力誘引剤を使用し、駆除エサ剤に食いついたアリが巣に持ち帰り、他のアリにも分け与えることで、女王アリや働きアリ・幼虫などにも効きめが広がり、巣ごと全滅させます」

ーー置くだけでいいので便利ですね。でも、とりあえず家に侵入したアリをどうにかしたい時は、蚊などに有効ないわゆる駆除剤で駆除することはできないんでしょうか?

「巣から出てきているアリを見つける度に駆除するより、前述のように巣に持ち帰ってエサを仲間に分け与える働きアリの習性を利用する方が良いと思います。そしてスプレー式の駆除剤は噴射力がありアリを吹き飛ばしてしまうことが多いので、確実に駆除できる専用のものを使うのがおすすめです」

ーー薬剤で駆除せずに家に入れない方法はありますか?

「アリは、小さな穴や隙間から家の中に侵入すると考えられます。もし侵入口が特定できるなら、パテで埋めるなどして塞ぐことで阻止できます。しかし実際には、人が確認しづらい場所だったり、侵入口がとても小さかったりするので、特定は簡単ではありません。そんな時は、玄関やサッシなど、アリが入って来そうな場所や、以前見かけた場所に、侵入防止効果のある『アリアース1プッシュ式スプレー』などを使用してください」

やはりプロがつくるアリの忌避剤も、その生態を研究し、習性を利用して開発されているんですね。敵を知るって大事!

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・東寺 月子)