虫刺され(虫刺症)
虫刺され(虫刺症)の概要
虫刺されは、虫による吸血や噛まれたり、刺されたりすることで現われる症状であり、虫刺症とも呼ばれます。
虫刺症を引き起こす蚊やハチ、ムカデなどは私たちの生活の身近に存在しており、屋外のレジャー活動が盛んになる夏場は虫刺症が起こる機会が多くなります。
虫刺症では、かゆみや痛みなどの症状が見られます。症状が悪化すると皮膚の炎症や細菌による二次感染につながったり、アレルギー反応を示すこともあります。
また虫の種類によっては、危険な感染症を媒介していたりする可能性もあるので注意が必要です。
虫刺され(虫刺症)の原因
虫刺症の原因は、虫の唾液成分や毒に対するアレルギー反応です。
人の体には侵入してきたものを異物と見なす仕組みが備わっています。虫に刺されて体内に入った唾液成分は、抗原(アレルゲン)というアレルギーの原因となり体内に存在する抗体と反応します。このときにマスト細胞から放出されるヒスタミンは、かゆみの主な原因となり、刺された場所に血管拡張作用をもたらし、皮膚の腫れを引き起こします。
またかゆみで肌を掻いてしまうと、さらにヒスタミンが分泌され、かゆみが増します。これを繰り返すと傷口が広がって炎症が強くなると掻き壊しという状態になり、皮膚に痕が残ってしまう場合があります。
毒による虫刺症の場合でも、唾液成分の場合と同様にヒスタミンが放出され、かゆみの症状が現れます。それに加えて、毒液の成分や刺されたことによる痛みが生じますが、人によって毒の抗体が作られる人と作られない人がいます。
ハチに刺された場合、ハチ毒に対する特異的IgE抗体が作られる人は約20%と言われています。(出典:厚生労働省 林業従事者における蜂さされ症例の研究)
抗体がある状態で再度ハチに刺されると、アナフィラキシーショック(強いアレルギー反応を示すことにより血圧低下や呼吸困難といった症状を引き起こす状態)を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
ハチの毒の場合、刺されてから30分から1時間でアナフィラキシーショックにより死に至る危険性があります。
ハチに刺されてからの1,2年間はアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が高いので、特に注意が必要です。
虫刺され(虫刺症)の前兆・初期症状について
虫刺症は、刺された直後から患部のかゆみや痛み、腫れなどの症状が現われます。
またアナフィラキシーショックの初期症状としては、かゆみやじんましんなどの皮膚症状があり、喉の違和感や息苦しさ、血圧低下による胸のドキドキなどの症状が現われる場合もあります。早急に医療機関を受診しましょう。
虫の唾液成分によって症状が現れる場合は、直後からかゆみや腫れといった症状が現われます。蚊やアブ、ブユ、ダニ、トコジラミなどによる虫刺症がこれに当てはまります。
毒液をもつ虫に刺されたり、噛まれた場合には、直後から激しい痛みとかゆみの症状が現われます。 ハチやムカデに2回以上刺されたことがある場合は、アナフィラキシーショックを引き起こす危険性があるため注意が必要です。
そのほか毛虫の中には、毛に毒を含んでいる種類もいます。毒を持つ毛虫に触れると皮膚炎をきたし、強いかゆみを引き起こします。
虫刺症の症状は、1週間から2週間程度で改善しますが、虫の種類によっては媒介する感染症にも気をつける必要があります。
草むらに生息しているマダニは、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)ウィルスを媒介している場合があります。重症熱性血小板減少症候群は1週間の潜伏期間を経て発熱症状が現われ、死に至る危険性がある恐ろしい病気です。
またコロナ後の人流の増加や近年の気候変動の影響を受けて、世界的にデング熱が流行しています。デング熱は2-14日の潜伏期間を経て急激な高熱を発症し、頭痛や筋肉痛、関節痛を発症する感染症です。 流行地域である熱帯・亜熱帯地域に属するアジアや中南米、アフリカなどに渡航する際には、デング熱を媒介する蚊に刺されないような対策をしましょう。
虫刺され(虫刺症)の検査・診断
虫刺症では症状が軽い場合は、検査を受ける必要はありません。
ただ、じんましんや皮膚の症状がひどく治りが遅い場合や発熱症状などが現われた場合には、皮膚科を受診するようにしましょう。
虫刺され(虫刺症)の治療
虫刺症になった場合の応急処置や治療は、虫の種類によって異なります。
蚊やアブ、ブユなどの虫の場合は、かゆみが生じやすく患部を掻くことで掻き壊しという状態になり、皮膚のバリア機能が低下します。
掻き壊しになると細菌感染のリスクが高まり、離れた部位に症状が広がる伝染性膿痂疹(とびひ)や、炎症が筋膜まで広がると蜂窩織炎(ほうかしきえん)という病気につながる可能性があります。症状を悪化させずに早く治すためには、患部を掻かないことが大切であるため、かゆみ止め薬の使用や、症状が強い場合にはステロイド外用薬を使用すると効果的です。
ハチやムカデに噛まれた場合の応急処置では、できるだけ早く患部を流水で洗い流し、注入された毒を絞り出すことが大切です。
毒針が患部に残っている場合は、素手で抜くと毒針を深く差し込んでしまったり、針に残った毒を体内に流してしまったりする可能性があります。ピンセットで抜き、刺された場所は痛みを和らげるために氷や保冷剤などで冷やしておくと良いです。
またハチの毒により何かしらの全身症状が出た場合には、アナフィラキシーショックを疑い、アナフィラキシーショックの治療で使われるアドレナリンを含むエピペンという治療薬の使用が効果的です。
エピペンを使用した場合は、症状の程度に関係なく必ず病院を受診し、医師に使用した旨を伝えましょう。
また屋外でダニに噛まれた場合は、無理に自分で抜いてしまうとキレイに除去しきれない場合があります。感染症のリスクもあるため、無理に自分で除去せず、速やかに医療機関を受診しましょう。
虫刺され(虫刺症)になりやすい人・予防の方法
蚊は二酸化炭素や体温、汗を感知して人に近づきます。このためお酒を飲んでいる人や、汗をかいている人、体温が高い人は蚊に刺されやすい傾向があります。そのほか黒い色の洋服や、足の臭いにも反応して蚊は寄ってくることがわかっています。
ハチの場合は、嗅覚が発達しているため匂いに引き寄せられる特徴があります。香水や化粧品、お菓子や飲み物などの甘い匂いはハチを引き寄せる原因となります。またハチも蚊と同様に黒い色に反応して寄ってくる特徴があります。
屋外で活動をする際には、虫除けスプレーを全身にムラなく塗ることが大切です。
虫除けスプレーの上に日焼け止めを使うと、虫除けの効果が薄れてしまうため、日焼け止めを塗った上に虫除けスプレーを使うようにしましょう。
服装に関しては、汗をかかないような通気性の良いものや白い服を選ぶと、蚊とハチの対策に効果があります。
蚊の対策としては、足の臭いが発生しないように足を清潔に保つことが大切であり、ハチ対策としては、匂いの強い香水の使用を避け無香料のものを選ぶと効果的です。
関連する病気
皮膚炎アナフィラキシーショックデング熱伝染性膿痂疹(とびひ)
蜂窩織炎
参考文献
厚生労働省
日本皮膚科学会 虫さされ