Oasis「Knebworth 1996」/Big Brother Recordings Ltd.

写真拡大

オアシスの再結成にファン熱狂
 イギリスのロックバンド、オアシスが再結成してコンサートツアーを行うと8月27日にバンドの公式Xで発表しました。ノエルとリアムのギャラガー兄弟の不仲で2009年に解散を宣言して以来、15年ぶりの“和解”に音楽ファンが沸いています。

 イギリスとアイルランドで行われるツアーのチケットは10時間でソールドアウト。購入希望者が殺到し価格が高騰してしまった状況をイギリス政府も問題視するほどの社会現象になっているのです。

 オアシスは1994年のデビューから世間を騒がせてきました。ファーストアルバム『Definitely Maybe』は発売した週に全英チャート1位を獲得。そして翌95年のセカンドアルバム『(What’s the Story)Morning Glory?』でワールドワイドな人気を得ます。現在までに2200万枚以上のセールスを記録し、人気を不動のものにしました。

 その一方で度重なる兄弟喧嘩と問題発言で取り上げられることもしばしば。良くも悪くも、オアシスがメディアをジャックしているという時代があったのです。

 しかし、オアシスはゴシップ的な興味だけでスターになったわけではありません。ブラー、パルプ、スウェードなどイギリスの同時代のバンドと比較しても段違いの盛り上がり方です。

◆いまも人びとを熱狂させる理由とは?

 デビューから30年経ったいまも人びとを熱狂させる理由はどこにあるのでしょうか? 彼らの音楽から考えてみたいと思います。

 かつて、スタジオでノエル・ギャラガーとブラーのデーモン・アルバーンの姿を見たポール・マッカートニーが「ここにいるのはリトルビートル(筆者註・ビートルズもどきの意)ばかりだな」と皮肉を言ったことがあるそうです。

 これは当時隆盛を極めた“ブリットポップ”という音楽スタイルを揶揄したもの。ポールからすれば、“何も新しいことをやっていないじゃないか”と言いたかったのですね。

 この発言に象徴されるように、オアシスの音楽は決して斬新なものではありませんでした。ギターは簡単なコードをかき鳴らし、無骨なリズムがズンドコズンドコ繰り返される。永遠の初心者のようにたどたどしくギターソロを弾くノエル。リスナーを驚かせるような編曲上のアイデアも何一つありません。

 しかし、この洗いざらしのシンプルさが、逆に新鮮に受け入れられました。演奏は下手くそ、中流階級出身者のようにハイセンスな文化資本もない。唯一の武器は、みんなで歌えるメロディを書けることでした。

オアシスが他のバンドと一線を画す要素

 90年代は、社会の閉塞感を陰鬱なサウンドで体現したアメリカのグランジロックや、センスと手際の良さで様々なジャンルをまとめたミクスチャーロックやアートロックなど、多くの個性豊かなバンドが活躍する時代でした。しかし、高度な音楽性を追求していくなかで抜け落ちてしまったものがある。それが、歌えるメロディだったのです。

 見ず知らずの人間同士をつなぎ合わせる大合唱。この音楽への原始的な情熱を掻き立てる力こそ、オアシスが他のバンドと一線を画す要素なのです。

「Don’t Look Back In Anger」、「Wonderwall」、「Whatever」、「Live Forever」、「Champagne Supernova」、「Morning Glory」などなど。これほどまでに歌える曲を持つバンドは他にあるでしょうか?

 そして、この歌えるメロディを鍛えたものこそが演奏力の限界です。上記のヒット曲は、あるコードフォームを覚えればどれも弾けてしまいます。G、Eマイナー、C、D。基本的にこの4つを覚えていれば誰でも演奏することができます。オアシスのヒット曲は、ギターの基礎中の基礎から生まれたのですね。ギターのネックに取り付けるカポタストという便利な道具を使ってキーを変えれば、オアシスの代表曲はすべてカバーできるでしょう。