Image: James Sulikowski

厳しすぎる世界…。

ニシネズミザメを追跡調査していた研究者たちは、いきなり恐ろしい事実を突きつけられました。ニシネズミザメに取り付けていた送信機から、通常とは異なる水深と水温のデータを受信したんです。研究者たちは、追跡対象の個体がより大型のサメに捕食されたと結論づけました。

ニシネズミザメが補食されたのは世界初

ニシネズミザメが他のサメに捕食されたのは、記録上これが初めてなのだそう。IUCNの絶滅危惧種に指定され、すでに深刻な個体数減少に直面している種にとって、待っているのは悲惨な末路かもしれません。

元アリゾナ州立大学大学院生のブルック・アンダーソン氏を含む海洋生物学者たちは、2020年10月にマサチューセッツ州のケープコッド南東の大西洋で実施したニシネズミザメの調査でメスの個体を捕獲後、ヒレに衛星通信機能付きの発信機を装着して解放しました。1年後に体から離れるように設計された発信機が浮上すると、研究者らがデータを収集できる仕組みです。

研究チームは2021年4月、追跡していた体長が2.13mある妊娠中のニシネズミザメから幾重にも異常なデータを受信しました。1点目は、まず発信機が5カ月後にバミューダ諸島付近で外れてしまったこと。2点目は発信機が浮上する前の週のデータで、その個体がいたはずの海域よりもはるかに水温が高かったといいます。

考えられる理由はたったひとつ。異常なデータを示していた週に、追跡調査していた個体に取り付けられていた発信機、そしておそらくニシネズミザメの体の一部が、その個体を補食したと思われる海洋生物の消化器官内にあったと…。

北大西洋から南大西洋、太平洋、そしてインド洋に生息するニシネズミザメは、全長3.7m、体重227kgまで成長します。海洋科学誌Frontiers in Marine Scienceに掲載された研究論文で、アンダーソン氏ら研究チームは、ニシネズミザメを補食したのは、より体が大きいホオジロザメかアオザメのどちらかに違いないと結論づけています。

アンダーソン氏は今回の発見について、プレスリリースで

ニシネズミザメの補食が科学的に記録された世界で初めての例です。

と述べています。

個体数のさらなる減少を懸念

絶滅危惧種に分類されているニシネズミザメの個体数が減少しているなかで今回の研究結果が発表されただけに、かなり心配です。2016年の報告書で、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、乱獲と生息地の消失によって、ニシネズミザメの個体数は最大90%減少したと推定しています。

通常30歳前後が寿命(65歳まで生きた長寿の個体もいます)のニシネズミザメのメスは、13歳前後でようやく出産できるようになります。そして、1年から2年の間に、平均4頭の子どもを産むそうです。

繁殖サイクルとしては比較的長いほうなので、個体数が減少すると回復するのはなかなか難しいといいます。そこに他種のサメに捕食される脅威が増えると、特に妊娠中のメスはさらに危険な状況に追い込まれます。

アンダーソン氏は深刻な状況について、プレスリリースで次のように話しています。

妊娠中のメスの個体が1頭減ると、個体群の増加に貢献できるはずだった繁殖可能なメスと複数の胎児すべてを失うことになります。もしもこれまで考えられていたよりも広範囲で補食が起きているのだとしたら、乱獲に苦しめられてきたニシネズミザメの個体群に甚大な影響を及ぼす可能性があります。

絶滅危惧種に指定されている希少なサメが補食されているという事実は、海洋生物学にとって歓迎すべきニュースではありませんが、今回の研究で得られた知見を基礎にさらなる研究を進めて、手遅れにならないうちにニシネズミザメを救うための新たな対策につなげられれば、この悲しい出来事も重要な意味を持つかもしれませんね。

Reference: IUCN, scimex

わけあって絶滅しました。――世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑
891円
Amazonで見る
PR