組織体制を変えたり、若手を起用したりして「刷新感」を出そうとする企業もありますが、本当の意味での「刷新」はできているでしょうか(撮影:今井康一)

「名刺が変わりましたので、ぜひ名刺交換をさせてください」

「またですか?」

「経営企画部が、9月から経営企画管理部と経営統括本部の2つに分かれまして、このたび私が経営企画管理部の部長になりました」

期が変わるたびに名刺が変わる会社がある。所属部署や肩書がコロコロ変わるのだ。こういう会社は組織体制を変えて「刷新感」を出すのが狙いだろう。

しかし目論見通りにいくのだろうか? 本記事では「刷新感」をテーマに、やりがちな企業のダメ改革について解説していきたい。

「刷新感」を出すための切り口とは?

今回の自民党総裁選では「刷新感」という言葉が多用されている。

政治資金問題の影響などで支持率が急落した自民党にとって、現状を打破し、政権への信頼を回復するためには、党内で新たなリーダーシップと改革姿勢を示す必要があるからだ。

企業も同じだ。よほど大きな不祥事がない限り、経営トップが交代することはない。

しかし硬直した組織を変えるため、驚くような人を部門トップに据えることはある。冒頭に記したように部署を分割したり、別の部署と統合したり、部署の名前だけ変えたりして「刷新感」を出そうとする会社は多い。

「刷新感」を高めるには、過去のやり方と決別した感じを出すことがポイントだ。

リーダーであれば、過去考慮されなかった切り口に注目するほどいい。総裁選では今のところ「女性」「年齢」がわかりやすい切り口のようだ。

企業でも、ほとんどの管理職を40代後半〜50代の男性で占めているのであれば、この切り口は効き目がある。

「新しい営業部長は、35歳の男性だ」

「今度の総務部長は、46歳の女性である」

このような人事が発表されることで、「わが社も変わり始めたな」という空気を作ることができる。他にも、「学歴」「経歴」「スキル」なども刷新感を出す有効な切り口になるだろう。


歴代の自民党総裁を全員登場させた今回の総裁選キービジュアルには、『時代は「誰」を求めるか?』というメッセージも。ポスターを見たトラウデン直美がニュース番組で「おじさんの詰め合わせ」と発言し炎上騒ぎとなったが、次の「誰」かは、このイメージを刷新できるだろうか(出所:自由民主党HP)

「当社でははじめて、高卒の社員が取締役に就任した」

「生え抜きではない、キャリア採用の社員が管理部の部長に抜擢された」

「建築士の資格を持っていない人が、はじめて公務本部の部長に就いた」

他社にとっては珍しくなくても、その会社にとって「前例のない」人事をすれば刷新感を打ち出すことはできる。

「刷新感」には期待が高まるが…

「刷新感」とは独特の表現だ。「臨場感」「幸福感」と同じように印象・感覚のことを指す。つまり「刷新されたような感覚・印象」という意味である。

「単なる印象操作か」と思うなかれ。印象は重要だ。好印象のリーダーの登場は、人々の目を引き、期待感を高める。新しい部門長が組織のリーダーになれば過去と決別した感を出せるのだ。

社員の多くは「会社が変わる」「これから成長するだろう」という期待に胸を膨らませ、生産性を大きくアップさせることもある。

メニューの中身を一切変えなくても、お店の雰囲気を変えるだけで繁盛する例もある。センスのいいパンフレット、洗練されたWEBサイトに変更しただけで印象がよくなり、売り上げアップしたり、採用で成果を出す成功例はあとを絶たない。

ただ、印象が重視されるのは、そのイメージ、雰囲気がバリュー(価値)につながるときだけだ。

メニューは以前と同じなのに、お店の雰囲気をガラリと変えただけで繁盛したのなら、お店の雰囲気をバリューと評価するお客様がいるからだ。しかし印象や感覚がバリューに結びつかない場合は、すぐに効果が薄れる。

印象のいいWEBサイトに好感を持って入社しても、実際の社風がイメージと異なったら失望し、長続きしないだろう。感じのいいパンフレットを見て注文しても、届いた商品が期待外れならお客様はリピートオーダーしないだろう。

人事もそうだ。「刷新感」という印象がバリューとして評価されるのならいい。

しかし本来のバリューが「刷新」であるなら逆効果だ。期待させるだけ「期待外れ感」が高まる。その理由は「刷新」という言葉の意味にある。

そもそも「刷新」とは、悪い点を取り除いて変化させるという意味だ。単に大きく変化させる「革新」と異なる。

したがって組織を刷新するために、リーダーを変えたり、配置転換をしたりしたにもかかわらず表面的な変化にとどまっているのであれば失望感は大きい。

本当の「刷新」に必要なこと

冒頭に書いたような、毎年のように組織改編を行い、部署名や役職名を変更する会社は気を付けるべきだろう。名刺は変わるが、実態がほとんど変わらないことが多いからだ。

その会社が実際に組織再編したというので、突っ込んだ質問をしてみると次のような会話になってしまった。

「経営企画部と経営企画管理部とは何が異なるんですか?」

「企画のみならず、管理も徹底していこうと思っています」

「何の管理ですか?」

「経営にかかわる、いろいろな管理です」

「それは管理本部の仕事ですよね?」

「た、たしかに」

実際、ある会社では急激な外部環境の変化に対応できず、2年連続で大幅に利益を落とした。競合他社と比べてもダウン幅が大きかった。だから社長は「抜本的な改革」を打ち出したのだが、結局はうわべだけの刷新にとどまったようだ。

実際に何人かの社員と意見交換しても、「表面的な組織改編がされただけ」「顔ぶれが変わっても期待できない」という諦めの声が聞かれた。「抜本的な改革」だなんて言いながら掛け声倒れもいいところだったのだ。

「騙し騙しやっていくしかない」と、あからさまに刷新する気がない表現をするトップもいる。だが最近の若い社員には通用しないだろう。「刷新感」を打ち出すぐらいでは騙されない。優秀な若手ほど組織から離れていくに違いない。

本当の「刷新」には、勇気が必要だ。信念がなければならない。なぜなら悪い点を取り除くことが求められるからである。

年齢や性別、過去の経歴や実績。こういった切り口で選んだリーダーにその勇気、覚悟があるのならいい。しかし、単なる「新鮮さ」で選ぶのなら残念な結果になることだろう。

歴史のある組織であるなら「慣性の法則」が働く。したがって大きく刷新するなら、メンバーを入れ替える必要がある。政府や外国の企業は可能かもしれないが、日本企業においてそれは簡単ではないだろう。

したがって現状維持バイアスにかかっているメンバー(抵抗勢力)を説得し、新しいやり方を浸透させる手腕がなければリーダーは務まらない。柔軟な姿勢で、かつ粘り強く対話を重ねられる人物が最適だ。

日本企業の場合は性別や年齢という切り口よりも、現メンバーと信頼関係があり、刷新するまで諦めない気持ちが重要になる。

「刷新感」よりも「刷新力」に注視せよ!

さらに、今の時代は言語力も求められる。「刷新感」を重視するなら抽象的なスローガンだけでよいかもしれない。しかし本当に「刷新」するなら踏み込んだ具体策まで言及すべきだ。

「私たち経営企画管理部は、新たな時代に向けた経営とは何かを考え、企画と管理を担っていきたい」

といった曖昧な表現ではなく、もっと固有名詞と数字を盛り込んだ具体的なプランまで発表するのだ。

「私たち経営企画管理部は、2年以内に10億円の新規事業を創出するためマーケット分析、アライアンス戦略を中心に活動していきます。年内にA大学との産学連携の方針も固め、来年3月には年間計画も発表いたします」

施策が具体的であればあるほど、当然、突っ込まれやすくなる。

「どんなマーケット分析をするのか?」「アライアンスで過去に失敗したが、その経験は生かせるのか?」「本当にA大学でいいのか? 他の大学も検討したのか?」と、現状を変えたくない人からの容赦ない指摘があるはずだ。

だから覚悟がない人は抽象的な表現で済まそうとする。霧がかかったような言い回しを多用すれば「騙し騙し」やっていくことが可能だからだ。

性別や年齢、過去の実績は、必ずしも刷新の指標にはならない。重要なのは、未来のあるべき姿に向けて本気で変革する意志や覚悟だ。その実現のための具体的な施策が練られているかどうかである。

「刷新感」は大事だが、注視すべきはリーダーの「刷新力」である。若い人材にやりがいを感じてもらうためにも、本当の意味での「刷新」が今求められているのだから。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)