JR各社の中で最大の売り上げ規模を誇るJR東日本は、輸送密度2000未満の赤字線区を多く抱えている。人口減少のいま、ローカル線が生き残る道はあるのか。鉄道ジャーナリストの枝久保達也さんが解説する――。

※本稿は、枝久保達也『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。

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■在来線総延長の3分の1以上が赤字

鉄道が大量輸送機関として成り立つ目安は輸送密度4000人とされる。1980年に制定された国鉄再建法では、輸送密度4000人未満の83線区3157kmを「特定地方交通線」に指定し、うち45路線を廃止、38路線を地元自治体が出資する第3セクター等に経営移管した。

しかし国鉄民営化を生き抜いたローカル線も、いよいよ窮地(きゅうち)に陥(おちい)っている。JR東日本は2022年以降、輸送密度2000未満の線区の収支を公表し、沿線自治体・住民に対して「持続可能な交通体系について建設的な議論」を開始したいと表明している。

コロナ前(2019年度)のデータであっても、輸送密度2000人未満だった35路線66区間は、JR東日本の在来線総延長約6224kmの3分の1を超える2218km、赤字の総額は約693億円に達している。同年度の在来線運輸収入が計1兆2272億円なのに対し、66線区は計約59億円なので0.5%しか稼げていない計算だ。

■100円を稼ぐのに必要な経費は千葉・久留里線だが…

66線区の内訳は、輸送密度500人未満が27線区、500人以上1000人未満が21線区、1000人以上2000人未満が18線区だった。民営化初年度の1987年度比で59線区が5割以上、うち14線区は8割以上減少した。

100円を稼ぐのに必要な経費を示す「営業係数」で見ると、最大が久留里(くるり)線(久留里〜上総亀山間)の15546で、花輪(はなわ)線(荒屋新町〜鹿角(かづの)花輪間)が10196、陸羽東線(鳴子温泉〜最上(もがみ)間)が8760だった。全体では1000を超える線区が52線区、そのうち2000を超える線区が22あった。

ただし、営業係数は比率なので、実際の赤字額は利用が多い路線ほど大きい。

■赤字額最大は新潟「羽越本線村上〜鶴岡間」

上位3線区は羽越(うえつ)本線村上〜鶴岡間の49億円、奥羽本線東能代〜大館(おおだて)間の32億円、羽越本線酒田〜羽後本荘(ほんじょう)間の27億円だが、羽越本線と奥羽本線は在来線特急や貨物列車が走る重要幹線であり、廃止という選択肢はない。世間がイメージする「赤字ローカル線」だけではないのが、この問題の難しさを物語っている。

出所=『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』

JR発足から30余年を経て、ローカル線の利用が大幅に減少した要因のひとつは人口減少だ。

人口増減には自然増減と社会増減がある。出生率の低下による自然減も問題だが、東北では首都圏への転出による社会減が深刻だ。東北全体で見ると中心都市である仙台市への転出が多いが、宮城県から首都圏への転出がこれを上回る。とくに女性の転出が多いのが特徴で、その理由に「やりたい仕事が見つからない」「年収が少ない」「若者が楽しめる場所が少ない」などが挙げられている。

写真=時事通信フォト
脇川の漁村を行く羽越本線の貨物列車(2015年02月13日、新潟県村上市) - 写真=時事通信フォト

■東北からどんどん若者が減っている

1985年と比較した2020年国勢調査の年代別人口の減少は、15歳未満は関東が35%減、関東を除く全国平均が46%減、東北が55%減、15〜29歳は関東が22%減、関東を除く全国平均が34%減、東北が42%減、30〜64歳は関東が14%増、関東を除く全国平均が12〜%減、東北が20%減、65歳以上は関東が236%増、関東を除く全国平均が151%増、東北が134%増となっており、東北は若年層の減少率がとくに高い。

ローカル線の主要顧客は高校生だ。JR東日本は路線別の通学定期利用率を公表していないが、東北の旧国鉄線を引き継いだ三陸鉄道、阿武隈(あぶくま)急行、会津鉄道、秋田内陸縦貫鉄道、由利高原鉄道、山形鉄道では、輸送人員に占める通学定期の割合は6社平均で33%だ。

定期外利用に影響を及ぼしたと考えられるのが高速道路の整備だ。東北地方では、1987年4月時点の開通済みの高速道路は東北自動車道(浦和〜青森間)だけだったが、その後の35年間で主要都市を結ぶ高規格道路が次々に開通した。自動車も30年で飛躍的に増加。一般社団法人自動車検査登録情報協会の統計によると、東北6県の自動車保有台数は1988年から2018年で2倍以上増加している。

■激甚災害の煽りを最も受けているローカル線

さらに、ローカル線を悩ませるのは自然災害だ。ローカル線は設備が古いうえ、山間部を幾度(いくど)も河川を渡りながら縫ぬうように進むため、土砂災害、河川氾濫(はんらん)の影響を受けやすい。自然災害の激甚(げきじん)化、頻発(ひんぱつ)化により、復旧してもすぐに違う箇所が被災するくり返しだ。

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2022年8月3日から4日にかけて東北地方を襲った豪雨では、津軽線蟹田(かにた)〜三廐(みんまや)間で路盤が流出。復旧費用は少なくとも6億円と見込まれたが、輸送密度100人程度の区間だけに、JR東日本は復旧に難色を示した。2024年に入り、沿線自治体がバス転換を受け入れる方針で一致したことから、このまま廃止となる公算が大だ。

また、奥羽本線下川沿(しもかわぞい)〜大館間で路盤流出、磐越西線喜多方〜山都(やまと)間で橋梁(きょうりょう)が倒壊。復旧に奥羽本線は1年、磐越西線は8カ月を要した。橋梁が崩落した米坂線羽前椿(うぜんつばき)〜手ノ子(てのこ)間は復旧に86億円、工期5年と見られており、JR東日本は「当社単独の復旧は困難」と表明した。

この区間も輸送密度は300人程度で、仮に復旧しても持続的な運行は難しいことから、廃止・バス転換も含めた協議が続いている。

悲劇は続く。同年8月13日から14日も台風8号の影響で豪雨となり、奥羽本線、五能線、花輪線が被災した。橋梁が損傷した五能線鰺ケ沢(あじがさわ)〜岩館(いわだて)間は復旧に1年、路盤が流出した花輪線鹿角花輪〜大館間は9カ月を要した。

■県とJRで上下分離した「只見線」のケースも

そうなると自然と浮上するのが、多額の費用をかけてまで復旧すべきか、という議論だ。路線上のいずれか1か所でも寸断されれば運転できなくなる鉄道より、復旧が容易で、迂回して運行が可能なバスの方が災害に強く、費用も安い。

一方、廃線の議論を覆(くつがえ)したのが、2011年7月の新潟・福島豪雨で会津川口〜只見(ただみ)間が被災した只見線である。

同区間は被害が大きく、JR東日本はバス転換を求めたが、福島県が存続を要望。県が線路や駅舎などを保有してJRに貸し付ける上下分離方式での復旧が決定し、2022年10月に運転を再開した。約80億円の復旧費用は国と地元とJRが3分の1ずつ負担し、復旧後の維持管理費年間約3億円を県と沿線自治体が全額負担することとなる。

■議論の争点は「鉄道かバス」かではない

コロナ後、各地で噴出(ふんしゅつ)するローカル線問題に対して、国交省は2023年に改正地域公共交通活性化再生法を施行。ローカル鉄道の再構築に関する仕組みとして、地方公共団体または鉄道事業者からの要請にもとづき、国土交通大臣が「再構築協議会」を設置して議論し、「再構築方針」を作成する制度を創設した。

枝久保達也『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(KAWADE夢新書)

協議会は「鉄道を運行する公共政策的意義が認められる線区」か「BRT(バス高速輸送システム)やバス等によって公共政策的意義が実現できる線区」か、を評価し、鉄道を存続させる場合は運賃の適性化や上下分離などの公的支援を行ないつつ、必要な投資を行なって競争力を回復させるとした。

BRT・バスへの転換については、鉄道事業者の関与のもと、鉄道と同等の運賃水準、通し運賃を設定するとともに、時刻表等に鉄道路線に準じるかたちで掲載される「特定BRT」制度を新設し、鉄道と同等かそれ以上の利便性を確保するとした。

とはいえ、これまでのバス転換は、鉄道路線をそのままなぞるように設定されたため、地域のニーズに対応できず、やがて縮小・廃止されていった。結局、問題は鉄道かバスかではなく、まちづくりを自動車中心から公共交通に転換できるかにある。

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枝久保 達也(えだくぼ・たつや)
鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(青弓社、2021年)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter @semakixxx
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(鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家 枝久保 達也)