テンセントとNetEaseが日本のゲームスタジオへの投資を再検討・縮小しているとの報道、中国市場の盛り返しが原因か
世界最大級のゲーム会社であるテンセントと中国のオンラインゲーム企業であるNetEaseは、長らく日本のゲームスタジオに投資を続けてきました。しかし、ヒット作がほとんど生まれず、中国のゲーム市場が復活しつつあることを受け、両社は日本への投資を再検討・縮小しようとしていることが明らかになっています。
Tencent, NetEase Rethink Japan Approach as Game Strategy Stalls - Bloomberg
Tencent and NetEase cut their investments in Japan, with Visions of Mana dev Ouka Studios at risk of closure | Game World Observer
https://gameworldobserver.com/2024/08/30/tencent-netease-cut-investment-in-japan-ouka-studios
Tencent and NetEase rethink Japanese strategy with studio closure imminent | PocketGamer.biz
https://www.pocketgamer.biz/tencent-and-netease-rethink-japanese-strategy-with-studio-closure-imminent/
Visions Of Mana Studio Is Shutting Down Just After Releasing Game - Report - GameSpot
https://www.gamespot.com/articles/visions-of-mana-studio-is-shutting-down-just-after-releasing-game-report/1100-6526204/
Visions Of Mana Releases To High Praise, But NetEase Plans To Close The Dev Studio | HotHardware
https://hothardware.com/news/visions-of-mana-releases-netease-to-close-dev-studio
Bloombergが事情に詳しい関係者から入手した情報によると、NetEaseが日本の東京で設立した「家庭用ゲーム制作」を主目的としたゲームスタジオの桜花スタジオで、少数の従業員を残して大規模な人員削減が実施されたそうです。桜花スタジオは2020年に設立され、カプコンやバンダイナムコホールディングスといった日本の大手ゲーム企業から業界のベテラン開発者を採用してきましたが、渋谷にあるゲームスタジオを閉鎖する予定だとBloombergは報じています。解雇されずに残る一部の従業員は、スタジオ閉鎖前に最後のゲームのリリースを監督することとなるそうです。
なお、桜花スタジオは2024年8月末に発売されたばかりの「聖剣伝説」シリーズの完全新作である「聖剣伝説 VISIONS of MANA」の開発を担当したスタジオです。
シリーズ完全新作
『聖剣伝説 VISIONS of MANA』
🧚🧚⚔本日発売🌳🧚🧚
クィ・ディールの世界で紡がれる、新たな「聖剣伝説」をお楽しみください!
🌐https://t.co/rUnDwYpEUl#聖剣伝説VoM #聖剣伝説 pic.twitter.com/FvVmQgsSE7— 聖剣伝説 -公式- (@Seiken_PR) August 28, 2024
さらに、ゲーム販売において世界最大級の売上を記録しているテンセントも、日本のゲームスタジオへの投資を再検討していることが明らかになっています。匿名の関係者によると、テンセントはすでに新作ゲームへの資金提供を一部削減しているそうです。
他にも、関係者からの証言として「テンセントは日本のゲームスタジオとのかかわりに不満を抱いている」とBloombergは報じています。テンセントが不満を抱える主な理由は、同社の現地パートナーと日本のゲームスタジオの「野望の不一致」にあるそう。日本のゲームスタジオ側は「小規模でリスクの低いプロジェクト」に長けているのに対して、テンセントは世界に展開できるような大作を求めているため、食い違いが発生している模様。この関係者によると、2023年末以降、テンセントは日本のゲームスタジオに資金提供を行う際、それまでよりも高い目標を設定するようになったそうです。
なお、テンセントと日本のゲーム企業が結んだ契約の中で特に注目を集めていたのが、2023年にテンセントがバンダイナムコホールディングスと結んだ「BLUE PROTOCOLのモバイル版の開発・配信する権利」に関するものです。しかし、2023年6月に正式版がリリースされたオンラインアクションRPGのBLUE PROTOCOLは、2025年1月18日にサービス終了することが発表されたばかりです。
テンセントの市場戦略が変化した原因のひとつとして、長年にわたって同社の日本法人で社長を務めてきたシン・ジュノ氏が、テンセントのグローバル責任者となったことが挙げられています。ジュノ氏は現在、欧州での有望な投資先探しなども統括しており、2024年8月には国際ベンチャーラボの責任者にも任命されています。
調査会社・Bernsteinのアナリストであるロビン・チュー氏は、「テンセントとNetEaseが収益をより厳しく精査し始める時期に近づいているのかもしれません。世界的にゲーム業界は新型コロナ後に縮小し、多くの大手パブリッシャーは人員削減や投資の縮小を行っています。逸話的に言えば、日本の開発者が自社の知的財産で何ができるかを厳しく管理したいという願望が、時には摩擦の原因となってきたそうです」と語りました。なお、チュー氏によるとテンセントもNetEaseも日本の大手ゲーム企業と引き続き緊密に協力しており、日本からの全面撤退は計画していないそうです。
テンセントはBloombergに対し、パートナースタジオとの取り組みおよび日本での事業展開に引き続き注力するとコメントしました。一方で、NetEaseは桜花スタジオが閉鎖される可能性について問われたところ、「発表することは何もありません」と返答。さらに、「中国国外のゲームスタジオをサポートするに当たり、当社は地元および世界中のプレイヤーにより良いゲーム体験を提供するという目標に基づいて戦略を立てています。そのため、市場の状況を反映して常に必要な調整を行っています」と回答しています。
なお、中国のゲーム市場は規制監視により長らく停滞していましたが、2024年には「Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)」が配信開始からわずか83時間で1000万本を売り上げる記録的なスタートダッシュを切るなど復活の兆しを見せています。「黒神話:悟空」はテンセントの元社員が設立した小規模なゲームスタジオが開発した作品で、同作のヒットが「中国国内からヒット作を生み出す」という中国ゲーム企業の自信をかき立てることにつながり、海外への投資を縮小する判断につながったと関係者は語りました。
「黒神話:悟空」がわずか83時間で1000万本を販売しPS5本体も売り切れ、エルデンリングやホグワーツ・レガシーを超える勢いで既に推定4億5000万ドル以上の収益 - GIGAZINE
テンセントは2024年にアラド戦記のモバイル版をリリースし、リリース初月にApp Storeで2億7000万ドル(約390億円)の売上を記録しています。また、NetEaseはバトルロイヤルゲーム「NARAKA: BLADEPOINT」のモバイル版をリリースし、中国だけで初年度の売上が8億8000万ドル(約1300億円)となることが予想されています。