致死率100%の高濃度酸性雨が降り出した世界を舞台に、極限状態に陥った人々の決死の脱出劇を描く極限サバイバル・スリラー『ACIDE/アシッド』が本日より公開中です。

第76回カンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニング部門に出品され、2024年セザール賞視覚効果賞にノミネートされた黙示録的な衝撃作が日本上陸。人、家、街、すべてを溶かしていく、超高濃度の死の酸性雨が降り出した世界を舞台に、極限状況に陥った人々のこの世の終わりからの脱出劇を描きます。

もしも、ごく平凡な日常生活を営む私たちのもとに、空から硫酸のような雨が降ってきたら……。異常気象が異常でなく日常茶飯事になってきた今、人を溶かす酸性雨ってあり得てしまうのでは…?! 自然化学の研究を行う伊勢武史先生に本作をご覧になった感想から、全てを溶かす酸性雨が降る未来予想まで質問をぶつけてみました!

【伊勢武史先生プロフィール】
1972年生まれ。ハーバード大学大学院進化・個体生物学部修了(Ph.D)。独立行政法人海洋研究開発機構特任研究員、兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科准教授を経て、2014年より京都大学フィールド科学教育研究センター准教授。二酸化炭素などの物質循環の研究中。著書に「2050年の地球を予測するー科学でわかる環境の未来」「地球システムを科学する」など
https://fserc.kyoto-u.ac.jp/wp/staff/ise

◆『ACIDE/アシッド』をご覧になった率直な感想を教えてください。

パニック映画のテーマとして環境問題を持ってきた意欲作。パニック映画の定番といえば、エイリアンの侵略とかゾンビの襲来とかになる。そういうのはたしかに、ハラハラドキドキしておもしろい。しかし現実に目をやると、人類社会にほんとうのパニックを起こしつつあるのは、環境問題ではないだろうか。エンタメという枠のなかで、それを我々に思い出させてくれるテーマ設定だと思う。
環境問題というものは、ジワジワと進む。だからこそ僕らは、対策を後回しにして取り返しのつかない事態を招いてしまうことがある。ちょっと残酷なたとえ話だが、カエルを熱湯に入れると、びっくりして跳びだし、難を逃れる。いっぽうで、カエルを常温の水に入れ、徐々に過熱していくと、カエルは跳びださずに茹でられてしまうという。この話の真偽はわからないし実験するつもりもない。しかし、純粋なたとえ話として、人類と環境問題の関係性を現わしていると思う。
この映画は、環境問題が進行するスピードを、数万倍の早送りで見せてくれているのではないだろうか。だから僕らは、熱湯に入れられてびっくりしたカエルのような気持になることができる。毎日のように「エコ」の話をきいて、いささか「エコ疲れ」している我々であるが、この映画で、環境問題の深刻さを再認識するきっかけになるかもしれない。

◆映画の中で、伊勢先生が「この描写はリアルだな」または「映画的で面白いな」と思った部分はありますか?

災害が起こったときの人間の反応が、やたらとリアルだった。人間の利己的な本質があらわになる。中盤で、車に乗り込んできた人を主人公が蹴りだすシーン。まるで「ゾンビにかまれたらゾンビになる」という設定の映画のような反応だった。この映画の設定では、こんな反応をする必要はなかったのではないか。でも、冷静になったらできる合理的判断もできなくなるような状況が、逆にリアルなのかもしれない。

◆映画の中でも描かれていましたが、高濃度酸性雨が発生したら一番危険なことはどの様なことですか?

前提として、あのレベルの酸性雨が急に振り出すということはあり得ない。硫酸でできた小惑星が地球に衝突するなんてことでもなければあり得ない。そのうえで回答するならば、人間をふくめた動物への影響、植物(農産物)への影響、建築物への影響が考えられる。コンクリートや大理石でできた建築物は、酸性雨によって溶けていくことだろう。

◆伊勢先生がこの状況に遭遇したら、どの様に対応しますか?

もし可能なら、雨水が流れ込んでこない高台の洞窟に逃げ込みます。酸性雨が局地的なものでやがてやむのならば、高台の洞窟でやり過ごすのがいちばんかもしれません。そんな場所が近くにあればいいんですが。

◆人を溶かす酸性雨は現実には可能性的に低いということですが、その理由を教えてください。

地球の化学的な状態は、全体のバランスで成り立っています(平衡状態といいます)。どこかで極端なことが起こると、それは全体に拡散していき、やわらげられていきます。あのレベルの酸性雨を降らせる原因となる物質が大気中に局所的にたまるというのはあり得ないことです。
そして、酸性雨の問題は、一昔前とくらべると、解決の糸口が見えてきています。いま、さらに大きな問題なのは地球温暖化のほうですね。

◆高濃度では無いものの酸性雨は現実世界の環境問題となっていますが、私たちが日々の暮らしで気を付けるべきこと。

この映画の数万分の一のスピードで、環境問題は進行していきます。昨日と今日でなにも変わらないようにみえても、環境問題は進行しているかもしれません。それを忘れずにいましょう。機会があれば、環境科学の読み物などを手に取ってみましょう。

◆伊勢先生のお好きなサバイバルスリラーがあれば教えてください!

ジュラシックパークは、科学(生物学)の風味があっておもしろかったですね。

「前提として、あのレベルの酸性雨が急に振り出すということはあり得ない」とのことですが、自然環境の変化は地球に生かしてもらっている私たち全員が向き合っていくべきこと。本作で恐怖を味わいながら、自分に出来ることを考えてみてはいかがでしょうか。

『ACIDE/アシッド』

公開日:8月30日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開
(C)BONNE PIOCHE CINÉMA, PATHÉ FILMS, FRANCE 3 CINEMA, CANÉO FILMS - 2023

監督・脚本:ジュスト・フィリッポ
ギヨーム・カネ、レティシア・ドッシュ、ペイシェンス・ミュンヘンバッハ
2023年/フランス/100分/フランス語/4Kシネスコ/カラー/5.1ch/原題:ACIDE/日本語字幕:星加久実/配給:ロングライド

公式サイト:longride.jp/acide/