年上の部下と人事面談「マイナス評価」伝えるコツ
伝えにくい人事評価を相手の感情を害さずにどう伝えるか(写真:takeuchi masato/PIXTA)
本連載の読者の中には、管理職の立場にある方もいるだろう。その管理職の仕事に絶対と言っていいほどついて回るのが、人事面談だ。伝えにくい人事評価を相手の感情を害さずにどう伝えるか、四苦八苦している読者も多いのではないだろうか。
今回はいくつかのケース別に、そうした悩みの解決法を一緒に考えてみようかと思う。
・相手が年上の場合
・評価は変わらないが、上がりもせず、その上がらないことに対して相手が不満をもっているであろう場合
・自己評価とこちら(管理職側)の評価に乖離がある場合
「知識や経験」の位置づけ
まず相手(つまり被評価者)が年上の場合。
そもそも論としてなぜ年功序列という制度がビジネスの場面でも存在していた(一部のケースでは存在している)のかというと、前述の年長者の方が知識・経験供に優れているで「あろう」という前提があるからだ。
しかしながら、実際のビジネスの場では例えば同じ10年間を過ごしていても、その経験の「密度や濃さ」により、ただ経験してきたのか、経験を昇華させて体系的な知恵にまで落とし込めているのかは全く異なるし、もっと言うと環境の変化により年齢と知識や経験量が比例しない分野や、新しい産業なんかにおいては若年層の方が経験豊富なケースも多く存在する。
したがって、ことビジネスの場面においては「年齢の差=知識・経験の差」であるとは言えないことも多々ある(もっとも日常生活においてもそうだが、これはここでは割愛する)。
このギャップ、つまり本来無条件に敬う対象であり、知識・経験がよりあるハズの年長者が部下としている、という状況が困惑を生じさせる。
ではどうするか。
役割が異なる上司と部下
上司と部下というのはそもそも「役割が異なっている」という当たり前だけどあまり認識されていない事実を念頭に、相手の知識・経験に対するリスペクトを忘れずにそして尊重する、というのが1つの正解だろうと思う。
つまり、大きな方向性を見出したり意思決定をする役割の自分(上司)と、実行部隊の部下という関係に関する共通認識を日々醸成することによって、まずは経験の「時間的な長さ」のみによる競争関係や居心地の悪さを解消しておく。
つまり非生産的な感情や対立関係は日々解消しておく、ということだ。
その上で例えば
「●●さんの経験上、今回のプロジェクトの成果は何点だと思いますか? そしてそれは何故ですか?」
「●●さんの経験上、今回の仕事をもっとうまく回す為には何が欠けていたと思いますか」
「今回の様な失敗も多く経験されてきたかと思いますが、次回への改善に向けて『私たち』は何を学ぶべきでしょうか」
などのように、相手の経験などを尊重しつつ、相手に考えさせたり結論を相手が導き出したように誘導する、「私たち」というように寄り添う、ということが大切だ。
繰り返しだが、相手が年上の場合、相手の「実際の知識・経験量」にかかわらず、その点を尊重することなしに円滑なコミュニケーションは取れない。
そんなことを前提に、うまく相手との協調関係を築きあげていってもらいたい。
次に、評価が年々あまり変わらず、上がらないことへの不満への対処が必要なケースを考えよう。
評価されるレベルか、それともアベレージ評価か
評価が悪いのであれば色々と指摘事項もあろうが、アベレージで不変、でも上がらないというのは評価をする側もされる側もストレスのたまるケースであろう。
こういった場合でよくあるのが、評価にあたっての水準や成長軸に対する認識の違いだったりする。
つまり「100%できました」が特別に評価されるレベルなのか、それともアベレージ評価なのか、といった水準に対する認識の相違だ。
ここがそもそも共通認識となっていないと、「アレっ」となる。
だからこそ、期待水準と評価の関係に関する共通認識をお互いに持つのがまずは先決だ。
「目標達成はアベレージ評価で、それを超える部分が継続的にあれば評価も上がるよ」ということだ。
その上で、成長軸についてもうまく伝えたい。
つまり、評価にあたっては「過去・現在の関係に加え将来への期待値」も加味される、ということだ。
現状同じレベルの成果を出している2人の社員がいるとして、1人は前年や数年前と変わらないレベルで安定、片方は数年前は前者の大分下のレベルだったけど今は同じ、という場合。
後者の成長軸のカーブの方が高いし、必然的に将来性も期待できるから、現時点では同じでも過去からの成長や将来性への期待から評価が高くなることは大いにあるだろう。
だから、
「去年と比べて何が一番自分の中で成長したと思う?」
「目標達成にあたり『今回』一番工夫したことは? そしてそれは来年以降どう活用できる?」
というように、過去からの成長軸や将来性を合わせて見ているということを伝えつつ、というのも大事だろう。
さて、最後は自己評価と管理職評価が異なるケース。
これは実は非常に単純な構図で、一言で言うとそのギャップは「何を期待されているか」「何が評価されるのか」に関する認識相違である。
よくあるケースは、目標達成にあたる「プロセス」で頑張ったから評価してほしい、という部下と「結果出てないよね」という上司のやり取りだろう。
とある営業案件を取るにあたり、「成約まで漕ぎつける」とどう評価されるのか、または「成約させるべく年間300件訪問営業」した場合はどう評価されるのかで共通の認識を持つ、またはその認識相違をいかに伝えるか、である。
評価基準を明確にする
であるから、日ごろから上司の側は「自分は何をもって評価する、又はしない」を明確にしておくべきだし、その目標達成に向けて日々部下をサポートしないといけない。
先ほどのケースで言うと「訪問数は頑張って伸びてるね。けど成約に向けてはこういった工夫も必要じゃない?」とかだ。
反対に言うと自分が部下の立場であれば、日々自分が何を考え、何をしているのか、具体性をもって報告し、その方向性が上司の期待値とズレていないかを探るべきなのだ。
こういったケースでは日々のコミュニケーションの方が、評価会議での会話よりも重要だったりする。
自分は何を期待して何を評価するのか。
その軸を明確にして、その文脈での日々のコミュニケーションが認識相違の解消にあたっては重要だ。
とまぁ、今回あげたのはあくまでも様々なケースの一例だけではあるが、異なる場面においても上記の様な考え方の応用や組み合わせなどで対応できることもあるかと思う。
評価はする側もされる側も真摯にならないと当然いけないし、ストレスのたまる行為であろう。
だからこそ、上記の様な丁寧なコミュニケーションと工夫を通じてお互いの理解が大切だし、画一的ではなく相手を慮ったやり取りが求められるのだ。
(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)