家族みんなでタブレット端末を活用するのは素晴らしい光景だ(写真:pearlinheart/PIXTA)

親にとって幼い子は可愛いものだが、家事をしたり何かに集中する必要があるときに、スマートフォンやタブレットに子守を任せるのは、今どきどの親もやっているのではないだろうか。しかし、それが子にとって良くない影響を与えるという研究報告がある。

子育て中の親にとって、ぐずったり騒ぐのをやめないわが子に手を焼くこともあるだろう。何かに集中する必要があるときは、ついつい子守をスマホやタブレットに委ねてしまう。発表された研究論文には、そうしたことをやりすぎると、将来的に落ち着きのない性格に育つ可能性があるという。

幼児がタブレットを1日1時間使うと…

今年7月に米国医師会の査読付き医学雑誌『JAMA Pediatrics』に掲載された研究報告によると、3歳半の幼児にタブレット型デバイスを1日平均約70分間使わせた場合、1年後に怒りやフラストレーションの感情を示す機会が増加する傾向が顕著に現れるという。また、4歳半の時点で怒りやフラストレーションの感情を示す度合いが平均よりも高い子どもは、5歳半の時点で1日あたりのタブレット使用時間が平均よりも約17分長いとも報告されている。

研究の主執筆者であるキャロライン・フィッツパトリック博士は、この結果について、特にネガティブな感情を示しやすい幼児に対しては落ち着かせるための「デジタルおしゃぶり」としてタブレットを安易に与えすぎると、その場はしのげても子の将来に逆効果になってしまう可能性があると述べている。保護者はもっと子どもの遊び相手をしたり、本の読み聞かせや、一緒に身体を動かすといった時間を増やすべきだと指摘している。


タブレットを無制限に使わせていると思わぬ弊害が…(写真:pearlinheart/PIXTA)

フィッツパトリック博士によると、米国内のある調査では4歳児のほとんどが「自分用」としてスマートデバイスを与えられおり、それに費やす平均時間は、2020年時点で1日わずか5分だったところが、2022年には1日55分までに増加したとのことだ。今回の研究では幼児の1日あたりタブレット使用時間が3歳半で平均55分、4歳半で平均57分、5歳半で平均60分だった。

学習アプリもあるものの…

人にとって、就学前の3〜5歳の幼児期は、その場その場における感情の表れを上手にコントロールする能力(情動調整能力)の発達において敏感な時期だと言われる。自分以外の存在とのコミュニケーション機会が増え、社会的な関わり方を学び始める時期ともいえるだろう。

そのため、この時期にタッチパネルを眺めている時間が長すぎると、親やほかの子どもたちとの遊びなどを通じて、その時々の状況を理解し、判断し、行動することを学ぶ機会を逸してしまう可能性がある。人との関わり合いの中で怒りやフラストレーションを効果的に制御する能力を身につけることは、後年の日常生活においても重要なことだろう。

もちろん、スマートフォンやタブレットで使える素晴らしい知育アプリもたくさんあり、いろいろなことが学べる機会ももたらしてくれる。だが、子どものメンタルヘルス改善を支援する非営利団体チャイルドマインド・インスティテュートの心理学者キャスリン・キーオ博士によれば、親や兄弟と一緒に遊んだり、公園や庭などのリアルな環境で身体を動かし、自然や生き物に触れたりするほうが、アプリに頼るより幼児にはいい影響を与えるとのことだ。

では、保護者の立場から、幼児がスマートフォンやタブレットに頼りすぎないようにするにはどうすればいいか。キーオ氏は、いくつかの対応策を提案している。

タブレットに頼らないようにするには

子どもにとってタブレットの画面は親が思う以上に刺激的だ。ぐずったりしていても、タブレットを渡すとたちまち静かになったなんて場面を私も幾度か見た。しかし、そうした対処をしていると幼児が感情の制御をうまくできないまま成長し、将来的に社会生活のなかで困難な状況を招く可能性が高まるそうだ。


子どものタブレット使用には時間制限を設けよう(写真:vinnstock/PIXTA)

1日あたりのタブレット使用時間を決めるのも重要だ。フィッツパトリック博士の研究報告では、タブレットの使用時間が1日1時間(親とともに良質な教育番組を視聴)以下の子どもには、怒りの感情の増加などといった悪影響は見られなかったとされる一方、1日の使用時間が73分を超えた幼児は、感情が爆発する機会が大きく増加したという。

タブレット使用時間をしっかりと守らせれば、子どもはタブレットに依存せず、ほかの遊びや何かで時間を過ごすようになるはずだ。まだ言葉が話せないほどの幼児の場合は、普段からタブレットを子どもの目に入らない場所に置いておくのが効果的だとキーオ氏は述べている。

タブレットを与えてもらえないことで幼児が感情をあらわにするような場合は、それを言葉にして伝えるのがいいという。例えば「イライラしているみたいだね」などと会話のなかに子どもの感情状態をそれとなく含めて伝えるようにする。少し話して落ち着きそうなら、一緒に深呼吸をしてみるのもいいし、それが感情を抑制する練習にもなるそうだ。

もし、感情を爆発させる子どもに対して大人の側もついつい感情をあらわにしてしまう場合は、まずは自分が冷静になり、なぜそのようになったかを子どもに伝え、親として否定的な反応をしたことについて「ごめん」と言葉にして謝る。もちろん、親の言うことを聞いて落ち着くことができた子どもには、そのことを肯定する言葉をかけてあげることが大事だ。

キーオ氏は、タブレットを取り上げられた子どもが大声でわめき散らすようなことがあっても、制限時間を決めていることを思い出させるように冷静さを保ちつつ伝えられれば、やがてはそれを理解し受け入れるようになると述べている。子どもがぐずる場合の対処方法を前もって想定しておくのもいいかもしれない。


家族だんらんでタブレット依存を避けよう(写真:takeuchi masato/PIXTA)

タブレットを使ってもいい時間が終われば、保護者もしばらくのあいだタブレットや自分のスマートフォンを使う姿を子どもに見せないようにしたい。可能ならば、子どもだけでなく親もタブレットやスマートフォンをどのようにして使うかを、あらかじめ取り決めておくといいとフィッツパトリック博士は提案している。

そして、皆がタブレットやスマートフォンを置き、家族みんなで一緒に遊んだり、何かに取り組む時間を毎日できる限り増やすことだ。たとえ10分たらずであっても、親が子どもと一緒になって遊ぶ時間を持てば、その家庭で家の中にある道具の使いかたを学んだり、ごっこ遊びや童話の読み聞かせなどで会話の仕方を学び、ボキャブラリーの充実を促すといった効果が得られる。子ども自身の創造力や遊び心も育まれていくことだろう。

幼児期を過ぎても長時間使用は避けたい


勉強に対する集中を削ぐことも…(写真:Luce/PIXTA)

「脳トレ」ゲームで知られる東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授らは、小中学生を対象にした研究で、スマートフォンやタブレットを長時間使う子どもの学力偏差値が、まったく使わない子どもたちに比べて低くなる傾向があると報告している。家庭でスマートデバイスを使いすぎると、勉強をする時間が減ってしまい、勉強における集中力を養ったり、睡眠時間を確保するのが難しくなることが関係しているようだ。

10代にもなれば、自分専用のスマートフォンを買い与えられるようになり、子どものほうが保護者よりもその扱いに詳しくなることもしばしば。しかし、動画サイトでどんなコンテンツを見るべきか、また避けるべきかや、SNSなどを通じてコミュニケーションする相手に対し、どのような注意をすべきかといった話し合いをしておいたほうがいい。


スクリーンタイム機能ならしっかり使用時間などを管理できる(写真:Apple)

iPhoneやiPadの場合はスクリーンタイム機能、AndroidデバイスならDigital Wellbeing機能を使い、子どもがタブレットやスマートフォンを使う時間を管理・把握できる。これらの機能をきちんと使いこなすには、保護者にも少なからずスマートデバイスについての知識が求められるのだが、現代の子育てにおいて、習得しておくべきことかもしれない。

(タニグチ ムネノリ : ウェブライター)