お金を増やすことと同じくらい、出ていくお金を減らすことが大事だという(写真:Luce/PIXTA)

老後のお金が不安な人にとって、お金を増やすことも大事ですが、出ていくお金を減らすことも同じくらい大事です。生活費だけでなく、冠婚葬祭、そして賃貸に住む人の家賃など、悩みはつきません。

それでは具体的に支出を削減するにはどうすればいいのでしょうか。その方法を、社会保険労務士で人気YouTuberでもある「社労士みなみ」さんの著書『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』より、一部抜粋、再編集してお届けします。

高齢になれば、自然と支出は減っていくもの

会社を辞めて、年金が収入の柱になると、当然のことながら現役時代と同等のお金は入ってこなくなります。入ってくるお金が大幅に減ったら、それまでと同じような生活はできないと思いますよね。

ただし、あまり過度に恐れるのも正しいとは言えません。

というのも、高齢になると収入も減るけど、支出も減るということが統計データ上、明らかになっているからです。

総務省の家計調査によると、現役世代である50代の頃と比較すると、65歳以降は6割ほどの出費に抑えられています。そして、年齢が上がるほど、出費が少なくなる傾向があります。

大きな理由として、子どもの教育費がかからなくなることが挙げられます。65歳だと、多くの場合、子どもは学校を卒業して社会に巣立っています。また、長い間払い続けていた住宅ローンを払い終えていることも、理由の1つとして挙げられます。

さらに、若い頃と比較して、自然と消費意欲が減退することも挙げられるかもしれません。

例えば、かつては服や靴など、ファッションにかなりのお金を使っていても、年齢を重ねると昔ほどは買わなくなった。適度に楽しむ程度になったという人もいるのではないでしょうか。

とはいえ、収入は減るわけですから、なんの対策もしないと生活費がカツカツということになりかねません。せっかくの第2の人生を楽しむには、無理をしない範囲で少しだけ余裕があるといいですよね。

そのためには、お金を増やすことも大切ですが、出ていくお金を減らすことで、結果的に自由になるお金が増えることも重要です。

「法事や冠婚葬祭」を仕切る立場になることも

退職すると社内外の人との付き合いが少なくなるため、現役の頃と比べると交際費は減ると考えられます。

一方で、増えてくるのが冠婚葬祭です。

あなたが、式を仕切らなければいけない立場になることもあるでしょう。最低限のマナーを守りながら、ムダな支出を減らす。これも、老後を安心して生活するために身につけておきたい知識です。

身内が亡くなると、送り出す儀式(通夜や告別式など)だけでなく、その後も定期的に故人をしのぶ儀式が続きます。仏教の場合、そうした儀式は法事と呼ばれ、特に、亡くなった年は初七日から一周忌まで何度も行事が行なわれます。

もちろん、ただというわけにはいきません。

お寺へのお布施、供え物、会食費用など、まとまったお金が必要になります。すべて自腹ということはないでしょうが、事前に計画を立てておかなければ高額な出費をすることになります。

最近では、そういった儀式は簡素化される傾向にあります。

例えば、家族だけで小規模な法事を行なうとか、オンラインでの法事を取り入れる……など。法事そのものを行なわないのはどうかと思いますが、費用を抑える方法はあります。

私の近所の方が亡くなられた際、そのご家族は一番費用がかからない直葬を選び、家族だけで賛美歌を歌いながら故人を見送ったと聞き、驚きました。これは、究極の簡素化だと思いました。

ちなみに直葬とは通夜や告別式などの儀式を行なわずに、直接火葬を行なうスタイルです。最も簡素化された葬儀で、儀式や会場の手配が不要なため、従来葬儀に比べて費用が大幅に抑えられます。直葬は、故人や家族の希望、あるいは経済的な理由などにより選ばれるケースが増えているようです。

60代、70代になると、どうしても冠婚葬祭に参加することが多くなります。親世代だけでなく、同世代でも亡くなる人が増えてくるので仕方がありません。とはいっても、お世話になった人たちにはあいさつに行きたいですよね。

自分の葬儀や法事についてプランを立てておこう

ご祝儀やお香典は適切な額を用意すべきですが、服装は一工夫できます。

礼服や喪服を新たに一式そろえるのはお金がかかります。もし、買わなければいけない状況になったら、レンタルするのはどうでしょうか。業者にもよりますが、1回のレンタルにつき5000〜7000円程度のケースが多いようです。経済的な負担を軽減できます。

もちろん、自分のことで最後に迷惑をかけないように、亡くなった後のことはエンディングノート(終活ノート)などにまとめておくことをお勧めします。

もし、自分の葬儀や法事(やってもらう意思があればですが)の費用のことが不安なら、葬儀の費用のプランなどを作成しておくのもよいでしょう。自分でプランを立てると、意外なことに費用がかかることがわかります。

ここでひとつ気をつけたいのは、「葬儀30万円から」など格安葬儀では、葬儀社が提供するさまざまなオプションをつけると費用が膨らむことがある点です。また、複数の葬儀社から見積もりを取り、比較検討することで費用を抑えることができます。

申請すれば葬祭費が支給されます。

国民健康保険や後期高齢医療制度・健康保険組合・共済組合に加入している人が亡くなった際に、葬儀や埋葬を行なう人に葬祭儀費用の補助として支給されます。

金額は3万〜7万円です。加入先によって名称や支給額は違いますが、葬祭費は葬儀の終了後に加入先に申請することで支給されますので、忘れずに申請しましょう。葬祭費の申請は、葬儀の翌日から2年以内です。故人の保険証や埋葬許可証、もしくは、火葬許可証のコピーが必要となることも覚えておきましょう。

「最大の固定費=住居費」を補助してくれる制度

ムダな出費を減らすために固定費を見直しましょうと話しましたが、持ち家のない世帯だと、住居費が一番大きな出費になります。そして、持ち家のない人が、老後が不安になる最大の理由でもあります。


年金は、夫婦が持ち家で生活することを前提に設計されています。現在60歳以上の人の約9割が持ち家に住んでいるという調査があります。

平均的な年金額だと、家賃は大きな負担になるでしょう。今後は、賃貸派の高齢者が増えることも予想されますから、新たな制度や対策が打ち出されるかもしれません。ただ、現状では賃貸派にとっては厳しい状況です。

すぐにできる対策としては、高齢者に向けた自治体の家賃補助を受けることです。この制度は、民間の賃貸住宅に住む高齢者に向けて、家賃の一部を補助するというものです。

詳しくは下の表をご参照ください。どれくらいの補助が得られるかは、自治体によって異なりますが、おおむね2〜3割程度になります。場合によっては、そうした補助が手厚い自治体への転居も視野に入れてみてもいいかもしれません。


(出所:『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』より)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

また、UR都市機構には「高齢者向け優良賃貸住宅」があります。60歳以上の人が入居できる住宅で、バリアフリーなど高齢者に優しい設計になっているだけでなく、何かあったときにスタッフが駆けつける緊急時対応サービスもあります。一定の所得以下の人には、家賃が軽減される措置があります。礼金や仲介手数料が不要なのもポイントです(敷金はかかります)。

賃貸派の人は、持ち家の人以上に年金最大化を図り、できるだけ働き続けることも必要でしょう。所得に応じた家賃で、入居できる都営住宅や市営住宅などを利用したりすることも考えておいたほうがいいでしょう。

(社労士みなみ : 社会保険労務士、YouTuber)