JTBは「エリア開発事業部」を2023年2月に設置、ホテルへの投資も同事業部が行う(画像は「ザ・プール&サウナ ヴィラ モトブ」HPより)

旅行業界のガリバー・JTBが、旅館やホテルに対する投資のアクセルを踏む。2023〜2028年度に200億円程度を投じる見込みだ。同社の森口浩紀取締役が東洋経済の取材で明らかにした。

JTBは現在、地域の事業者などと連携して観光地の付加価値を高める「エリア開発事業」に力を入れている。2023〜2028年度で400億円の投資を予定しており、その半分をホテルや旅館に当てることになる。森口氏によると「出資する案件が2、3件決まったところ」だという。

JTBをはじめとした実店舗に強みを持つ旅行代理店は、オンライン旅行代理店との競合激化だけでなくエアラインやホテル各社の直販強化も受けて、事業の多角化を進めている。

狙うは「一石二鳥」の戦略

JTBのエリア開発事業はその一環となる。ホテルはもちろん、交通インフラやテーマパークなどにも投資し、観光地を整備して集客力を高める狙いだ。観光地の活性化が達成されれば、投資した事業から直接上がる収益に加えて、旅行商品を企画し誘客も見込める。まさに一石二鳥の戦略だ。

足元では、沖縄県の北部や香川県の小豆島でエリア開発事業を手がけている。このうち沖縄北部では、観光バスなどを運行する地元事業者と連携、空港と観光地やホテルなどを結ぶエアポートシャトルバス事業を展開する。

来年オープンする予定のテーマパーク「ジャングリア」の準備会社にも出資している。準備会社は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の再建で知られる森岡毅氏が設立したマーケティング支援会社「刀」と沖縄の地元企業が中心に立ち上げた。

観光地のエリア開発において、最も重要なのがホテルなどの宿泊施設だ。滞在日数が伸びれば地域の周遊観光につながり、観光消費額は引き上げられる。

沖縄北部には美ら海水族館や瀬底ビーチなどがあるものの、宿泊施設は近隣の恩納村と比べると見劣りする。恩納村には「ハレクラニ沖縄」(三井不動産系)や「ANAインターコンチネンタル万座ビーチリゾート」など、沖縄本島を代表するホテルが集積している。

「実験店舗」で効果を計測中

JTBによるホテル開発の「実験店舗」として位置づけられるのが、本部町で開業した「ザ・プール&サウナ ヴィラ モトブ」だ。

JTBが大部分を出資して2023年に取得した。全室7室は160平米と広々としており、プライベートプールやサウナまである。運営は現地の事業者が行っている。客室の違いや地域開発によって、客室単価にどのような差が生まれるのかを計測しているところだ。

夏は繁忙期ということもあり、大手オンライン予約サイトでは、1泊7万円前後(1泊2名、素泊まり)、サウナ付きの客室では9万円前後(同)で販売されている。「7〜8月は掲げていた目標を達成できている」とエリア開発事業部の大崎則彦部長は語る。

JTBは香川県の小豆島でもエリア開発事業をスタートさせた。小豆島は来島者の6割以上が日帰りする人たちで占められており、観光による経済効果が限定的となっている。観光地までの交通網の脆弱さなどが課題だった。

そこでJTBはさまざまな企業と連携し、8月1日からシェアサイクル160台を島内に導入した。今後は自動運転バスの実証実験やホテルなど滞在施設の誘致も行う予定だ。


JTBは8月1日に香川県の小豆島でエリア開発事業をスタートすると発表。会見には土庄町町長や小豆島町町長も参加した(写真:JTB)

ただ、観光地の付加価値を向上させても、JTBの色が強くなりすぎると近畿日本ツーリストやエイチ・アイ・エスなど競合からの送客が敬遠される可能性がある。

そこでJTBはファンドなどと連携し、マイノリティ出資をしていく方針だ。地方銀行を母体とするファンドとの連携が現時点では多いという。

「地域の目線でメリットを作るために何が最適か考えた」。森口氏はあくまで黒子に徹する意図を語る。

垂直統合の事例として珍しい

東洋大学・国際観光学部の徳江順一郎准教授は「観光業界では珍しい垂直統合の事例であり、注目をしている。地域をどこまで巻き込んでいけるかが成功のカギを握る」と話す。

交通機関や観光施設、宿泊施設までを含めた、観光地一体の連携。JTBの取り組みは今後の地方観光を変える事例となる可能性がある。

(星出 遼平 : 東洋経済 記者)