「やばい」「えぐい」は正しい日本語なのか? 今さら聞けない意味と語源を言語学者に聞く
昨年開催された野球の世界大会WBC。その練習中の大谷翔平選手の打球を見て、当時22歳だった万波中正選手(北海道日本ハム)が「えぐい! これはえぐい!」と感動していたシーンは、テレビでも多く放送されたことからも、流行り言葉のようにも感じられる。
しかし、こちらも「やばい」と同じく、もともとはネガティブな意味合いの言葉であったと、前出の島田氏。
「元々、『えぐい』は味覚に関する語で、苦みにも似た、毒性が含まれているというサインとしての危険信号を表すものでした。そこから『やり口がえぐい(やり方が非人道的)』といったように、ネガテイブな意味で使われていました」
では、危険性や否定的な意味を持っていた「えぐい」は、いつ頃から肯定的な意味でも用いられるようになったのか。
「実はちょっと複雑なんです。この言葉は、1981年にテレビの風邪薬CMで使われ、そこから『やばい』と同様、良くも悪くも程度がはなはだしい、インパクトが強いということをあらわす流行語になりました」(新野直哉氏)
なんと、えぐいのポジティブな使い方での流行は、今回が最初ではないというのだ。とはいえ、その流行が継続はせず肯定的な意味での用例は下火となった。それがなぜ、最近になって再燃したのか。そこには、強調に用いられる言葉の特性があるようで……。
「『やばい』が多用されるようになって年月が経ち、使い古された感じが出てきて以前のようなインパクトがなくなってきたので、より新鮮でインパクトのある語として『えぐい』が使われるようになったのではないかと思います。今使っている若い層は、以前流行したということは知りませんからね」(新野直哉氏)
「やばい」という言葉のやばい歴史、そしてやばいに取って代わりつつある「えぐい」という言葉の意外な過去。言葉は生き物だとよく言われるが、その変化を辿ると面白い。さて、「えぐい」の先に登場するのは、一体どんな言葉なのだろうか。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。