by Rajaram Kaveti

小型の電極を傷口にあてて電界を発生させ、最大で30%早く創傷を治癒させる創傷被覆材を、国防高等研究計画局(DARPA)の出資を受けた研究チームが開発しました。この「電気絆創膏(ばんそうこう)」は、特に糖尿病や動脈硬化で傷の治りが遅い人の慢性創傷に高い効果を発揮すると期待されています。

Water-powered, electronics-free dressings that electrically stimulate wounds for rapid wound closure | Science Advances

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ado7538

Electric Bandage Holds Promise for Treating Chronic Wounds | NC State News

https://news.ncsu.edu/2024/08/electric-bandages/

慢性創傷とは、場合によっては数カ月も治らない慢性的な傷で、治ったとしても再発することが多く、手足の切断や死亡リスクにもつながる重大な健康問題です。

代用皮膚などを用いた既存の慢性創傷の治療法は非常に高価で、完全に治癒する確率はせいぜい50%程度なのにもかかわらず1カ所あたり1000ドル(約15万円)以上、場合によっては2万ドル(約300万円)の費用がかかります。

過去には、傷口に電気的な刺激を与えると傷の治癒に有効な細胞増殖や細胞遊走が促進されるとの研究結果が報告されていましたが、これには大規模な機器と毎日数時間の加療が必要であるため、実用化のめどはたっていませんでした。

そこで、ノースカロライナ州立大学のラジャラム・ カヴェティ氏らの研究チームは、小型の電極とバッテリーを備えた使い捨て絆創膏の「water-powered, electronics-free dressings(WPED:水力式で電子機器不要の創傷被覆材)」を開発しました。



研究チームによると、WPEDはパーソナライズされた創傷被覆材で創傷の治癒を加速させることを目的としたDARPAプロジェクトの研究からスピンアウトしたものだとのこと。

共著者のひとりであるコロンビア大学のサム・シア氏は「この共同プロジェクトにより、水を加えるだけで電気刺激を与えることができる私たちの軽量包帯が、対照群よりも早く創傷を治癒させ、より高価で大がかりな治療法と同程度の早さで傷を治したことが示されました」と話しました。

まずWPEDを患部に当てると、電極が創傷に接触します。そして、もう片面に搭載された小型の生体適合性バッテリーに水を1滴垂らすと数時間にわたり電界が生成され、傷を癒やすという仕組みです。



研究チームが受傷後のマウスにWPEDでの治療を施したところ、市販の絆創膏(Tegaderm製)より約30%早く治癒することが確認されました。



電極とバッテリーを搭載しているにもかかわらず、WPEDは市販の絆創膏より20%重いだけで、つま先などの局面にもきちんと貼付できる柔軟性を備えているとのこと。また、1枚当たり数ドル(数百円)と安価で、着用しつつ普段通りの生活ができるため、患者の身体的および経済的負担も最小限です。

研究チームはさらに、傷口が深く創傷面が複雑なケースにも対応できるよう、日本の切り紙に着想を得た3次元変形可能な電極を持つWPEDも開発しています。



カヴェティ氏は、「この電極の柔軟性は非常に重要です。なぜなら、効果的に電界を当てるためには、電極が患者の傷の周辺と中心部の両方に接触している必要があるからです。また、こうした傷は深かったり傷口の形が非対称的だったりするため、さまざまな創傷面に適用できる電極が求められます」と話しました。

研究チームは目下、WPEDの実用化に向けた臨床試験を行うべく、さらなるテストを進めているとのことです。