(左)筆者(右)風間さん(写真:東大カルペ・ディエム撮影)

社会人の学び直しやリスキリングが注目され、大人になってから改めて勉強を始める人が増えています。『あなたの人生をダメにする勉強法 「ドラゴン桜」式最強タイパ勉強法で結果が変わる』を上梓した青戸一之さんは、30歳になってから東大を目指して受験勉強を開始し、合格を勝ち取って、新たな道へと進んだ1人です。今回は青戸さんが、41歳になってから東大受験に挑み、見事1年で文科1類に合格された風間光太さんにお話を伺いました。

春から東大の学部1年生として学ぶ

青戸:風間さんは今年の4月から東大の学部1年生として勉学に励まれているそうですが、まずこれまでのご経歴をお聞かせいただけますでしょうか。

風間:1982年生まれ、北海道函館市出身で今年42歳になります。地元の高校を卒業して東北大学の工学部、土木工学科に進学し、その後は東京大学大学院の工学系研究科 社会基盤学専攻・修士課程で社会基盤学を学びました。大学院の修士課程を修了した後は、専攻を活かして高速道路の運営会社に就職しました。

青戸:そこから41歳での大学再受験に、どうつながるのでしょうか?

風間:就職までは順調だったのですが、そこからいろいろと挫折がありました。入社して3年目くらいから業務量が増え、さらに1つひとつの仕事の質も高まったことが徐々に負担になり、最終的に退職してしまったのです。

その後も同じように、新しい会社に入って数年すると自分の力不足で業務をこなせなくなることが続き、職を転々としました。周囲の方々にはご迷惑をおかけし、本当にお恥ずかしい限りです。

それで会社勤めがなかなかうまくいかないと思ったので、去年まで勤めていた不動産鑑定業の会社を退職して自営の道を決意しました。不動産鑑定士の資格を持っていたので、今年3月に自分の事務所を開業したのです。受験勉強を始めたのは、退職を決めた昨年3月ごろです。

青戸:なぜ開業と同時期に受験勉強も始められたのでしょうか?

風間:今後の仕事を考えたときに、資格があったほうがより有利だと思ったからです。具体的には、土地家屋調査士の資格試験と司法試験の勉強ですね。土地家屋調査士は、会社にいたときから勉強を進めていたので今年合格できましたが、司法試験のほうは一からやる必要がありました。

ただ、受験資格を得るためにロースクール(法科大学院)に通うとなると、ちょっと年齢的にも金銭的にも難しいなと。それでもう1つの選択肢として、予備試験に合格する道を選んだんです。

調べてみると、予備試験に合格しているのは東大や京大の法学部生が多いということがわかりました。もともと大学院に通っていたときから東大に愛着もあったので、文科1類の受験を決意しました。事務所のほうは、今は開店休業状態です。

4カ月前に受けた模試から一気に伸ばす

青戸:今後のキャリアを考えて勉強の必要性を感じられたからなのですね。私も塾講師として東大志望の生徒を合格させてあげられず、自身の力不足を痛感して東大受験を決意したので、近いものを感じます。受験勉強は独学で進められたのですか?

風間:そうですね。会社を退職したので、勉強が仕事の代わりといった感じでした。朝起きてから規則的なスケジュールで、多いときは1日9時間、平均して7時間くらいは毎日勉強していました。

青戸:コンスタントに勉強を続けられていたのはすごいですね。私は周りに勉強仲間がいなかったため、たまに孤独を感じてつらいときもあったのですが、風間さんはずっと1人で勉強していてつらくはありませんでしたか?

風間:私はSNSをやっていなかったので、たしかに孤独を感じることはありました。また、英語は昔から苦手でしたし、入試の4カ月前に受けた東大模試では数学で1桁の点数を取るようなありさまだったので、なかなか伸びない時期は精神的に大変ではありましたね。途中から過去問中心の勉強に切り替えて、なんとか間に合いましたが。

青戸:それでも1年で東大に合格されるのはすごいですね。勉強法で工夫されたことや、意識されていたことを教えてください。

風間:時間の使い方は重視していましたね。たとえば苦手な科目や、あまり気が乗らない科目を勉強するときは、勉強時間を短く設定して、その短い時間だけは集中して100%勉強に費やそうと心がけました。「1時間勉強するぞ」と決めて20分しかできないよりは、「10分やるぞ」と決めて10分勉強するほうが価値は高い、という考え方です。

また、過去問演習をする際は、記述式の答案を書く時間が想像以上にかかるため、本番と同様に時間を計測し、答案用紙への記入時間を含めた時間配分を考えながら取り組んだことが功を奏したと考えています。

大人になると学ぶ意義がわかる

青戸:そういった時間のメリハリのつけ方は、さすが社会人ならではという感じもしますが、その勉強のスタイルは学生時代と同じですか?

風間:いえ、そんなことはありません。学生時代は、どちらかというとやらされる勉強が中心でした。当時は勉強する理由が「学校の先生にやれと言われたから」「周りの子もやっているから」くらいのもので、復習もちゃんとしていませんでしたね。

青戸:そうでしたか。当時はあまり、勉強熱心な生徒ではなかったと。

風間:そうですね。昔といちばん違うのは、主体性ですね。大人になってからの勉強は、明確な目的や目標を持って、自分の意志でやるものです。学んでいる内容が何の役に立つかがわかるようになったので、やらされる勉強と違って意義も感じますし、楽しかったですね。もちろんしんどいこともありましたが、それ以上に勉強が楽しいと感じるほうが強かったから、続けられたんだと思います。

青戸:勉強が楽しいという感覚は、よくわかります。私は小学生のころから歴史が苦手科目だったのですが、東大受験で世界史を一から勉強したことで、現代で起こっている紛争や領土問題の背景がよくわかるようになったんです。

あの勉強で初めて歴史を学ぶ意味や価値を認識できて、ちょっとした感動すら覚えました。学生時代と比べていろいろな知識がついたり視野が広がったりしたことで、歴史のほかにも「なんで当時はこんなことがわからなかったんだろう」と思うことが何度もありました。

風間:同感です。それで言うと、大学に入ってからの勉強はまた一段違った楽しさがありますね。

青戸:そうですよね。東大に入ってから面白い、楽しいと感じた講義や授業にはどんなものがありましたか?

風間:やはり法学のゼミ形式の授業ですね。法科大学院教授でもある弁護士の先生から、法律全般や裁判所、国会、内閣などさまざまな分野について、実務経験に基づくお話を数多く伺えたことから、法学と法務関連の仕事に対して興味が高まりました。

青戸:大学の勉強だとより自分の興味や関心に直結した深い内容を学べるので、楽しさが違いますよね。ところで、もともと風間さんは東大に愛着があったとのことですが、今のご年齢で東大で学び直すことにどんな魅力を感じていましたか?

風間:大学では自分の興味に応じて法律以外のことも広く学べますし、何より優秀な先生と学生に会えることが魅力です。

たとえば先ほどお話しした法学の授業では、毎回の講義の後に受講生がグループ別に討議する時間もあるのですが、鋭い角度の意見がいろいろと飛び交ってさすがだなと思わされます。

外国語の授業でも、初回からまだ習っていない中国語をいきなりみんな発音したりして、積極性の高さに驚かされます。あと、私は将来的に自分の事務所で本格的に事業を行いたいのですが、東大法学部なら行政や法曹界に進む人も多いでしょうし、先生方も含めて人脈や情報を得やすいことも利点だと感じていました。

青戸:起業するとなると、人脈や情報は特に大切ですよね。幅広い勉強ができる楽しみも、よくわかります。風間さんご自身の考えとして、大人になってから勉強し直すことの意味や価値は何だと思いますか?

やりたい勉強であれば努力し続けられる


風間:勉強内容が何の役に立っているかがわかるようになってから再度勉強するのは、面白くて意義があることだと考えます。また、私は30代後半以降で正規雇用への転職を考える際に、資格の保有でより枠が広がることを経験したので、転職市場での価値もあると思います。

職を転々としてうまくいかないことも多かったのですが、いろいろやって気づいたのは、やはり自分の好きなことや興味のあることをするのがいちばんだということです。勉強には時間、費用、周囲の理解が必要なので、日々忙しく働くすべての社会人の方に対して気軽に勧めるのは難しい部分もあるのですが、自分がやりたいことのための勉強であれば、努力を続けられるのではないかと思います。

青戸:大人になってからの勉強は自分の興味や利益に直結していることが多いので、それもまた楽しさにつながる要因ですよね。いくつになってからでも学び直すことはできるし、遅すぎるということもないと思います。

(青戸 一之 : 東大卒講師・ドラゴン桜noteマガジン編集長)