2000人以上で形成されたクルド人コミュニティがある埼玉県川口市

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 第1回【「クルド人は真面目でよく頑張る」 トラブル頻発でも、解体業者が「クルド人作業員を好んで使う」知られざる理由】からの続き──。日本で難民申請を行えば、正規の在留資格を得ていなくとも就労が可能だと海外の外国人に知れ渡った。その結果、2012年ごろから難民認定申請件数は急増した。(全2回の第2回)【藤原良/作家・ノンフィクションライター】

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 その中には偽装難民も含まれていたことは周知の通りだが、法務省によると申請者の国籍は87カ国にのぼる。様々な国の偽装難民が申請を行っていると考えるのが普通だが、この問題では主にクルド人が糾弾されることが目立つようだ。

2000人以上で形成されたクルド人コミュニティがある埼玉県川口市

 ご存知の通り、埼玉県川口市周辺には2000人以上で形成されたクルド人のコミュニティがあり、隣接している蕨市は「ワラビスタン」とも呼ばれている。

 日本語にも不慣れで日本の地域社会に溶け込むのに苦労している者も多い。一部の在留クルド人の素行の悪さが問題視され、SNSに非難の声が投稿されるのも当たり前の光景となった。

 日本政府は今後も外国からの技能実習生や外国人労働者の受け入れを増加させると考えられる。そうなると当然、偽装難民を含めた難民認定申請件数も増加することが容易に予測できる。

 厚生労働省によると、2023年時点で技能実習生の受け入れ人数が多い国はベトナム、インドネシア、フィリピン。さらに2022年の警察庁発表によると、犯罪で摘発された最多の外国人は窃盗ならベトナム人、傷害や暴行では中国人になる。

 にもかかわらず、偽装難民や外国人犯罪、「日本人に迷惑をかけている外国人」のイメージはクルド人に集中している。

異常に長い審査期間

 一部の日本人による情報操作によって、クルド人が在留外国人問題の“槍玉”、“生け贄”、“見せしめ”にされていると言っても過言ではないだろう。

 真面目に暮らしているクルド人にとっては災難だ。川口市で解体業の仕事に従事して8年になるクルド人作業員のBさんは片言の日本語で「色々あるから仕方ない。人間は難しい」と溜息交じりに言う。

 人手不足が著しい肉体労働現場で汗を流しながら懸命に働き、日本人の職場仲間たちからも一定の信頼と信用を得ている在留クルド人も多数いる。こうした事実に日本人はもっと目を向けるべきではないだろうか。

 さらに難民問題を考える際には、「審査期間の異常な長さ」にも注視すべきだ。

 その期間は申請者1人に対して平均およそ2年間。最も早い人でも数ヵ月かかり、遅い人だと3年かかる。難民認定申請をするには所定の用紙と追加書類を数点提出すればよく、その後は直ちに審査期間に移行するのが一般的だ。審査に面談を伴うケースもあるが、割と簡単な手続きで難民認定審査は開始される。

 しかし、その結果が出るのに平均して2年もかかるというのは異常だ。日本が法律で定めている審査案件の中でも、難民認定申請の審査期間は最長クラスに属するのではないだろうか。

あまりに少ない職員

 また、1度目の審査で不許可となっても再審査を求めれば、審査期間は平均4年間となる。その間、申請者の外国人は仮放免者という不法滞在状態が続く。審査中の難民認定申請者に対して「強制送還しろ!」「税金泥棒!」と叫んだところで、審査の結果待ちを必要とする在留外国人としては日本に居続けるしかない。

 なぜこんなにも審査期間が長いのかと入管に問い合わせると「申請者ひとりひとりによって審査状況は違いますから一概にはお答えしかねます」との回答だった。

 2023年度は1万3000人を超える難民認定申請がなされている。22年度の申請件数は約1万件で、認定審査期間の平均日数は概ね2年間のため、22年と23年の2年間だけでも2万3000件以上の審査業務に追われている。

 24年時点で出入国在留管理庁の全国の総職員数は約6300人弱の定員数である。そのうち在留外国人からの各種審査や問い合わせが集中している東京出入国在留管理局の職員は本局と支局を合わせて2000人弱だ。

 たったこれだけの職員数で、毎月100万人単位の外国人観光客の手続き対応に従事し、300万人以上が該当するとされる在留外国人の在留資格の各種更新や変更手続きもこなし、常時約2万3000件の難民申請の審査を担当している。

偽装難民の温床

 日本語や日本の制度に不慣れな総勢数百万人もの外国人を相手に僅か6000人弱で戦っているのであれば、難民認定申請者1人につき約2年間の審査期間が必要になってしまうのも無理もない話かもしれない。

 東京入管で言えば、民間企業で言うところの午後12時からの昼休み時間も来庁者対応の窓口が絶えず稼働しており、盆休みの時期も開庁している。国策によって外国人の流入が増加したが、その手続きをするための入管職員の人数がまったく足りてないのが実情だ。

 しかしこの取材中に「人手が足りなくて困ってます」と言った入管職員はひとりもいなかった。繰り返すが「申請者ひとりひとりによって審査状況は違いますから一概にはお答えしかねます」の一点張りだった。

 自らの職務や守秘義務規定に忠実なのは分かる。だが、そのためにかえって問題が不透明なものとなり、平均2年間の審査期間によって偽装難民や不良仮放免者の温床を作りあげたということについては、どのような考えを持っているのだろうか。

 在留外国人のDさんは「通常のビザの更新だけでも入管は手続き期限を守ったことがない」と言う。一般的な在留ビザには1年から3年の在留期限があり、その期日を過ぎるとオーバーステイとなる。

間に合わないビザの更新

 そうならないように期日の3カ月前から入管で更新手続きが開始されるわけだが、言うまでもなく入管は該当するビザが切れる期日までに更新手続きを完了させなければならない。ところが、その日に間に合わないことが多々ある。

 フォロー策として「ビザの更新期日を過ぎてもその後2カ月間は猶予を設ける」としており、多数の在留外国人たちが在留期限を過ぎた猶予期間に更新手続きをやらざるを得ない状況が慢性化している。

 別に猶予期間内であっても更新できればいいじゃないかと言う人もいるが、在留外国人は、勤務する会社との雇用契約や銀行の個人口座や各種カード類が「在留期限」と紐付きになっているケースが多い。

 在留期限が切れる期日までに入管による更新手続きが完了しないと、生活に関わる様々な契約内容が自動的に期限切れ扱いとなってしまい、酷いケースになると勤務先から解雇処分を受けたり、銀行口座が強制凍結されてしまうのだ。

 契約先に対して「2カ月先までの猶予期間がありますから私のビザは今日も有効です。これは入管が決めたことです」と説明をしても、入管の規定や業務に詳しい担当者は現在の日本社会には皆無で、再雇用や再契約には至らない場合も多い。

 それどころかこういった在留外国人たちのことを嘘つき呼ばわりにする人もいる。こういった問題はこれから先も増え続けていくかもしれない。

足りない事務補佐員

 2024年3月。特定技能を持つ外国人労働者について向こう5年間で82万人を受け入れ上限とする閣議決定をした。現状でも既にパンク状態に陥っている入管業務はこの先どうなっていくのだろうか?

 全国の入管職員の総数が、取扱業務件数に対して圧倒的に足りない原因のひとつには、職員の採用条件によるところがある。

 入管職員として採用されるためには、一部の非常勤職員や通訳担当者以外、公務員試験に合格しなければならないという採用基準がある。

 通訳担当者にこの条件はなく別途採用枠が設けられているとはいえ、入管職員であるならば、通常業務に支障がないレベルの英語ぐらいは話せた方がいい。一応TOEICスコア400点以上が目安とされている。これは最低限の日常英会話ができるレベルとされている。

 こういった採用基準だと、例えば来年度は職員を全国で5000人増強する採用計画を立てたとしても、公務員試験に合格したTOEICスコア400点以上の人材を5000人も確保することは現実的には難しい。

 非常勤職員枠である事務補佐員にはこういった採用条件はなく、高卒又はそれと同等の学力を有する者でPC操作ができる日本国籍者であればいい。事務補佐員を積極採用することで、職員総数を増強させて少しでも業務の負担を軽減してもらいたいところだが、事務補佐員という職業の知名度が低いせいか、入管業務をスピーディーに行えるまでの人員確保はまだできてはいない。この記事が事務員補佐員の知名度向上に少しでも貢献できたら幸いだ。

日本政府の問題

 とにかく今の日本は、日本に入国して来る外国人の人数が国策によって毎年急増中だが、入管のパンク状況を見てもその受け入れ体制には大きな問題がある。

 日本政府は、外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策により、外国人の受け入れ環境整備を強化しているとしているが、果たして本当に有言実行がなされているかどうかについては疑問の余地がある。とにかくまずは出入国在留管理庁で発生している慢性的なストレスを解消させるべきだ。

第1回【「クルド人は真面目でよく頑張る」 トラブル頻発でも、解体業者が「クルド人作業員を好んで使う」知られざる理由】では、なぜ日本人の解体業者がクルド人作業員を高く評価するのかをお伝えする。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』(以上、太田出版)など。

デイリー新潮編集部