「手根管症候群」の初期症状はご存じですか? 原因や手術の流れも医師が解説!
手首の神経に圧迫がかかり、日常生活に支障をきたす「手根管症候群」。一体、どのような治療法があるのでしょうか。今回は、手根管症候群の手術や術後のリハビリについて、「くらげ整形外科」の山粼先生に解説していただきました。
≫「手足がしびれる」症状が出たときの原因・治療法・受診先を医師が解説監修医師:
山粼 厚郎(くらげ整形外科)
金沢大学医学部医学科(現・金沢大学医薬保健学域医学類)卒業。その後、千葉県がんセンター、千葉県こども病院、成田赤十字病院、聖隷佐倉市民病院、千葉市立青葉病院、君津中央病院などで勤務医として経験を積む。2020年、千葉県千葉市花見川区に「くらげ整形外科」を開院。「安心してうけられる、当たり前の医療」をモットーに、日々より良い医療の提供に邁進している。医学博士。日本手外科学会認定手外科専門医、日本整形外科学会認定専門医。日本肘関節学会会員。
編集部
まず、手根管症候群について教えてください。
山粼先生
手根管症候群は、手首の「手根管」を通過する神経が、なんらかのきっかけで圧迫される疾患です。手根管は手首の内側にあり、主に指の感覚と動きを司る正中神経が通っています。
編集部
なぜ、神経が圧迫されるのですか?
山粼先生
原因はいくつかあります。その中でも、妊娠や出産、更年期などで女性ホルモンのバランスが崩れたり、指や手首の過剰な使用や圧迫、炎症などによって手根管の組織が腫れたり、圧力がかかったりすることで発症するケースが多いですね。仕事や家事で手首をよく使う人がなりやすいのはそのためです。また、過去に手首の骨折をした人や、人工透析を受けている人にもよくみられます。
編集部
どのような症状が出るのでしょうか?
山粼先生
感覚障害として、親指、人差し指、中指、薬指の半分(親指側)にしびれや痛みが出るほか、手首から腕にかけても重だるさや痛みが起こることがあります。進行すると、手にうまく力が入らず、ものが握りにくくなるような症状も出ます。いずれも、症状が夜間や明け方に悪化することが知られています。
手根管症候群の治療法編集部
手根管症候群の治療は、どのようにおこなわれるのですか?
山粼先生
炎症や症状を緩和する飲み薬や湿布薬、手首への夜間を中心とした装具療法、温熱療法、手首へのステロイド剤の注射などがあります。なお、これらの治療は全て、症状の緩和や進行予防を主な目的としたものです。
編集部
手根管症候群は治るのでしょうか?
山粼先生
軽症、もしくは明らかに一時的な原因によるケースは、上述の治療で治ることもあります。その一方、ある程度症状が重症な場合は手術が選択されます。また、治療開始が遅れてしまうと、手術をしたとしても症状が完全になくならないこともあります。しびれだけでなく、つまみにくさなど動きに障害が出ているケースなどは、注意が必要ですね。
編集部
手根管症候群の手術について、もう少し詳しく教えてください。
山粼先生
「切る」手術と「切らない」手術があり、手根管の天井部分にある横手根靭帯を切開し、手根管を開放して正中神経の圧迫を解消する手術が一般的です。以前は皮膚を切開しなければなりませんでしたが、今は内視鏡を使ってできるので傷は1.5cm程度ととても小さくて済みます。なお、手術は局所麻酔を用いて、日帰りで可能です。
編集部
しびれはすぐに解消されるのですか?
山粼先生
いいえ。術後に神経の圧迫が解除され、指先に向けて神経の回復が始まるので、手術の直後にしびれが消失することは稀です。回復のペースは、手術前の重症度に大きく左右されるため、個人差が大きい印象です。目安として、指先までしびれの症状が改善するには、3~12カ月を要します。
手根管症候群の手術の流れ編集部
手術の流れを教えてください。
山粼先生
まず、手術前に神経が圧迫されている場所や程度を評価するための「神経伝導速度検査」や「精密知覚機能検査」をおこないます。
編集部
検査を受けた後は、いよいよ手術ですか?
山粼先生
はい、手術時間は15分程度です。手術当日、患部がお湯に浸かるような入浴はNGです。ただし、傷口を濡らさないようなシャワー浴は可能ですし、そのほかについてもある程度通常通りの生活ができます。
編集部
術後は通院するのですか?
山粼先生
手術の翌日、もしくは2日後に外来で術後の症状について診察します。抜糸までの1~2週間は、患部を水に濡らさないように注意してください。また、医療機関にもよりますが、例えば当院のように理学療法士が在中しているところでは、手術翌日もしくは2日後から指のストレッチやマッサージなどのリハビリテーションが始まります。
編集部
手術費用の目安についても知りたいです。
山粼先生
鏡視下での手根管開放術の場合、3割負担で約3万円、1割負担で約1万円となります。 内視鏡を用いない手術であれば、もう少し安くなります。また、いずれも検査や投薬による費用が追加されます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山粼先生
手根管症候群の初期症状は軽いしびれですが、徐々に重症化していくことが多く、重症化すると手術をしても治らなくなるリスクが出てきます。特につまみにくさなど指の動きの障害が出ている場合、症状が残る可能性もあるので、早めの受診をおすすめします。手術は日帰りで受けることができます。
編集部まとめ
手や指のしびれや動かしにくさは、日常生活に大きな影響を及ぼします。女性ホルモンの乱れや手首の使いすぎなどによって起こる手根管症候群は、早期に治療することで症状の改善が期待できます。紹介した症状で困っているのであれば、我慢せずに一度近くの整形外科に相談してみてはいかがでしょうか。
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