NECナイメヘン・佐野航大【写真:Getty Images】

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佐野航大はバックアップメンバー入りもクラブ事情でパリ五輪帯同を辞退

 U-20ワールドカップ(W杯)の活躍によって、佐野航大はNECナイメヘンのカルロス・アールバーツチーム・ダイレクター(TD)に見出された。

「あのときのことは、もう過去のこと。同じことをパリオリンピックでもう1回、やれればいいですね」

 昨季終盤戦、佐野はパリ五輪に出場するU-23日本代表の最終メンバー18人に滑り込もうと燃えていた。オランダリーグのラスト2試合からプレーオフにかけて、3試合連続ゴールを決める猛アピールが実って、6月のアメリカ遠征のメンバーに選ばれた。しかし、佐野は18人の正規メンバーにアクシデントが起こった際のバックアップメンバーに留まり、その座もNECの要請によって降りている。

「しっかりメンバーに選ばれて、オリンピックでプレーしたかった。しかしNECの夏合宿に合流することが決まってから、しっかり切り替えてキャンプに取り組んできました。やはりパリ五輪に出たかった気持ちはありますが、オランダリーグという良いリーグでプレーしているのも事実。ここで活躍してステップアップしたい。そしてA代表入りを狙いたい」

 アメリカ遠征で感じたのは、大岩剛監督はNECでの自分のプレーを理解して呼んでくれたということ。佐野はNECで主に4-3-3の左ウイングを務めているが、ボール保持時にはダイヤモンドの中盤の左にポジションを取ってMFのようにプレーしている。

「(大岩監督は)僕の特徴を分かってくれていました。自分が真ん中でしっかりゲームを作ったりしていることを理解してくれていました。だからこそ、なんとか(最終メンバーに)入りたかったんですけれど、そこはもう終わった話なので気持ちを切り替えています」

 さらに佐野は「もし選ばれていたら、大岩監督は自分をオールラウンダーという使い方をしたのかなと思います」と続けた。

 先ほど記した通り、NECでの佐野は左サイドのポジションから中に絞って、緩急織り交ぜたパスや、懐の深いキープやターンでタメを作ったりする。しかしサイドに張ったところからカットインで仕掛けたり、ポケットを取って敵の急所をえぐり、得点能力も高いことからFWとしての怖さを持ち合わせている。しかも右ウイングとしても機能する。ボランチも佐野が得意とするポジションで、NECの試合を追っていると戦術変更、負傷者などのアクシデントなどによって佐野のポジションがウイングからボランチに移ることが頻繁にある。

 かつてU-20日本代表とFC東京の監督として今野泰幸を指導した大熊清氏が「一家に一人、コンちゃん――じゃないですけれど、チームに1人、今野がいると助かります」と言ったのを聞いたことがあるが、まさに佐野航大も「一家に1人、航大」と言いたくなるほど汎用性の高いポリバレントなプレーヤーだ。

 8月4日、NECはこの夏最後のプレシーズンマッチをル・アーブル(フランス)と戦い1-1の引き分けで終えた。90分間フル出場した佐野に「昨季のNECは成績が良く、個々の選手も高く評価されたから、移籍して出ていった選手がたくさんいるけれど、思ったより残った選手も多いですね」と訊いてみた。

「そうですね。怪我人がもっと帰ってきたら昨シーズンみたいなチームになると思うんです。その状況に応じて、自分が色々なポジションを出来るのは大きいと思う。その1つ1つのポジションでもっと武器を出していきたい」

 つまり、佐野は単なるポリバレントなプレーヤーではなく、各ポジションのスペシャリストを目指しているのだ。

「左サイドだったら左サイドで自分の特徴を出さないといけないし、トップ下だったらトップ下で自分の役割をしないといけない。だから、そのポジションに応じた自分の武器というのをもっと作っていきたいなと思います」

 ボランチならエドガー・ダービッツのような攻守にエネルギッシュなピットブル。ウイングなら縦への突破に秀でたサイドアタッカー。“8番”ならリンクマンとして獅子奮迅の働きをし、トップ下なら四方を固められた狭いエリアでも打開できるテクニックとアイデア――。そして、どこのポジションでも共通するのは佐野にはエレガントな香りが漂っていること、ゴールへの意慾が旺盛なこと。

 そのポジションに応じた自分の武器というものをもっと作っていきたい――という佐野の抱負が実ったとき、我々は規格外のプレーヤーの誕生を目の当たりにするのだろう。(中田 徹 / Toru Nakata)