利上げ直撃の「不動産株」、軒並み下落も強気な訳
日銀による政策金利の引き上げは不動産業界にどこまで影響を与えるのか(記者撮影)
7月31日の日本銀行による政策金利の引き上げ決定を受け、日経平均株価が調整局面に入っている。8月2日の日経平均株価の終値は、前日比2216円63銭(5.8%)安の3万5909円70銭。2営業日連続の下落となった。
下げの目立つ業種の1つが、不動産関連株だ。利上げ決定の翌日、8月1日の終値ベースでは、東証33業種の中で最も下落率が高かった。三井不動産や三菱地所など大手デベロッパー株は、軒並み前日比8〜9%下落。2日も続落して終わった。
金利上昇の影響を受けやすい業界
不動産業界は、他業種に比べ、相対的に有利子負債比率が高い。また、利上げとなると、不動産のイールドギャップ(投資利回りと長期金利の差)も小さくなる。概して金利上昇の影響を受けやすい業界だ。そうした連想から、不動産株に調整が入っている。
では、今回の利上げで、不動産市場への懸念が高まったといえるのだろうか。
三菱UFJ銀行は7月31日、短期プライムレートを9月2日付けで、現行の年1.475%から1.625%へ引き上げると発表した。ほかの金融機関も追従するものとみられる。
短期プライムレートは、住宅ローンの変動金利の基準となる。ただ、現時点では住宅市場への影響は限定的という見方が強い。
住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇COOは、「実際の貸出金利は短期プライムレートほど上昇せず、代わりに無料の団体信用生命保険の保障をなくすなどの工夫をする銀行が出てくるのではないか」と話す。
住宅需要についても、買い控えに向かうとは考えにくい。とくに都心の一等地の物件は、海外マネーの流入もあり、引き合いが強い。
金利上昇は日本経済がインフレ局面に入ったことの裏返しでもある。「不動産価格が上昇を続けることを見越し、今のうちに資産形成を、というニーズが根強い」(塩澤COO)。
事業用不動産についても、金利上昇が売買市場に与える影響は軽微だとみられている。今回の利上げ幅(政策金利を0〜0.1%から0.25%に引き上げ)なら、日本のイールドギャップは他国と比べ相対的に厚いままで、引き続き海外マネーを呼び込む要素となるからだ。
加えて、住宅を筆頭に賃料水準も上昇をみせており、「利上げ幅は賃料水準と十分相殺できる水準にしかならない」(業界関係者)という見方が強い。
資材費や人件費の高騰に対する警戒のほうが強い
実際、今年3月のマイナス金利解除以降、追加の利上げが予想されていた中で、大手デベロッパー各社から、金利上昇を懸念する声はまったくといっていいほど聞こえてこなかった。利上げより、資材費や人件費の高騰に対する警戒のほうが強かった。
資金調達の面からみても、銀行の融資条件が大手に対して厳しくなることは当面ないだろう。
7月31日の日銀の金融政策決定会合後の会見で、植田和男総裁は「0.5%の壁」を意識していないと発言。2007年の利上げ時の上限となった0.5%を突破する、さらなる利上げもあるとの見方が広がり、不動産株の下落につながった。
それでも、依然として低金利水準であることに変わりはない。不動産市場の好調は変わらず、今回の株価下落はあくまで「一時的な調整で、すぐに元に戻るのでは」(塩澤COO)という見方が説得力を持つだろう。
(筒井 華子 : 東洋経済 記者)