「失礼がないように」と身構える必要はない…「怖い上司からのメール」の返信を一瞬で終わらせる必殺ワザ
※本稿は、佐々木 正悟『「ToDoリスト」は捨てていい。時間も心も消耗しない仕事術』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■気になっていることのすべてを紙に書く
アメリカ発の有名な仕事術である「ゲッティング・シングス・ダン(GTD)」は、いきなり時間を費やして「気になっているすべてのこと」を紙に書き出すようにいいます。
私が推している「タスクシュート」では、「今日中に手がけるすべてのこと」をひとつのシートにリストアップします。
両者はまったく異なる方法です。しかし、共通点もあります。
どちらにも、「思考を止めて手を動かす」作用があるのです。
先のことを考えると、私たちの心は消耗します。
「あれもこれもまだ終わってないのに、さらにあのプロジェクトと、さっき言われた用事と、ずっと手をつけられていないことなんかで頭がパンクしそう!」となってしまうのです。
気になることを紙に書き出すのであれ、シートにリストアップするのであれ、「それらについていちいち考えなくてもよくなる」という利点は得られます。
これは、用事を忘れなくなるというよりも、思考を止めるわけです。
■まずは1分間、思考を停止する
ただ、思考がすっかりクセになっている人も少なくありません。
とくに消耗しがちな人ほど、考えごとに浸る習慣があります。中には、「思考を止められるわけがない。私は自動的に思考してしまうのだから」と抵抗する人もいます。
でもそれはまちがっています。思考はそれほど特別なトレーニングを積まなくても、だいたいにおいて止めることが可能です。
いまでは、どんなスマホにもタイマー機能がついているでしょう。1分間だけセットしてなにもせず、いっさいの考えごとを停止してみてください。
最初から欲張って、瞑想やマインドフルネスに挑戦するのはやめましょう。
「これではとても泳げるようになれそうにない人」でも、練習して水に慣れれば不思議なほどラクに泳げるようになります。考えごともこれに似ていて、考えないほうがずっとラクだと気づくことができれば、そこからは早いものです。
■先の計画は役に立たない
私も以前は、「今日はあれとこれをし、明日はああしてこうして、これを1週間続ければ……」などと考えずには仕事ができませんでした。
それがいまでは、明日の予定など頭に浮かべるのもムリで、それどころか午前中には午後の予定すら想像できません。
これは、努力して「考えるのを止める習慣」を試行錯誤した成果です。
どうせ「先の計画」を立てても役になど立たないのです。
以前の私は、一年中24時間の記録を残し続けていました。その精密な「過去のデータ」をもとに「先の予想」をしていました。
ここまでやれば、少しは役立つ計画を立てられそうに思うでしょう。
しかし、結果としては「2日先の計画」ですら支離滅裂なものでした。初めは少し怖いでしょう。
でも、少しでいいから私を信じてトライしてみてください。
仮にうまくいかなくても、失うのは1分です。
思考を止めるのが怖くても、考えないのは1分だけです。1分経ったらいつもどおり頭が痛くなるまで、「考え」と「悩み」に浸りたいだけ浸りなおせるのです。
特殊なドラッグも、アルコールもカフェインすらいりません。タイマーを使って1分間、なにも考えないだけです。
それでも習慣にできれば、消耗せずに仕事を進められる精神が手に入ります。
■タイマーを1分間セットしてダッシュする
タイマーを1分間セットして、ダッシュしてみる、これを以前は5分でおすすめして、「5分だけダッシュ」と名づけていました。
やることはしごくシンプルです。タイマーを5分でセットし、その間だけダッシュしてたとえば部屋を掃除するのです。
これをさらに短くして、「1分間ダッシュ」するというわけです。
やることはなんでもかまいません。
■心の消耗を防げる
ただ、これは「ダッシュ」して「1分間で終了」にしましょう。
片づけてみたら思った以上にできそうだからといって、1時間も2時間もやってしまわないようにします。1分でいったん終了、できればそこで切り上げましょう。
この方法のメンタルへの効果は、不思議なくらいにあります。
少なくとも先に述べたとおり、思考が停止してくれます。さらに作業が進みます。
思考を止めて作業を進めるのが、心の消耗を防ぐ小さなコツなのです。
逆に思考だけが走って行動が止まったままだと、心は激しく消耗します。
頭の中で「やらなければいけないこと」や「できたときの達成感」を空想し、その空想が体を駆り立てるのに、現実はひとつも変わらないというのはつらいものです。
■取りかかってみる「1分着手」
「1分間ダッシュ」とは別に「1分着手」というやり方もあります。
これは拙著『先送り0』(技術評論社)で説明したやり方です。こちらもとても簡単で誰でもすぐにできます。
少なくとも1分間、作業や仕事に「取りかかってみる」というだけです。
ただしこちらは、「1分間ダッシュ」のように1分で必ず打ち切るのではなく、続けてやれそうだったら作業を続けましょう。
そういう意味で「ダッシュ」しなくていいと思います。
あくまでも、1分間はダラダラとでもいいので作業すればいいわけです。
これは場合によっては2時間、3時間と続けてしまってもかまいません。
まとめると、「1分間ダッシュ」と「1分着手」のちがいは、「1分でやめる」と決めておくかどうかだけです。
これは先に決めておき、それだけは守るようにしてください。
「ダッシュ」のほうは「ダッシュすること」にも意味があります。
続けてしまったといっても、1時間もダッシュし続けられるものではありません。
■「1分間ダッシュ」で部屋を整理する
先に、1分間ダッシュでは「なにをしてもいい」といいました。
この項目では、1分間ダッシュするのを「整理」にしぼります。
整理は、掃除でも片付けでもかまいません。
大事なのは、整理や掃除に「1分着手」するのではなく「1分ダッシュ」するところです。つまり手がけるだけでなく、ある程度やりきらなければなりません。
■「掃除」を大げさに考えていないか
私は掃除が苦手ではありません。自分の書斎はだいたいにおいて片付いているほうだと思います。
そんな私が、整理や掃除が苦手という人の話を聞いてよく思うことがあります。
彼らは「掃除」というものを大げさに考えすぎている、ということです。
私は、整理収納に関する本を買ったことがほとんどありません。その手のネット記事やYouTubeも見たことがありません。100円ショップの収納グッズもほとんど買いません。そんなことをしなくとも、部屋の整頓など「秒」でできます。
「それはおまえの部屋が片付いているからだ」と思われるでしょう。否定はしません。
しかし、ほとんどの部屋は、数百秒でいちおう見られるくらいにはなると思います。
それで十分のはずです。整理術、収納術など必要ありません。とりあえず片付けばいいのです。そのためには60秒でたくさんなのです。
整理こそ、「1分間ダッシュ」の効果を実感できるまたとない機会です。
時間はかかりません。体力もいりません。あっという間にみるみるうちに片付きます。「自己肯定感」も「自己有能感」も、これほど手軽に手に入る活動はないと思うのです。1分で結果が出せるのですから。
「ある程度でもやりきる」ことで、自信は育っていく
■「1分間ダッシュ」でメールを返信する
顔を見ただけで話もできなくなる「いかめしい上司」からきたメールへの返事が滞っているとします。
そもそも、そんなメールへの返事を滞らせるべきではありません。
しかし、そんなことは「百も承知」でしょう。
わかっていてもできないことが、この世にはたくさんあります。
これに限らず、返事や要望をつい後回しにする人の心理には、「失礼があってはならぬぞ!」という自らへの強すぎる戒めがあります。
「バカなやつ」とか「厚かましい」とか相手に思われるのを、なんとかして避けたいのです。
私はこの種の思いへのひとつの対策として、「1分間メールダッシュ」をおすすめすることがあります。
話を聞いていると滞っているメールには、ただ「了解しました!」とか「お願いします!」と1行打てば済むケースがいくつもあります。
いかめしい上司にしてみれば、「了解しました!」と言ってくれれば済むようなメールがなかなか戻ってこないのでは、むしろイライラしてしまうでしょう。
しかしやはり、「わかっていてもなかなかできない」というわけです。
だからこそ、1分間タイマーをセットして、返事してしまいましょう。
1分間というのは、思考するにはあまりにもわずかな時間です。
しかし、1行のメールを返すなら十分な時間でもあります。
■「失礼がないように」と考えすぎなくてよい
「わずかな失礼もないように!」と考えれば考えるほど、メールは長くなり、文が長くなれば「失礼の可能性」がむしろ増します。
しかし、「承知しました!」なら間違いようがありません。
これを、「私ごとき無能非才のごときものにあなたのような偉大な方から要望をいただき恐れ多いことでございます。このような大役は本来辞退すべきと存じますが、それもまた失礼かと愚考し、いえ決してご要望を承りたくないとはみじんも考えておりませぬが、しかしなにぶんにも浅学非才の身にて、身に余る大役を仰せつかまつることへの不安を打ち払い、あえて厚かましくもお引き受けいたそうと考え抜いた所存でございます!」と書くと話が伝わりにくくなるでしょう。
誤字や脱字も増えそうです。もちろん1分では返事ができなくなります。
心も消耗し、時間も消費します。
なるべく「承知しました!」で済ませるようにしましょう。相手の心証もおそらくよりよくなるでしょう。
----------
佐々木 正悟(ささき・しょうご)
タスクシュート協会理事、ビジネス書作家
1973年北海道生まれ。1997年獨協大学外国語学部を卒業。2004年Avila University心理学部卒業。2022年タスク管理・時間管理術であるタスクシュートの普及と、自分らしい時間的豊かさの提唱を目的として「一般社団法人タスクシュート協会」を設立。タスクシュートのユーザー数は、25000人を超える。著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほか、『iPhone情報整理術』(技術評論社)、『イラスト図解 先送りせず「すぐやる人」になる100の方法』(KADOKAWA)、『クラウド時代のタスク管理の技術』(東洋経済新報社)、『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』(技術評論社)、『やめられなくなる、小さな習慣』(ソーテック社)、『人生100年時代 不安ゼロで生きる技術』(三笠書房)、『先送り0』(技術評論社)など。ポッドキャスト「働く人に贈る精神分析チャット(グッドモーニングボイス)」を平日にSpotifyから配信中。
----------
(タスクシュート協会理事、ビジネス書作家 佐々木 正悟)