ともに「EVの展開加速」を掲げる2社だが、アプローチはやや異なっている(撮影:梅谷秀司)

EV(電気自動車)市場に関して、昨今はその代名詞と言えるテスラやBYDが減速しているという報道が多く出ている。だが、世界中が脱炭素に向かう中、中長期でのEVシフトは不可避の流れ。出遅れた日本勢も製造・販売のさまざまな面から挽回策を講じている。移り変わりの早い競争模様について、Q&A形式で解説する。

※記事の内容は記者による解説動画「Q Five」からの抜粋です。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。

Q:トヨタとホンダ、日本勢の巻き返し戦略は?

トヨタ自動車は中長期のEV戦略として、2026年までに150万台を、2030年に350万台を販売すると宣言しています。ただ、直近2023年度の販売台数は11万台。テスラやBYDの販売台数(年間100万台以上)にも遠く及んでおらず、今後急速にペースを上げる必要があります。

彼らは2020年代後半を戦略の中心に置いており、2023年秋に行われた「ジャパンモビリティショー」では次世代EVの「LF-ZC」を2026年に投入すると発表しました。充電時間を短く、一方で航続距離は長くして、ソフトウェア性、エンタメ性も備えた付加価値の高い車にする目標です。

これら2020年代後半に出てくるEVには、全個体電池など新しい技術が搭載されることも予想されます。トヨタがよく言っているのは、ハイブリッド車もFCV(燃料電池車)もEVも「全部本気でやる」ということ。今後はこの戦略がより鮮明になってくるでしょう。

対するホンダはさらに前のめりで、2024年に世界で売る新車をすべてEV・FCVにすると宣言しています。これは日本勢でホンダだけが宣言していることで、より”退路を断った”姿勢と言えます。

ただ、足元ではEV開発の難しさにも直面しています。アメリカのゼネラルモーターズと進めていた中小型EVの開発計画は、思ったような成果を得られず頓挫してしまいました。ホンダは「代替策は考えている」としており、具体的にどう挽回するのか注目です。

トヨタ同様、ホンダも「勝負は2020年代後半」と位置付けています。高価格帯として開発している「ホンダ ゼロ」、ソニーとの合弁会社で手がける「アフィーラ」など、複数のEVブランドの投入を進め、先行する海外メーカーに追いつきたい考えです。

Q:EV時代の到来で部品メーカーの今後は?

非常に大きな影響を受けると思われます。自動車には大体2万〜3万点の部品が搭載されていますが、中でもエンジン部品の占める割合は大。これがモーターに置き換わると稼ぎ頭を失ってしまうメーカーは多く、どう生き残るのかが深刻な課題になっています。

これもホンダとトヨタそれぞれの系列企業について、どんな対応策を講じているのか見ていきましょう。

まずはホンダ。2022年にはキーシステムを手がけるホンダロックという、ホンダとの資本関係もある”血の濃い”系列企業について、同業のミネベアミツミへ売却することが発表されました。燃料タンクを手がける子会社・八千代工業も、インド系部品メーカーへの売却を決めています。

2件ともホンダとのつながりが強い会社の売却だったため、業界に驚きが広がりました。部品メーカー関係者からは「売り飛ばすのか」という意見や、逆に「生き残りのための素早い一手だったのでは」という意見など、見方の異なるさまざまな声が上がっていました。

一方のトヨタ系は、「ホーム&アウェイ」という考え方の下、得意・苦手領域のすみ分けを推進してきました。例えばデンソーは、エンジン点火用プラグなど2事業を日本特殊陶業へ売却する計画。ホンダ系が「会社単位での再編」なら、トヨタ系は「事業単位での選択と集中」といえます。

EVシフトで影響を受けるのはエンジン部品だけではありません。ものづくり改革が進めば、車体部品メーカーの中からも必要なくなる会社が出てくる可能性は大いにあります。あらゆる部品メーカーがすでに危機感を持っており、生き残りに向けてここから数年がカギを握りそうです。

(横山 隼也 : 東洋経済 記者)