空港は通過点から目的地へ 飛ばなくとも滞在したくなる“空港の過ごし方”
今や空港は単なる通過点ではなく、わくわくとした時間を過ごし、ゆったりとした時間を過ごしたくなる旅の目的地へ…!国内の各空港は、宿泊施設や温泉、映画館や様々な展示など、渡航する予定がなくても、足を運びたくなる空間へと進化している。早朝便、深夜便のLCC(格安航空会社)をあえて選んでコストダウンを図り、空港で一泊してから旅に出る、帰路につくという選択肢も。夏のトラベルシーズンに向け、旅がさらに楽しくなる「空港での過ごし方」を提案したい。
羽田空港第3ターミナルに直結した「羽田エアポートガーデン」を使いこなす
首都圏の空の玄関口のひとつとしてすっかり定着した羽田空港第3ターミナルには空港に直結した複合施設「羽田エアポートガーデン」がオープンし、羽田空港はますます華やぐように。展望露天温泉や宿泊施設、会議場などを備えたコンベンションセンターや各都市をつなぐ大型バスターミナルなどがあり、まるで街のような機能をもつ。
2020年4月にグランドオープン予定だったが、コロナ禍を経て、2023年1月31日に全面開業。ショップやレストランのラインナップの豊かさにも驚く。
日本を代表する人気店が趣向をこらし、福井県鯖江市のペーパーグラス(老眼鏡)やスマートフォンアクセサリー、化粧筆など、機能性を極めた専門店も多い。ここでしか買えない限定品も並び、ショッピング目的でもわざわざ行く価値ありなのだ。食品もインバウンド層を意識しているからか、富山米100%あられ、京都祇園の高級デニッシュ、北海道の物産を集めたセレクトショップなど、羽田にいながら日本各地のおみやげが手に入る。ちょっとした手みやげが欲しいとき、わざわざ立ち寄るくらい私は活用している。
「羽田エアポートガーデン」は多摩川沿いに建つ。宿泊施設は機能的な1557室の大型ホテル「住友不動産 ホテルヴィラフォンテーヌ グランド 羽田空港」と、空港内には珍しいラグジュアリーな「住友不動産 ホテルヴィラフォンテーヌ プレミア 羽田空港」の2つのホテル。「プレミア」の方は、全室リバービューで、組子細工や金箔など、日本伝統の意匠を各所に取り入れ、滞在しながら日本の伝統工芸を鑑賞できる空間に。洗練されたレストランもあり、ゆったりと過ごすには最適だ。
宿泊しないともったいないのが全国と北海道をつなぐ新千歳空港
空港が通過点ではなく、滞在する場所として浸透したのは温浴施設・宿泊施設の充実にある。札幌駅からJR北海道の快速「エアポート」で1本の新千歳空港ターミナルビル4Fにある「新千歳空港温泉」は、スーパー銭湯のような施設。ナトリウム塩化物泉で、弱アルカリ性のお湯はなめらかで肌がつるつるになる美肌湯だ。
露天風呂やサウナだけでなく、ゆったりとくつろげる食事処や休憩処、あかすりやタイ風マッサージ、中国風足裏マッサージなどの施術も受けられる。テレビや漫画を見ながら休めるリラックスルームのほかに、宿泊可能な客室もあるので、早朝便の前泊や、夜遅い時間に到着したときの宿泊にもおすすめだ。
1人1泊9000円からという驚くべきバーゲン価格なので、早朝や深夜などの帰宅しづらいLCCの便を選び、旅の前後を空港で1泊するのもいい。時間に余裕ができ、疲れた体を癒してから出発、帰宅ができるので、翌日のパフォーマンスが各段に違うのだ。ちなみに新千歳空港にはこのほかに空港に直結した「エアターミナルホテル」やラグジュアリーな「PORTOM インターナショナル」などのホテルもある。
新千歳空港はラーメンやお寿司、スープカレーやソフトクリームなどの北海道グルメが堪能できることでも知られる。4階には映画館やゲームセンター、「ドラえもんのわくわくパーク」や「ハローキティ ハッピーフライト」「ロイズ チョコレートワールド」などのエンタメ性高い空間が点在している。
1日あっても回り切れないくらい充実していて、何度訪れても、ああ、もうすこし早く空港につけばよかった、と後悔する。まさに過ごすための空港だ。空港全体がアミューズメントパークのような役割を果たし、実際、近隣の住民にとっては格好の遊び場所だという。あぁ、うらやましい!
OMO関空を拠点にりんくうタウンを回る関西国際空港ならではの遊び方
関西国際空港のロケーションも独特だ。和歌山に近い大阪府南部の泉佐野市にあり、沿岸部から4キロ近く連絡ブリッジを渡ったところに位置する海上空港なのだ。関西南部に親戚が住んでいることもあり、私にとって関西国際空港は1994年9月の開業当時から身近な存在だった。
2025年春のグランドオープンに向け、国際線エリアも拡張しつつある。日本の国際空港として最大規模のウォークスルー免税店もオープンするという。
空港内にもホテルはあるが、楽しむのなら空港の対岸のりんくうタウンへ。公園や緑地、工業団地として開発されたりんくうタウンにはショッピングセンターやアウトレットなどの商業施設もあり、広大な観光地となっている。東京でいえばお台場のような雰囲気だ。
近くにはビーチや漁港もあり、マリンアクティビティも楽しめる。2020年には泉南ロングパークもオープンし、スポーツ・食・レジャーをまるごと体験できる拠点となった。空港を見ながらのグランピングも可能な時代に!
りんくうタウンにもホテルが点在しているが、私がリピート滞在しているのが駅に直結した「OMO関西空港 by 星野リゾート」。寝るためだけに「価格・アクセス・清潔さ」という機能だけで選ばれてきた空港周辺のホテルに、滞在そのものを楽しむ「空チカ、ファンタイム」をコンセプトに、旅の前、後にくつろげる施設となっている。
まずはチェックイン。まるで空港のカウンターのようにセルフチェックイン機がずらりと並び、待つストレスなし。フライト情報を表示するモニターもあるので、出発前の時間も有効に使える。早朝の無料シャトルバスや手荷物配送サービスなどもあり、荷物を運ぶストレスからも開放されるなど、とにかくムダがないのだ。
圧巻なのはサウナや半露天風呂のある大浴場。電気風呂や炭酸風呂もあるが、インバウンド向けなのか、弱め、ぬるめの設定となっており、高ぶった気持ちを静めるような効果が。空と海を見渡せる絶景ダイニングでの「エクスプレス・フル・ビュッフェ」も秀逸(しかも夕食2300円、朝食1800円とリーズナブル!)。夕食は串カツやお好み焼きなどの大阪グルメもライブキッチンで楽しみつつ、洋食、和食と、好きなメニューを好きなだけ、効率よく手早く楽しめる。きらめく夜景もごちそうだ。
早朝は無料で参加できるルーフトップ(屋上)での「空チカ体操」で気持ちよく目覚め、元気をチャージする。機能的な客室は700室。出張などのひとり旅から、ファミリーにはうれしい4人定員の畳スペース付き客室まで、ニーズに合わせて選べるのがいい。
シンガポール旅行で、「空港滞在」の楽しさに開眼!
空港で滞在する旅。その楽しさと効率の良さに気づいたのは実は2年前のシンガポール旅行だった。2019年に開業したチャンギ国際空港の複合施設「ジュエル」はまるでテーマパーク。中央には世界最大の高さ40mの人工滝があり、それを囲むようにショッピングセンターやホテル、庭園などがある。あまりの迫力に圧倒され、これは映画の中の風景?と思ったほど。次回は必ずジュエルで1日過ごす!と誓った。
日本の空港もどんどん進化している。1〜2時間で通り過ぎるのはもったいない!
この夏はちょっと視点を変えて、空港に滞在し、空港で遊び、空港で癒される旅を企画するのも一興だ。
文/間庭典子