どのようにしたら子どもは親の言うことを聞くようになるのでしょうか?(写真:プラナ/PIXTA)

【質問】

小4、小1、年中の3人の子どもがいます。日々、子育てに奮闘しています。特に何度言っても直らないことや、言うことを聞かないことで苦労しています。例えば、宿題をやるように言ってもやろうとしない、姿勢が悪いのを正すように言っても聞きません。日常のあらゆる場面でこのような状況で、どのようにしたら子どもは親の言うことを聞くようになるのでしょうか?

山崎さん(仮名)

どうして子どもは親の思い通りにならないのか

子育てでしばしば言われることに、「親の言うことは聞かないが、親のやっていることは真似する」という言葉があります。昔から子どもは親の言うことを聞かないようです。

筆者はこれまで1万3000人以上の保護者の方から相談受け、今も毎年2000人を超える方から子育てや教育の相談を受けています。その多くの相談の骨子は「子どもが私の思い通りにならない」というものです。

子どもと親では性格や価値観も異なることは頭ではわかっていても、いざ子どもと対峙すると親の思い通りにさせたくなる気持ちもわかります。

しかし、思い通りにいかない場合は、たいてい次のことが原因となっています。

「親の言葉が子どもに届いていない」

「そんなはずはない。わかりやすい言葉で子どもに伝えているはず」と思われるかもしれませんが、届いていない可能性が極めて高いのです。

それを理解できるあるエピソードを2つお話します。

(1)あるイタリアンレストランでの親子のやりとり

先日、あるイタリアンレストランで筆者は食事をしていました。通路を挟んで隣のテーブルにパパ、ママ、3〜4歳ぐらいの女の子が食事をしていました。ママは普段着ではなく、正装に近い服で、女の子も外出用の服を着ていました。

女の子はまだ小さいため、顎がテーブルの高さで、足はブラブラ状態。でもキチンと座って食べています。

しばらくすると、女の子がドリンクの中にある氷を取り出そうと手をグラスの中に入れました。

すると、ママが、怒り口調ではなく、丁寧に「手を入れないようにね」と声をかけ、子どもの手をグラスから出して、ママがお手拭きで手を拭いてあげていました。

ここまではよくある光景ですが、その後、子どもはまた同じことをやって、今度はなんと濡れた手をママの服で拭いたのです。

親の言葉の内容が伝わっていない

ママは、「ちょっと、やめて。服が汚れるじゃない!」と少しイラッとし、お手拭きで子どもの手と自分の服を拭いていました。

5分くらいして、また子どもは手をママの服で拭いたのです。

子どもはパスタやピザを食べているので、手が汚れている可能性大で、ママは、先程よりも、大きな声で、「やめてって言っているでしょ! ママの服で拭かない。わかったね。『わかった』は?」と言い、子どもは「わかった」と言っていました。

この段階で、筆者は絶対もう1回この子は同じことをやると確信しました。なぜなら、子どもには親が怒っていることはわかるけども、親の言葉の内容は伝わっていないからです。逆に親のその様子が楽しいとさえ思っている節もあります。

さらに、「『わかった』は?」と言われて、子どもは「わかった」と言っていますが、言いなさいと言われたから「わかった」と言っただけで、内容はまったく理解していないからです。

予想通り、また5分ぐらいして、ママの服で手を拭いて、今度はママはキレていました。

そのときの子どもの表情を見たら、なにやら楽しそうに笑みを浮かべています。つまり、子どもは、そのやりとりやママの反応が楽しくて”遊んでいる”のです。

ほんのちょっとしたことで子どもは変わる

では、このようなときママはどういえば、子どもはやめたでしょうか?

はじめの段階で、「手を拭くときはこれで拭いてね」と言って、お手拭きをただ渡せばよかっただけです。

すると、子どもはそれで手を拭きます。これは、走っている子どもに「走らないの!」と言っても、いったん止まったうえで、また走り出すことと同じ原理です。

強い口調で「止まれ!」と言われたので、驚いていったん止まりますが、その後どうすればいいのかわからないので、また走ります。

こういうときは、「ゆっくり歩こうね」と言えば解決するのに、「止まれ!」と言っているので、ある意味子どもは言われた通りいったんは止まっただけなのです。

ほんのちょっとしたことで子どもは変わるのですが、たいていは親側が方法を知らないので、そのときの感情の趣くまま対応し、「聞き分けのない子」「育てづらい子」「頑固」「癇癪持ち」と子どもに問題があるかのような判定をしてしまっていることもあります。

(2)電車内でのある親子のやりとり

電車内に3年生と1年生と思われる年齢の子とパパ、ママの4人が座っていました。子どもは退屈して少々はしゃぎ出しました。しかし、別に周囲には何の迷惑でもない状況でしたが、ママは「しー、静かにしなさい!」と指示や命令して落ち着かせようとしていましたが、子どもたちは一向に変化なく、相変わらずです。さらに、「静かにしないと変な目で見られるよ!」と脅迫構文を使ったり、「うるさくすると周りに迷惑でしょ!」と説得構文を使ってもいましたが、子どもたちは逆にテンションが上っているようで効果はまったくありません。親の言葉は子どもには一切届いていません。

ところが、途中でママが対応をスイッチングしたのです。これまでの指示、命令、脅迫、説得から、雑談と笑顔モードに入ったのです。

すると子どもたちは静まり、楽しそうにママと話をしています。どう見ても温かい雰囲気の家族という様子です。数分前の様相とは180度変わっています。

「雑談と笑顔」が子どもの自主性を引き出す

以上、2つのエピソードから、何を感じられたでしょうか。

親の声が子どもに届いていない最大の理由は、「怒っている」からです。怒るに類することとして、叱る、イライラしながら話すことも同じです。これらの状態で子どもに話すと、子どもは親の感情のみを受け取り、話の内容は受け取らない可能性が高いのです。だから伝わらないのです。何度言っても言うことを聞かないのであれば、親の言い方に問題があるのではないかと疑ってみることも一つの方法です。


筆者が相談を受けるたびにお伝えしていることがあります。それは2つ目のエピソードにあったように、「雑談」です。雑談をしているときは相手に対して負の感情が出にくいものです。そしてテーマも緊張するテーマではありません。勉強や生活習慣の話になると親の感情が出てきます。しかし、それ以外のトピックであれば、平和的な会話ができます。さらに、そこに、笑顔が入ると最強です。

「雑談と笑顔は最強」

これが今、山崎さんにお勧めしたいことです。子どもとの雑談を増やし、できればそれを楽しそうに話をしてみると、子どもは変わっていきます。すると、親がやってほしいことを子どもが自主的にやりだす現象が起こり、親が驚くという報告はこれまでいくつももらっています。この夏、ぜひ試してみてください。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)