「模倣こそがデザイン」と述べるデザイナーが示すデザインや設計とコピーの歴史
The Wall Street Journalやカリフォルニアに本社を置く決済サービスのStripeでデザインチームを率いた経験を持つマシュー・ストローム氏が、デザイン仕事の本質として「コピーすることこそがデザインの仕組みそのもの」と考える理由について語っています。
Copying is the way design works || Matthew Ström: designer & developer
20世紀のデザイナー、建築家のチャールズ・イームズ氏は、「私たちは『アート』をやっているのではなく、問題を解決しているのです」という言葉を残しています。1950年頃には、家具は価格や頑丈さ、オシャレさはトレードオフでしたが、イームズ夫妻は安価で耐久性が高く、流行のデザインも取り入れた椅子「LCW」を設計しました。このデザインは当時革命的で、Time誌は1999年に「LCWは今世紀最高のデザイン」と称賛しています。以下の画像左が、ハーマンミラーから現在も購入できるLCW。そして右が、Modwayという会社が販売している「Fathom」という椅子です。
イームズ夫妻は1947年にハーマンミラーにLCWの製造権を売却しており、コレクターは40年代と50年代に作られたLCWを「オリジナル」と呼んで愛好しています。ある意味では現在ハーマンミラーから購入できるLCWも、オリジナルからのコピーと言えます。しかし、ModwayのFathomは、美的にも機能的にもLCWと同一の椅子を、無許可かつ初期のLCWよりも安価で販売しています。
LCWとFathomの例から、ストローム氏は「何かを『オリジナル』(最初のもの、最高のもの、最も有名なもの、最も真実のもの)にしたり、『コピー』(同一のコピー、無許可の複製、解釈、リミックス)にしたりするものは、必ずしも明白ではなく、重要でもないということです」と指摘しています。ストローム氏によると、デザイナーは常に独創的である必要性を感じていながら、先駆的で革命的な発明者や設計者を崇拝する傾向があるという、矛盾した感覚の中にいるとのこと。
デザイナーは優れたデザインをコピーして取り入れるものですが、自分の作品のコピーを見ると激怒することも多いです。その例としてストローム氏はスティーブ・ジョブズ氏を挙げています。ジョブズ氏は初期のAppleで、研究開発企業のパロアルト研究所から多くのデザインを模倣しました。特にグラフィカルインターフェース(GUI)については、ジョブズ氏は「これは私が今までに見た中で最高のものだと思いました。すべてのコンピューターがいつかはこのように動作するようになるだろうと私には明らかでした」と語っており、1984年にMacintoshがリリースされたとき、GUIが採用されています。
一方で、MacintoshのUIをコピーしたとしてデジタルリサーチを訴えていたり、MacintoshのOSをコピーしたとしてMicrosoftを訴えていたり、その他にも2011年にはGalaxyシリーズがiPhoneやiPadに酷似しているとして提訴していたりと、ジョブズ氏は模倣されることを好みませんでした。
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対称的に、「DOOM」などで知られるコンピュータプログラマー、ゲームクリエイターのジョン・D・カーマック氏は「コピーは学習の方法であり、克服すべき課題であり、新しいアイデアの源泉である」という考えを持っていました。カーマック氏が初期にブレイクしたきっかけである「Commander Keen」は、「スーパーマリオブラザーズ3」のような横スクロールアクションゲームです。実際にカーマック氏らは、横スクロールアクションのプログラムを完成させるために、スーパーマリオブラザーズ3をリバースエンジニアリングした上で、その技術をピクセル単位でコピーしたと明かしています。
以下のムービーは、カーマック氏が任天堂に「スーパーマリオブラザーズ3のPC移植版」というアイデアを売り込むために作成したもの。PC版マリオのアイデアは任天堂に受け入れられなかったものの、この時の知識と技術を踏まえてCommander Keenが制作されました。
Super Mario Bros 3 PC Prototype from id Software - YouTube
カーマック氏は2005年に、特許についての考えを語っています。カーマック氏によると、難しい問題に取り組む賢いプログラマーは、先駆者と同じ解決策を思いつく傾向がありますが、先駆者がその解決策を特許化していたら、残りのプログラマーは困ったことになるとのこと。カーマック氏は「私は特許を取るつもりはありません。特許を取るということは、誰かのアイデアを強奪するようなものです」と述べており、実際に大ヒットしたDOOMやWolfenstein 3Dについて、特許取得を拒否した上でソースコードを公開しています。
ソフトウェアを広くコピー可能にすることを推進した活動家としては、リチャード・ストールマン氏が有名です。プログラマーとしても著名であるストールマン氏は、1983年にフリーソフトウェア財団を創設し、ユーザーが自由にソフトウェアを実行し、コピーなどで共有し、研究するための権利を推進するGNUプロジェクトを創設しています。
2001年に設立されたクリエイティブ・コモンズも、コピーに関する重要な革命です。数え切れないほどのクリエイティブ作品が、ライセンスと許可に対するオープンソースアプローチの恩恵を受けているとストローム氏は述べています。
ストローム氏は「コピーはソフトウェア開発やデザインの基本です。新しいアイデア、目新しさで栄える業界に、許容ライセンスやバージョン管理ツールが登場したことで、模倣することが革新的なアプローチであるように感じられました。しかし、真実は、コピーは何千年もの間、芸術と業界に影響を与えてきたということです。コピーすることに価値があると思うか価値がないと思うか、コピーがデザインコミュニティにとって貴重な部分だと思うか災いだと思うかに関わらず、あなたが使用しているソフトウェア、ハードウェア、Webサイト、アプリはすべてコピーによって存在しています。デザインがある限り、コピーは存在します」と語っています。