歯ブラシだけではお口全体の60%しか磨けていないと言われているため、歯間清掃もしっかり行いたいですね。 

そして、歯磨き粉は“フッ素”が最高濃度(1450ppm)入っているものを選んでください。加齢とともに歯茎が下がってくると、歯の根元部分が露出してきます。この根元部分は、とてもむし歯になりやすく、大人特有のむし歯です。治療がしづらく、神経までの距離も近いため厄介なむし歯と言われています。 

フッ素はむし歯の予防にとても有効なので1日2〜3回活用をしてください。 

◆3、喫煙の習慣化

喫煙は歯周病の1番のリスクとなります。タバコに含まれるニコチン等の成分は、歯茎の血管を収縮することで、歯茎への酸素や栄養の供給を妨げるので、歯周病がは進行しやすくなります。

また、歯にヤニが付着すると、ヤニにプラークが付着しやすくなります。このことからも歯周病は進行しやすくなります。 

当院にいらっしゃる30代で喫煙を行っている患者さんではまだ顕著な歯周病症状はみられないもののヤニの多量付着や歯茎の変色が生じています。

 加齢とともに徐々に歯周病が進行していくだけでなく、免疫力が低下したタイミングでの急激な歯周病の進行が生じる可能性もあります。 

◆4、定期検診やメンテナンスの受診をしていない 

むし歯も歯周病も症状に気が付いたころに歯科医院を来院しても、すでに抜歯しなければならない状態に陥っているケースも多々あります。 

定期的な検診で、リスクの診断、お口の中の現状、リスクへの対処を知らなければお口の疾患を予防することはできません。 

コロナ禍において歯科医院の受診をやめてしまい、最近になって「歯茎に違和感がある」とのことで当院にいらっしゃった患者さんの例を紹介します。

歯周病の精密な検査を行った結果、歯周病が進行状態であることが判明しました。歯と歯茎の間にある歯周ポケットの深さと出血の有無を調べる検査があり、正常なポケットの深さは3ミリ以下で、出血のある部分では現在歯周病による炎症が著しいという指標でみているのですが、初診時では、歯茎の腫れがみられ歯周ポケットも深く、出血もありました。

この状態がお口の中全体でみられました。残念ながら抜歯となってしまった歯も1本ありました。約2カ月に渡って、歯石の除去、オーラルケアアイテムの見直しと歯磨きの改善を行った結果、歯茎の状態は改善しました。

歯科検診の受診率は男性で特に30代で著しく低下します。30〜34歳男性では31.9%、35〜39歳男性では36.7%しか歯科検診を受けていません。多忙な生活が影響してのことと思われますが、一度健康バランスを崩してしまうとドミノ倒しのように悪化していくのが口腔内です。定期的な受診を心がけましょう。 

◆生活習慣の改善は口腔の健康でも重要な鍵

生活習慣の影響は全身だけでなく口腔にも影響を及ぼすことが伝わったのではないでしょうか。口腔の疾患は都度治療を行えば改善していくものではありません。治療の繰り返しが結果的に歯の喪失を招き、口腔の疾患から全身の疾患へと悪影響を及ぼしていきます。30代から自身の生涯の健康に黄色信号を出さないためにもしっかりと生活を見直してみましょう。

<文/野尻真里>

【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari