目黒蓮演じる主人公が住むのは、小田急線の経堂駅付近(画像:『海のはじまり』公式サイトより)

Snow Man・目黒蓮は小田急線、とりわけ世田谷区内の小田急線の駅がよく似合う。

目黒主演の月9ドラマ『海のはじまり』が放送開始し、第1話の序盤で、目黒が演じる夏の住む街が小田急線の経堂駅付近であることが明かされた。同じ脚本家・プロデューサーチームで作られた『silent』は世田谷代田駅が舞台だったことから、前作に続き、小田急線上、しかも世田谷区内という設定である。


経堂で暮らしている夏(目黒蓮)と、その恋人・弥生(有村架純)(画像:『海のはじまり』公式サイトより)

これは前クールのドラマ『95』でKing&Princeの郄橋海人が1990年代の渋谷に生きる高校生を好演していたのと好対照である。

駅のイメージとタレントのイメージを結び付けなくても……と思う向きもあるかもしれないが、本稿では場所のイメージと結び付けることで、より立体的に見えてくる目黒の魅力に迫ってみたい。


今回のドラマの舞台地のひとつとなる小田急線の経堂駅(筆者撮影)

キンプリは渋谷、SixTONESは六本木

2010年代にジャニーズJr.として切磋琢磨してきて、現在も活躍しているグループを駅に例えるなら、若い頃から勢いのあるKing&Princeが渋谷、少し年齢層が上で危険なイメージもあるSixTONESが六本木。

どこに行くにも経由地となるがその全体像は未知だったり、繁華街でありながら芸を探求する香りもしたり、味わい尽くせない魅力が広がっているという点でSnow Manが新宿、といったところだろうか。

そして目黒蓮は、そんな“新宿”Snow Manに途中加入している(2010年にジャニーズJr.になった目黒がSnow Manに加入したのは2019年。Snow Man自体は2012年から6人グループとして活動していた)。

新宿につながってはいるものの一定の距離がある、まさに経堂や世田谷代田のような存在だったのである。

【“聖地”写真】都会ながら牧歌的? 「目黒蓮に似合う」小田急線の駅たち(12枚)

そもそも、いまの世田谷区の地域自体が、明治・大正時代は東京市ではなく、昭和になってから東京市に併合された地域、すなわち“追加メンバー”なのだ。

小田急線の駅に例えられてもよくわからない方のために、少し小田急線について説明しよう。

小田急線は東京と神奈川を走る私鉄で、新宿と小田原を結んでいる。小田原は『海のはじまり』では、主人公・夏(目黒)のかつての恋人・水季(古川琴音)がいた街という設定だ。


主人公の夏(目黒蓮)と古川琴音演じるかつての恋人・水季は、大学時代に出会い、青春時代を過ごした(画像:『海のはじまり』公式サイトより)

新宿駅を起点に考えると、もちろん新宿駅は新宿区にあるのだが、次の駅である南新宿駅からはすぐに渋谷区に入る。そして、代々木上原駅までが渋谷区で、東北沢駅から喜多見駅までが世田谷区である。つまり、小田急線全駅70駅のうち10駅が世田谷区に存在する駅だ。


小田急線路線図。この図の右端が新宿区・渋谷区・世田谷区にあたる(画像:小田急公式サイトより)

『silent』の舞台だった世田谷代田も『海のはじまり』の経堂も、この10の駅の中の2つである。

さらに『海のはじまり』では夏と水季の通っていた大学が成城明正大学という名前になっている。実在しない大学だが、成城大学とその近くにある明正小学校を合わせた名前であることから、成城学園前駅付近にある学校をイメージしていることが推察できる。

東京23区内に存在する“田舎”

世田谷区自体が東京23区の中では南西に位置するが、その中でも成城は西寄りで、調布市や狛江市と隣接。高級住宅地とされながら、一部では農地や川なども見られる地域である。

いったい、世田谷区内の小田急線の駅とはどんな雰囲気なのだろうか。

渋谷区にある代々木上原・代々木八幡はハイソな雰囲気が漂うが、世田谷区に入った東北沢や世田谷代田は一転、駅を出ると視界が開けているのどかな駅だ。


代々木上原駅周辺。スタイリッシュで都会的な雰囲気だ(画像:dual180/PIXTA)

『silent』第1話のラストで、想(目黒)と紬(川口春奈)が再会したのが世田谷代田駅前の代田富士見橋だったが、天気がよければ、たしかに富士山が遠くに見え、近くに視界を遮る高層ビルなどはない。


代田富士見橋。『silent』第1話のラストで想の耳が聞こえなくなったことを知らない紬に対し、想が手話で訴えるシーンの舞台となった(筆者撮影)

間に挟まれた下北沢駅は京王井の頭線も交わり、カルチャー色も強く独特の賑わいを見せるが、基本的には世田谷区内の小田急線の駅周辺はどこも、のどかな住宅街といった様相だ。

それは、銀座や浅草のような関東大震災前から栄えていた街を東京だとイメージすると拍子抜けするほどで、“東京23区内に存在する田舎”と言ってもいい落ち着いた雰囲気だ。

渋谷・新宿・六本木といったギラギラした繁華街ともまた違う。落ち着きすぎていて、正直、ドラマの舞台として選ばれることが意外な、存在感が薄めの駅たちでもある。


経堂駅前の商店街。ここに出店して“予行演習”をした後に、渋谷区や港区に“進出”する飲食店も多い(筆者撮影)

レッスンが終わるたび「これが最後かな」

存在感が薄めでギラギラしていない――。その小田急線の雰囲気は、まだSnow Manに加入するはるか以前の目黒蓮とも通じるものがある。

いまやスターの風格が漂う27歳の目黒だが、驚くことに学生時代は「全然モテなかった」(※1)として、19、20歳頃の自分を「ちょっとイモっぽい」(※2)と認識。

「目立つグループにちょっと憧れも持ちつつ、『オレなんてどうせ……』みたいに思っていました。ジャニーズに入っても、『わぁ、かっこいい人がいっぱいいる! すごい!』って感じてました」(※1)と、アイドルとなっても周囲を見上げるようなマインドを持っていたようだ。

そもそも、オーディションの日から、背が高い目黒は「見えないコがいたら悪いな」と他の参加者に配慮し、最後列で踊っていたという。「誰かを押しのけてでもって強さもない」と自己分析している(※3)。

Jr.になってからも、レッスンに呼ばれる頻度は少なく「何カ月に1回声がかかるかどうか」だったといい、レッスンが終わって帰るときに、六本木駅の改札を入って階段を降りたところにある自動販売機でミルクティーを買い「車内で“このミルクティーを飲むのもこれが最後かな”って、いつも思ってました」と振り返る(※3)。

目黒の語るエピソードは、舞台が六本木でも飲み物はミルクティーと、どこか牧歌的ですらある。

同期の佐藤勝利は、入所後1年でSexy Zoneとしてデビューを果たすが、目黒は佐藤に対して「次元がちがいすぎて、悔しさを感じられる距離感じゃない」とその立ち位置の差を語る。ジュニアの番組に呼ばれることも決して多くなく「たまに出られたときもJr.のバックの列の一番後ろの端っこ」だったという(※3)。

本人も「自分は……ずっと日陰にいて」(※4)、「正直、デビューはムリだろうなってずっと思ってました」(※3)、「正直、あの子がデビューできるなんて思ってた人、いないと思うんですよ。それは客観的に見て、自分でも分かる」(※5)という自己評価だったのだ。

『海のはじまり』で目黒が演じる夏は、私大を出て、印刷会社で働くという、その設定だけ言えばどこにでもいそうな一般的な男性だ。特にカリスマ性があるわけではなく、1話で水季(古川琴音)に妊娠を告げられたり、電話でフラれたりしたときの動揺の仕方なども、本当に普通の男子大学生のようだ。

しかし、いまや目黒蓮はスターである。そんなスターが普通の男性を演じられることに卓越した演技力を感じるとともに、この存在感の薄かった時期、誰かを押しのけてまでの強さがなかった時期に培ったものが、いまも目黒の中に引き出しとしてあり、時折顔を出すからこそ、ハマっている役のようにも感じるのである。

“小田急線”を経由して“新宿”にやってきた目黒蓮。繁華街でありながら落ち着く雰囲気が残っているのも魅力のひとつなのだ。


『海のはじまり』で夏と水季が通っていた大学のモデルと見られる成城大学がある、小田急線・成城学園前駅(筆者撮影)


都会ながら、どこかのんびりした雰囲気が漂う駅前。周辺には東宝の撮影所もある。映画『七人の侍』(1954年)に出てくる百姓の村は、その近くでオープンセットを建てて撮影された(筆者撮影)

震える字で「デビューしたい」と書いた

2話では、目黒演じる夏について、

「言葉にするのが苦手な子だから。でもなんも考えてないんじゃないの」

「考えすぎちゃって、言葉になるのが人より遅いだけだもんね」

と両親が会話するシーンがある。

この夏の人物造形には目黒と重なる部分がある。かつての目黒を、存在感が薄く、誰かを押しのける強さはないと先述したが、それは意志がなかった・考えてこなかったということではない。

19歳の頃、「このままじゃダメだ」と感じた目黒は、「光が見えてなかったら辞めようってリミットを決めました」と、2年後をタイムリミットにしていたという。そして、「やりたいことはやりたいと口に出す。失礼かもしれないとか思わないで、まずは意思表示する」(※3)と決意する。まさに、人より遅めに言葉にし始めた瞬間だ。

さらに、タイムリミットまでに叶えたいことを“夢ノート”に書き出した。Jr.の番組に出ること、モデルをすること、ドラマに出ること……そして、震える字で「デビューしたい」と書いた。

「当時はそのどれもできていなくて、自分も周囲も『絶対無理じゃん』と思うような夢だった」(※6)と振り返るが、目黒は2、3年でこれらすべてを叶えることになる。さらには、80歳くらいまで自分の未来図を決めているというから(※7)、時代に流されない強いスターとして存在し続けていくだろう。

小田急線の世田谷区の駅のような、ゆったりとした雰囲気を纏いながら、芯の部分で意志の強さを持ち、それを言葉にしていったときに、目黒の人生は展開していった。自分でも「僕自身に熱い部分があるのかもしれません」と語っている(※6)。


世田谷代田駅。『silent』放送直後から週末には人が多く集まるようになり、聖地化した(筆者撮影)

やはり「目黒蓮に似合う駅」は…

そういえば、小田急線とは対極にある“港区”男子を演じたこともあった。映画化も決定している、昨年の目黒の主演作『トリリオンゲーム』。目黒演じる主人公は起業をし、IT企業やテレビ局を舞台にのし上がっていく。

この作品の舞台は、そういった会社が多くあるような、港区を彷彿とさせる。いわばギラギラした東京だ。

目黒自身も、人生ゲームの駒を進めてきた。俳優として『silent』でブレイクし、Snow Manも2021、2022年度に続いて今年も上半期のオリコン・アーティスト別セールス部門で第1位になるなど絶好調だ。だが、ブレイクを経てギラついているかと言えばまた違う。

Snow Manとして国民的アイドルと呼ばれるようになりたいという野望を持ちながらも、「究極を言えば、自分たちを応援して好きでいてくれる人たちが、幸せで元気に生きてくれていたら、それより大切なものってこの世にないんじゃないかと思うんです」とも語っている(※6)。

競争を煽られる東京の中にありながら、本当に大事なものを忘れないで幸せに生きる意志がある――。やはり、目黒蓮は世田谷区の小田急線の駅が似合う人物なのである。


世田谷区の東端・東北沢から新宿方面を望む。代々木上原駅周辺にあるモスクや、NTTドコモ代々木ビルなどが見える(筆者撮影)

【“聖地”写真】都会ながら牧歌的? 「目黒蓮に似合う」小田急線の駅たち(12枚)

※1『CanCam』2021年11月号

※2『週刊朝日』2022年12月9日号

※3『MYOJO』2021年3月号

※4『日経エンタテインメント』2024年8月号

※5『日経エンタテインメント』2021年2月号

※6 『AERA』2023年3月20日号

※7 『TVガイド』Alpha vol.34

(霜田 明寛 : ライター/「チェリー」編集長)