望む結果を得るために、伝え方にはいろんな型があることを理解しましょう(写真:metamorworks/PIXTA)

「あなたが好きです」。これをそのまま伝えたら、あなたが望む結果はなかなか得られないかもしれません。しかし、ここにひと工夫を加えると……。博報堂のコピーライターとして、国内外20以上の広告賞を受賞してきた井手やすたか氏の新刊『伝え方図鑑』から一部抜粋、編集して、望む結果を得るための伝え方と、いくつかの“型”についてお届けします。

ケース:気になっている女性に好意を伝えたいIさん

ここでは実践例を使って、「気になっている女性に好意を伝える」というシンプルなケースで考えていきたいと思います。

█状況

Iさんは、20代の男性、ごくふつうの会社員です。先日知り合った女性に、彼は好意を寄せています。その好意の伝え方として、最も効果的な言葉を探しています。伝え方は、口頭でも、スマホで送るテキストでも、伝われば何でも良し。いろいろ考えて、ベストを探りたいと彼は考えています。

このお題、現実の世界で考えると、とてもハードルが高く難しいテーマに思えますが、そんな状況でも、紹介した「伝え型」たちは頼もしいヒントや答えをくれます。実際に、いろいろ当てはめて考えていきましょう。

█【「理由づけ」の型】

まずはこちら。「君のことが好きなんだ、なぜなら……」と伝えたあとにその理由まできちんと伝える。これは今回のケースに関しては、効果的というよりは、人としてそこまで伝えることがワンセットであるべきシチュエーションにも思えますが……なぜ好きかきちんと言葉にして伝えることで誠実な印象になると思います。なんとなく、と言われるよりも、好きになったきっかけや具体的に好きな部分を伝えてもらったほうが、相手にとってはうれしいかもしれませんね。


『伝え方図鑑』より引用

█【「問→答」の型】

ほぼ同じ内容にはなりますが、こういった内容の場合、「君のこと、僕はどう思ってると思う?」とわざわざ問いにすると思わせぶりすぎて、ちょっとだけ自分に酔ってるウザい感じに聞こえてしまう可能性がありますよね。でもたとえば「君のことをどうして好きになったのか、その瞬間っていつだったと思う?」という言い方をすれば、相手をハッとさせる効果があるかもしれません。


『伝え方図鑑』より引用

対極にある強い意味で前フリする

█【「対極」の型】

これはいろんな言い方ができると思います。「好き」の対極にある前フリを、いろんな切り口で表現できるからです。

たとえば、

「すごく落ち込んでるときでも、君を想うと元気がでる。そのくらい君のことが好きなんだ」
(=「好きという感情」を最大にする対極の前フリ)

「いままでの恋愛が恋愛ごっこだったと思えるくらい、君のことが好きなんだ」
(=「本気度」を最大にする対極の前フリ)

「集めてきた宝物をぜんぶ失ってもいいくらい、君のことが好きなんだ」
(=「自分にとって大切な存在」を最大にする対極の前フリ)

自分が抱いている感情に合わせて、いろんな表現ができると思います。


『伝え方図鑑』より引用

█【「ずらし」の型】

この型は、似たようなフレーズを並べて、その微差の部分に伝えたいことを込めるテクニックです。たとえば、

「君のことが好き。笑ってるときの君は、もっと好き」

という表現ができたりします。君のことが好き、とだけ伝えるよりもそこにリアリティが生まれていますよね。


『伝え方図鑑』より引用

違う方向に意識を向けることで、印象深く伝える

█【「はずし」の型】

あえて意外性のある伝え方をすることで印象深く伝える方法です。

「僕の好みのタイプって、けっこう強気で物怖じしない系の人なんだよね。君とは違うタイプ。いつもはそういう人を好きになるんだけど……でも、なぜか君を好きになっちゃった」

あえて違う方向に意識を向けて、本来伝えたいことを意外性をもってぶっ込むイメージです。


『伝え方図鑑』より引用

█【「ネーミング」の型】

好き、という感情を伝えるために、無理やり何かにネーミングする方法もあります。

「どうも。僕は、ただの友達だと思っていたあなたへの恋心に気づいてしまった男です」

この型や【「パロディ」の型】【「擬人化」の型】などは、少しユーモアを感じる伝え方になるので、照れ隠しのような印象になりそうですね。


『伝え方図鑑』より引用

「伝え型」を使うこと自体が目的ではない

とにかく型に当てはめるだけで、いろんな印象をつくることができました。当然、どの伝え方が正解かは、Iさんと彼女の関係や状況によります。そのシーンにふさわしい最適解を選ぶために、選択肢を幅広く思いつけるようにふだんからこういう型があることを意識して吸収することが大事です。

という感じで、ここまでいろんな「伝え型」によるアプローチを考えましたが、実は、今回の実践編には別の狙いがあります。それは「好意を寄せている相手への伝え方」というテーマ選びにあります。

人が人に「好き」だと告白する。その言葉には、その人が感じている真実の気持ちが込められているべきであり、そうでないと、相手の心を動かすような力は宿らないと思います。

先述したそれぞれの「伝え型」は、文字通り型にはめただけの言葉であり、このケースの場合、それは「答え」ではなく「ヒント」だと考えるべきでしょう。「伝え型」を使うこと自体が目的になってはいけません。手段に溺れず、本当に大切なことを見失わないようにしましょう。

ケース: 打ち解けるのが難しいクライアントJさんとの接待を任されたKさん

次に「自分の言葉を強くする伝え方」を学んでいきましょう。この実践例では、とくに共感能力が必要とされる接待という場でのコミュニケーションの例を見ていきたいと思います。

█状況

ある会社に勤める営業担当者のKさんが、取引先との接待を任されました。そのお相手というのが、部内でも難攻不落で有名なクライアントJさん。ほぼ初対面に近い面識しかないJさんと、接待の場でどのように打ち解けていけばいいのか悩んでいる、という状況です。

このケースは、相手のツボがどこにあるかわからないので、必ずしも最初から正解がこれとは言い切れません。一つずつ探りながら試していく、というのが順当な攻め方でしょう。

█【「興味入口」の型】

まずKさんが試したのは、やはりこちらでした。共通の興味を会話の糸口にしたい。しかし、打ち解けた人が部内に誰もいないJさんのことなので、Kさんにもわかりません。本人の趣味嗜好を知っていれば切り出しやすいのですが、それがないので、とりあえずKさんは世の中の話題になっている時事ネタを出してみることにしました。


『伝え方図鑑』より引用

Kさん:「いやあ、秋だというのにまだまだ暑いですね。ちなみに、今年の冬は暖冬になるらしいですが、ご存知でしたか?」

共通の話題としてはなかなかいいアプローチだと思いますが、Jさんには刺さりませんでした。話題が無難すぎたのでしょう。すかさずKさんは次の話題で攻めます。

Kさん:「しかし、L社の新商品には驚きましたね。業界内でもその話題で持ち切りですよ!」

Kさんは、Jさんと共通の業界内の話題を出しました。が、これもビジネスの延長だと感じられたのか、空振りに終わります。この型は、相手の興味が何かわからない状況で使っても、うまくいかないことがある型ですね。Jさんの興味を知らないKさんには、このアプローチで突破するのは厳しいかもしれません。

どの型がどういうシーンで活きるのかを理解する

█【「心配」の型】、【「ムチ→アメ」の型】

Kさんは次に、ちょっと冒険ですが、この2つの型を使ってみることにしました。

Kさん:「しかし、Jさんはなかなか寡黙な方ですね。私なんかはおしゃべりなので、ちょっと心配になってしまいますが……でも、そんな方だからこそ、お言葉に重みが出るのかもしれませんねえ」

これは、結論から言うと失敗でした。Jさんの表情はさっきよりも固くなったようにも思えます。Kさんが失敗したのもそのはず、この2つの型は、相手に苦言を呈する必要があるシチュエーションでこそ活きる型だからです。

型を使うことだけが目的になってしまうと、失敗してしまうこともあります。どの型がどういうシーンで活きるのか、どういうときに使うと失敗してしまうのか、理解しておくのは大切です。



『伝え方図鑑』より引用

█【「弱さを認める」の型】、【「本音」の型】

Kさんは、接待の途中でしたが、落ち込んでしまいました。Kさんには、もともと人とのコミュニケーションが得意なほうではない、という自意識がありました。持ち前の真面目さや素直さの魅力でなんとか営業としての信頼を勝ち得てきたタイプだったので、接待の場は苦手という意識が本人の中にもあったのです。

Kさん:「Jさん、口下手な僕が相手ですみません。なんとかJさんに楽しんでいただこうとあれこれ話題を考えてはいるのですが……はは。でも、ごはんが美味しいことが救いですね」

思わず本音を漏らしてしまったKさん。でも、Jさんのツボはここでした。

Jさん:「いえ、口下手なのは僕のほうです。誤解されることも多いんですが……僕も本当にコミュニケーションが苦手で。あ、ごはん、確かにおいしいですね」

正直に心を開いたKさんにつられる形で、Jさんも心を開いてくれました。Kさん的には計算外でしたが、あれこれアプローチしたことが報われた瞬間です。

状況や相手との関係によっていろいろ試してみる

Kさん:「そうですか……! よかった、そう言っていただけて、僕もほっとしました……。あ、ホットと言えば、秋だというのにまだまだ暑いですね。今年の冬は暖冬になるらしいですよ?」


Kさんは調子にのって、「天丼」と言われるジョークのテクニック(一度使ったジョークを忘れたころにふたたび持ち出すこと)で【「ユーモア」の型】まで差し込みました。でもここまで来たらJさんも打ち解けているので、笑ってくれました。

今回の実践例では、あえて、すべてがうまくいくわけではないパターンを考えてみました。うまく伝わるためのメカニズムを理解していないと必ずしもうまくいくわけではないということ、状況や相手との関係によっていろいろ試したり学んだりすることが大事、ということを伝えたかったからです。

そのときに必要になるのが、いろんな型があること自体を理解し、とっさに使えることだと思います。完璧にすべてを暗記するというより、自然に使えるようにふだんから意識することが大事です。



『伝え方図鑑』より引用

(井手やすたか : 博報堂ケトル コピーライター/クリエイティブ・ディレクター)