ようやく国内事業の利益が復活、明確な成長路線を示せるか(記者撮影)

コロナ禍以降、苦戦が続いた国内事業に、ようやく復活の兆しが見えてきた。

サイゼリヤは7月10日、2024年8月期の第3四半期決算(2023年9月〜2024年5月)を発表した。売上高は前年同期比23%増の1632億円、営業利益は同2.8倍の100億円と増収増益だった。

力強い回復は中国を中心とするアジアの貢献が大きい。しかし、これまでと異なるのは国内の復活だ。第3四半期(2024年3〜5月)は13億円の黒字となった。前年同期の2300万円の黒字から大幅に改善している。

既存店の集客力は他社を圧倒

国内は利益面の苦戦が続いていた。今期も中間決算までは「ギリギリ黒字」の状態だった。復活のカギとなったのは既存店の動向だ。既存店売上高は32カ月連続で前年実績を上回り、好調を維持している。


特に客数の伸びは他社の追随を許さない。3月は前年同月比21.6%増、4月が17.6%増、5月も17.2%増と絶好調だ。他社が値上げをする中で価格を据え置き、集客力で優位に立っている。

客単価も上昇した。2019年8月期に735円だった客単価は年々じわりと上昇を続け、今第3四半期末には822円となった。値上げせずとも、5年間で客単価は1割ほど上昇しているのだ。

サイゼリヤの松谷秀治社長は「値上げをしていないのにここまで客単価が上がるとは思っていなかった。組み合わせでの注文が浸透した効果」と手応えを語る。3カ月ごとに実施するメニュー改定で、単価の高いメニューを導入したことも客単価の上昇の要因となっている。

「物価上昇を受けて1回の食事で使用する金額は増えている。注文数も増えているので、客単価はまだ上げられる」と松谷社長は語る。今後、デザートやドリンクのメニューを拡充し、客単価の上昇につなげる考えだ。

好調の背景にはオペレーションの改善もある。店舗スタッフの採用や教育を強化してきたことに加え、セルフレジやモバイルオーダーの導入店舗も広げ、回転率を底上げしてきた。

松谷社長は「営業時間の延長やDXは全店舗でできておらず、既存店の客数はまだ伸びる余地がある」と話す。

収益柱のアジアも好調を維持している。第3四半期累計の売上高は前年同期比30%増の580億円、営業利益は同66%増の82億円と増収増益となった。依然として営業利益の8割をアジアで稼ぐ。

中心となる中国は不動産不況の影響などで消費が低迷しているが、サイゼリヤは安価なイタリアンとしての地位を築いている。不況も追い風に集客力を維持しているようだ。国内と異なり、値上げも業績に貢献している。

今2024年8月期は、通期で国内の営業利益が20億円、アジアは100億円と計画している。足元の勢いを維持できれば、計画を超過達成する可能性もありそうだ。

優待廃止で個人投資家にショックも

好調な決算の一方で、サイゼリヤは同日、株主優待の廃止を発表した。これまでは100株以上保有で2000円分、500株以上で1万円分、1000株以上で2万円分の食事券を、継続保有する株主に送付していた。今2024年8月期末の株主優待から廃止となる。

これを受けて翌11日の株価は、前日終値の5750円から一時500円下落。優待の恩恵を受ける個人投資家などから嫌気された格好だ。

松谷社長は優待の廃止について「未出店地域の株主や海外投資家など、優待を利用する機会のない株主からの声が多かった。優待券の不正転売もあり、配当を上げて公平性を保つ」と説明した。配当による株主還元を強化する方針で、今期の年間配当予想を18円から25円へ引き上げている。


個人投資家に人気の株主優待を廃止する(記者撮影)

今後はDOE(株主資本配当率)を基準とした配当を検討する。単年度の業績で算出する配当性向による還元と比較して、継続的に利益を積み上げ、成長することが求められる。

成長に向けて、今後も投資を続けていく。中国は広州新工場の稼働を控えており、店舗数の拡大も進める。不況で他社店舗の撤退が相次ぎ、出店する土地や従業員は順調に確保できている状態だ。来期は新たな地域への出店も視野に入れるなど、攻勢をかける。

一方、国内は低い利益水準から抜け出したばかり。既存店は好調だが、食材費などのコストは高いままだ。収益構造の改善は今後も課題となる。また、2019年8月期の1093店を境に店舗数の減少が続く。国内も成長に向けて出店を強化する必要がありそうだ。

優待廃止のショックを乗り越え、株主に一段の成長を示すことができるか。松谷社長をはじめとする経営陣の手腕が試される。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)