「怒鳴り散らすクレーマー」に有効な3つの対応策
(写真:zon/PIXTA)
客からの理不尽なハードクレームやカスタマーハラスメントへの対策は多くの企業・組織にとっての急務となっています。2022年に厚労省が作成した「カスタマ―ハラスメント対策企業マニュアル」を参考に、大企業が次々とカスハラへの対応方針を公表しています。
今回はクレーム対応百戦錬磨の研修講師である津田卓也氏の著書『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』より、カスハラやハードクレームの対応方法を解説します。
大企業が次々とカスハラへの対応方針を公表
今年入り、大企業が次々とカスハラへの対応方針を公表しています。しかし、各社が発表した対応方針の内容をみても、具体的にどのような行為をカスハラとするのかは厳密に定義されていません。
また、カスハラ対策に注目が集まっているといっても実際の対応方法についてはまだまだ浸透しておらず、真摯に対応すべきクレームと、毅然と断るべきハードクレームとを区別せずに扱っている組織がほとんどです。
カスハラやハードクレームは、従来のクレーム対応とは全くの別物として対処する必要があります。そして、これらに対処するには、組織が主体となって対応マニュアルの作成とバックアップ体制の整備を進める必要があります。ハードクレーム対策は、現場スタッフの接客スキルの問題ではないからです。
クレームは突発的に起きる上に、多種多様なため、いくらクレーム対応の方法について勉強し、研修を受けていても、なかなか上手に対応ができないというご相談を受けることは少なくありません。それでも、クレーム対応は初動が肝心ですから、落ち着いて対応することが必要です。
どう対応すれば良いかを何度も繰り返してフレーズと共にシミュレーションすることで、実際にクレームが起きて、シミュレーション通り対応していくうちに、だんだんと落ち着くことができます。個人のスキルに頼るのではなく、組織が主体となって対応法を決め、現場でシミュレーションすることが重要なのです。
では実例をシミュレーション形式で見ていきましょう。
怒っている場合は「3つの代える」を実践
【事例:怒鳴られ、暴言を吐いてくるお客様】
クレーム対応の途中で、お客様が急に怒り出してしまいました。
周りにいる他のお客様もびっくりするような大声を出され、こちらが必死でなだめようとしても、
「お前じゃ話にならない」
「馬鹿野郎!」
「常識がないやつだ!」
などと暴言を繰り返し、収まる気配がありません。
【NG対応:萎縮して、怒鳴り声をただ浴び続ける状態になる】
自分の要求を通そうとして、従業員に暴言を吐いたり怒鳴ったりするお客様が増加しています。大声で怒鳴っているからといってすぐに「これはハードクレームだ」と判断してしまうのは危険ですが、暴言の内容が度を越している場合には、ハードクレームとして対応するしかありません。チームでの対応を原則として、スタッフ一人だけで対応しない・させないようにしましょう。
お客様が怒って手が着けられない場合は、「3つの代える」を実践します。クレーム対応の基本中の基本なので覚えておきましょう。
・人を代える
・場所を代える
・時を代える
この「3つの代える」を実践して相手のクールダウンを試みましょう。
また「お前はバカなのか!」「言う通りにしないと殺すぞ!」など、身の危険を感じるような暴言を吐いてくる人には、対応者が怖がっていることを伝えるのも効果的です。
周りに聞こえるような大きな声でなどと伝えれば、周囲のスタッフに状況を伝えることになりますし、相手をひるませる効果があります。
どんなに怒っているお客様も人間なので、「そんなにひどいことをしてしまっていたのか」と冷静になって反省しはじめることもあります。
これは、相手を責めているのではなく、自分の現状を伝えているだけなのでお客様に対する脅しにも侮辱にも該当しません。
もし相手が、「俺に恥をかかせようとしているのか!」などと逆上してきたら、「私は自分の恐怖を伝えているだけですが……」と言い返しましょう。お客様対応であっても、緊急時には自分の感情を優先させ、思いをさらけ出して構いません。
このように、怒鳴って暴言を吐き続けるお客様には、チームで対応しましょう。一人で対応せざるを得ないときには、自分が怯えていることを大きな声で伝えると効果的です。
個人情報を聞き出そうとする常連への対応
もう一つ、実例をシミュレーション形式で見ていきましょう。
【事例:名前を教えろと言われた】
私の職場には、名札がありません。
よくお越しになるお客様から「きみの名前はなんて言うの? 教えてもらえない?」と聞かれました。
クレーマーとして要注意人物というわけでもなく、何より常連さんです。私としては本名を教えたくはないのですが、ここで名前を答えないのは不誠実な対応なのでしょうか?
【NG対応:「○○○○と申します」と、正直に本名を伝える。】
スタッフの個人情報を執拗に聞き出そうとするのは、「このスタッフは、私のことを理解してくれている。またお話がしたい」というのが真の欲求です。
だからといって、お店のファンになるわけではなく、名指しでクレームを入れてきたり、SNSで根も葉もないことを拡散されたりする場合もあり、注意が必要です。
「プライバシーに関わることなので、お教えできません」
名札がなく、名前を公表しないのは、組織に何らかの方針があるからです。個人の判断で名前を伝えるのは控えましょう。
また不用意に伝えてしまった場合、今後、名指しで対応を求められるほか、嫌がらせをされる可能性もあります。
あなた一人が個人情報を教えてしまったことで、次回から別のスタッフにも同じように、氏名の開示を要求しはじめるかもしれません。
「名刺を出せ」と言われた場合は?
特にお客様の様子に不審な点が見られなくても、自分や同僚の身を守るためにも、組織の方針である以上、個人情報を明かすことは避けましょう。また、「名刺を出せ」と言われた場合でも「ただいま、名刺を持ち合わせておりません」と断ります。相手が喰い下がってきた場合は、
「なぜ私の名刺が必要なのか、理由を教えていただけますか?」
と、切り返しましょう。トラブル発生時に名刺を求められるのは、役職の確認や氏名の確認が目的です。名前や住所を教えた場合と同様に、嫌がらせをされる可能性もあるので注意しましょう。
名前や住所を聞いてくるお客様に対しては、「会社の方針で個人情報を伝えてはいけない決まりです」と徹底してお断りすること。不用意に個人情報を明かすと、自分や同僚が思わぬ被害に遭うこともあるということを覚えておきましょう。
(津田 卓也 : クレーム研修担当講師/Cube Roots代表)