アストロスケールの実証衛星が大型スペースデブリの周回観測を実施
株式会社アストロスケールは2024年7月9日、同社の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」が観測対象のスペースデブリ(宇宙ごみ)に対する周回観測を実施したと発表しました。【最終更新:2024年7月10日12時台】
ADRAS-Jはデブリ除去の新規宇宙事業化を目的とした宇宙航空研究開発機構(JAXA)の取り組みである「商業デブリ除去実証(CRD2)」の実証衛星です。CRD2は大型デブリへの接近・近傍制御と情報取得を実証するフェーズIと、大型デブリの除去を実証するフェーズIIの2段階に分かれています。ADRAS-Jは2022年3月にフェーズIの契約相手方として選定されたアストロスケールが開発と運用を担っています。なお、アストロスケールはフェーズIIの契約相手方にも選定されており、捕獲用のロボットアームを搭載する実証衛星「ADRAS-J2」の開発が進められています。
日本時間2024年2月18日夜にRocket Lab(ロケットラボ)の「Electron(エレクトロン)」ロケットで打ち上げられたADRAS-Jは、観測対象のデブリである「H-IIA」ロケット15号機の上段(2段目、全長約11m・直径約4m・重量約3トン)への接近を開始。4月17日には後方数百mまで接近することに、5月23日には後方約50mまで接近することに成功していました。H-IIA15号機は2009年1月に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」の打ち上げに使用されたロケットで、同ロケットの上段は大型デブリとなって地球を周回し続けています。
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アストロスケールによると、観測対象のデブリから約50mの距離を維持しつつ、その周りを飛行しながら撮影を行う周回観測が2024年6月19日に実施されました。ADRAS-Jはデブリを3分の1(120度)程度周回するまでは安定して飛行していたものの、デブリとの相対姿勢制御の異常が検出されたことから、衝突を回避するために安全な距離まで自律的に退避しました。
回収できないデブリを軌道上から除去するには、速度を減速させて大気圏に再突入させる必要があります。そのためには対象のデブリの動きや状態を観測した上で、安全に接近して捕獲しなければなりません。ADRAS-Jはその前半のステップとなる「大型デブリへの接近・近傍制御と情報取得」の技術実証を目的としており、周回観測による連続撮影はその一環となります。
また、別の宇宙機とのランデブーやドッキングを想定していないロケット上段のような物体の場合、接近するだけでもリスクを伴います。ADRAS-Jにはデブリとの衝突を防ぐための回避機能が備えられており、今回の自律的な退避は安全対策を実証するものとなりました。アストロスケールによると、今回検出された異常の原因は判明しており、対策を行った上で再接近の準備が進められているということです。
Source
アストロスケール - アストロスケールのADRAS-Jが初の宇宙ごみ周回観測を実施
文・編集/sorae編集部