2024年上半期(1-6月)「老人福祉・介護事業」の倒産調査


 深刻な人手不足と物価高が介護事業者(老人福祉・介護事業)に、重しとなっている。2024年上半期(1-6月)の「介護事業者」の倒産は81件(前年同期比50.0%増)で、介護保険法が施行された2000年以降、最多件数を更新した。これまでの最多は、コロナ禍の2020年の58件だった。

 業種別では、「訪問介護」が40件(同42.8%増)、デイサービスなど「通所・短期入所」25件(同38.8%増)、「有料老人ホーム」9件(同125.0%増)で、主要3業種そろって上半期での最多を更新した。

 介護事業者の倒産増は、介護報酬の改定や人手不足、物価高の影響が大きい。介護業界はコロナ前からヘルパーなど介護職員の高齢化と採用難が続いていた。以降、介護職員の処遇は改善が進むが、他業種の賃上げが加速し、介護業界の劣勢が浮き彫りになった。そのため、介護職は人材獲得が難航している。また、業績低迷で人員増が困難な介護事業者も多く、人手不足の解消が遅れる悪循環に陥っている。さらに、ガソリン代や光熱費、介護用品などの価格上昇を価格転嫁できず、業績が悪化するケースも目立つ。

 介護業界は、日本生命保険のニチイホールディングス買収など、異業種からの参入が進むほか、5年連続で介護新設法人が増加し競争が激化している。
 2024年上半期の倒産では、販売不振(売上不振)が64件(構成比79.0%)と約8割を占めた。利用者の獲得が進まず、介護報酬(売上高)を十分に得られない事業者が多いことを示している。また、従業員10人未満が63件(同77.7%)、資本金1千万円未満が71件(同87.6%)と小・零細規模の事業者が多い一方、負債1億円以上も20件(同24.6%)と前年同期7件から2.8倍に増えるなど、中規模の倒産も増えてきた。

 2024年度の改定で介護報酬はプラス1.59%だった。介護職員の処遇改善は進んだが、逆に訪問介護は基本報酬が引き下げられ、その他でも想定ほど上がらなかったとの声は多い。人手不足の解消や物価高の先行きが不透明だけに、介護事業者の倒産は当面、増勢をたどりそうだ。

※ 本調査は、「老人福祉・介護事業」を対象に集計した。内訳は、訪問介護事業、通所・短期入所介護事業、有料老人ホーム、その他に分類した。
※ 本調査は、介護保険制度が始まった2000年から、負債1,000万円以上の倒産を集計している。


介護事業者の倒産が過去最多              

 2024年上半期の「老人福祉・介護事業」の倒産は81件(前年同期比50.0%増)だった。上半期では、これまで最多だった2020年同期の58件を大幅に上回った。
 介護事業者の倒産は、介護報酬がマイナス改定だった2015年同期に急増した。人手不足が深刻化した2019年同期も55件に増え、コロナ禍で利用者が減少した2020年同期は58件に達した。
 その後、ゼロゼロ融資や雇用調整助成金などコロナ関連支援策の効果から倒産は減少に転じたが、支援縮小とともに人手不足、物価高が進行し2024年は過去最多を大幅に更新した。



業種別、「訪問介護」「通所・短期入所」「有料老人ホーム」がそれぞれ過去最多に

 業種別では、最多が「訪問介護事業」の40件(前年同期比42.8%増、前年同期28件)。次いで、デイサービスやショートステイなどの「通所・短期入所介護事業」が25件(同38.8%増、同18件)、「有料老人ホーム」が9件(同125.0%増、同4件)、特別養護老人ホームなどを含む「その他」が7件(同75.0%増、同4件)だった。

◇業種別(1)「訪問介護」
 「訪問介護」の上半期の最多件数は、2019年の32件だった。2024年は40件で、2019年を8件上回った。「訪問介護」の倒産40件のうち、原因別では販売不振(売上不振)が34件(構成比85.0%)、従業員数別では10人未満が36件(同90.0%)、負債額別では1億円未満が37件(同92.5%)と小規模事業者の売上不振が大半を占めた。

◇業種別(2)「通所・短期入所」
 「通所・短期入所」の上半期の最多件数は、2017年と2018年、2020年、2023年の各18件だった。2024年は25件で、これまでの最多を7件上回った。「通所・短期入所」の倒産25件のうち、原因別では販売不振(売上不振)が19件(構成比76.0%)、従業員数別では5人未満が13件(同52.0%)、負債額別では1千万円以上5千万円未満が12件(同48.0%)と各項目で最多だった。

◇業種別(3)「有料老人ホーム」
 「有料老人ホーム」の上半期の最多件数は、2022年の8件で、2024年は9件だった。「有料老人ホーム」の倒産9件のうち、原因別では販売不振(売上不振)が6件(構成比66.6%)、負債額別では1億円以上が5件(同55.5%)と比較的規模の大きな有料老人ホームの倒産が目立った。




原因別、売上不振と赤字累積の「既往のシワ寄せ」が目立つ

 介護事業者の倒産81件の原因別では、最多が販売不振(売上不振)の64件(前年同期比88.2%増、前年同期34件)。次いで、赤字累積の「既往のシワ寄せ」5件(同66.6%増、同3件)。「過小資本」(同40.0%減、同5件)と「放漫経営」(前年同期同数)が各3件で続く。

従業員数別・負債額別

 従業員数別では、5人未満が47件(前年同期比42.4%増、前年同期33件)で、約6割を占め、小・零細企業が中心だった。ただ、負債額別では、負債1億円未満が61件(同29.7%増、同47件)に対し、1億円以上が20件(同185.7%増、同7件)と中型・大型の倒産も増え始めた。
 

形態別、破産が9割超

 形態別では、破産が74件(前年同期比42.3%増、前年同期52件)と全体の9割(構成比91.3%)を占め、大半が破産だった。一方、再建型の民事再生法は3件(前年同期ゼロ)にとどまり、介護事業者は再建型を選択することが難しいようだ。

都道府県別、最多は大阪府の11件

 地区別では、関東の25件(前年同期比78.5%増、前年同期14件)が最多だった。次いで、近畿の19件(同72.7%増、同11件)、九州の11件(同57.1%増、同7件)、東北(同20.0%増、同5件)と中国(同200.0%増、同2件)が各6件、四国の5件(前年同期ゼロ)と続いた。都道府県別では、最多が大阪府の11件(前年同期比83.3%増、前年同期6件)。次いで、東京都の6件(前年同期同数)、神奈川県の5件(前年同期比66.6%増、前年同期3件)と都市部が上位に並んだ。