SNSの台頭を1977年にSF作家が予言していた
SF(サイエンス・フィクション)はあくまで架空の物語ですが、SF作品で描かれた技術が現実となることもあるため、フランス陸軍がSF作家を雇った事例や、MicrosoftがSF作家を研究施設に招き研究内容を公開したケースなどもあります。そのようなSF作家が未来を予測した例として、20世紀後半に活躍したSF作家が1977年に「ソーシャルメディアの台頭を予測していた」ことを海外メディアのOpen Cultureが指摘しています。
https://www.openculture.com/2024/05/sci-fi-author-j-g-ballard-predicts-the-rise-of-social-media.html
上海生まれのイギリス人作家であるJ・G・バラードは、「SFは外宇宙より内宇宙をめざすべきだ」として、芸術的で実験的なニュー・ウェーブSFを主導したことで知られています。また、バラードは優れた未来学者としても知られており、ウィリアム・ギブスンに代表される80年代のサイバーパンクを先取りしていたり、フランスの哲学者であるジャン=フランソワ・リオタールが「ポスト・モダンの条件」と名付けたコンピュータ化される社会を探究したりと、優れた先見の明があったとOpen Cultureは述べています。
バラードは作品の中で未来世界を描いたのとは別に、さまざまなインタビューの中で未来予測に関する言及をしています。そのいくつかが「不気味なほど正確」であるとして、「Extreme Metaphors: Selected Interviews With J. G. Ballard」というインタビュー集にまとめられています。
バラードはしばしばインターネットに関する予測を作品中やインタビューで言及していましたが、1977年の雑誌に寄稿したエッセイの中で、ソーシャルメディアの普及とそれが私たちの生活に及ぼす影響について詳細に説明しています。「テクノロジーの未来では、私たち一人ひとりが主役であり、脇役でもある」と書き出した上で、バラードは以下のようにつづっています。
「一日の私たちの行動、家庭生活のあらゆる場面が、ビデオテープに即座に記録される。夕方には、コンピューターが選別した記録映像をじっくりと眺める。コンピューターは、撮影された私たちの最高の横顔、最も機知に富んだセリフ、最も感動的な表情だけを選び出し、それらをつなぎ合わせて、その日の出来事を再現する。
すべての家庭が独自のテレビスタジオに変身するだろう。私たちは皆、自分のメロドラマの俳優、監督、脚本家を同時に務める。人々は自分自身を上映し、周囲の環境や人物は自分自身のテレビ番組の出演者になる。
家族の序列に関わらず、私たちはそれぞれ自分の部屋の中で、絶えず繰り広げられる家庭内ドラマの主役としてその映像を楽しむ。両親、夫、妻、子供たちは、相応の脇役に格下げされる」
バラードは映像の観点から捉えていますが、この説明は「FacebookやInstagramの平均的なユーザーの行動をほぼ完璧に捉えています」とOpen Cultureは指摘しています。また、同年にバラードは「The Intensive Care Unit(集中治療室)」という短編小説を執筆しており、その中では「人々が直接会うことを禁止する条例が施行され、すべてのやり取りは個人のカメラとテレビ画面を介して行われる」というSNS上の交流を思わせる世界を描いています。
バラードは2003年のインタビューで、かつて自分が予測したポスト・インターネットの世界について「今では、30〜50年前には考えられなかった方法で、誰もが自分自身を記録することができます。これは、人々が『現実』、つまり普通の現実をものすごく渇望していることを反映していると思います。環境が完全に作られているため、『現実』を見つけるのは非常に難しいのです」と語っています。バラードはSNS的な文化の普及が「現実の喪失」にあると予見しており、まさにそのような状態になった現代の暗い側面として「メディア上では、事実とフィクションを区別することはほとんど不可能です。ネット上の自分を持つことの暗い側面は、ネット上の自分を他人と比較したときに、劣等感の増大が若者の中で広まってしまうことです」と述べました。