自動車や鉄道などの騒音は人間の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、野生動物にも慢性的なストレスや健康被害を与えている可能性が指摘されています。新たな研究では、交通騒音がひな鳥の成長が妨げられるだけでなく、卵がふ化する可能性も低下するという結果が報告されました。

Pre- and postnatal noise directly impairs avian development, with fitness consequences | Science

https://www.science.org/doi/10.1126/science.ade5868



Traffic noise causes lifelong harm to baby birds | Science | AAAS

https://www.science.org/content/article/traffic-noise-causes-lifelong-harm-baby-birds

Noise from traffic stunts growth of baby birds, study finds | Birds | The Guardian

https://www.theguardian.com/environment/2024/apr/25/noise-from-traffic-stunts-growth-of-baby-birds-study-finds

以前から研究者らは、過剰な騒音が繁殖中の鳥の巣作りや子育てに悪影響を及ぼすことや、騒音が鳥同士のコミュニケーションを妨げることを知っていました。しかし、鳥がひなの時点から騒音を苦痛に感じているのかどうかや、騒音が鳥の生息環境や子育てをどのように混乱させるのかは不明だったとのこと。

そこで、オーストラリアのディーキン大学の行動生態学者であるミレーヌ・マリエット氏らの研究チームは、鳥小屋で飼育されているキンカチョウを用いて実験を行いました。

まず研究チームは、キンカチョウの卵に対して5日間連続で、1晩あたり数時間にわたって65dB(デシベル)の交通騒音またはキンカチョウの鳴き声を聞かせました。そして卵がふ化してひな鳥が生まれると、1晩あたり約4時間、最大13日間にわたって同様の音を聞かせたとのこと。なお、ひなの世話をする親鳥はこの交通騒音や鳴き声にさらされませんでした。



実験の結果、平均的な大きさの卵が交通騒音にさらされた場合、鳴き声にさらされた場合と比較してふ化する可能性が19%低下したことがわかりました。また、通常であれば大きな卵の方がふ化しやすいにもかかわらず、交通騒音を聞かせると小さな卵よりもふ化しにくくなるという変化も確認されました。

ひなが成長するにつれて、交通騒音を聞かせた場合と鳴き声を聞かせた場合で発達にも差が現れました。騒音にさらされたひなは他のひなよりもサイズが10%以上小さく、体重は15%以上軽かったとのことで、赤血球の濃度が低いことも判明しています。

さらに、ふ化直前からふ化して数日後まで交通騒音を聞かされたことによる悪影響は、ひなが騒音にさらされなくなった後まで持続しました。ひなが成長して4年後の繁殖年齢になると、生後初期に交通騒音を聞かされた鳥は他の鳥の半分以下の子どもしか産まなかったとのことです。



マリエット氏は、「音はこれまで私たちが理解していたよりもずっと強く、鳥の発育に直接的な影響を及ぼしています。騒音公害を減らすためにもっと努力するのが賢明でしょう」とコメントしました。

また、研究には関与していないオランダ・ライデン大学の音響生態学者であるハンス・スラッベコーン氏は、騒音の懸念は鳥だけではなく人間にも当てはまると指摘。「この調査結果は、都市部や高速道路沿いで繁殖する鳥の音響環境をよりよく管理するべきだと示唆しています。また、妊娠中の母親と赤ちゃんのため、病院における音響的な快適にも特別な注意が必要です」と述べました。