「本の話」を読んでくださっているみなさん、いつもご愛読ありがとうございます! 「オール讀物」編集部の石井です。

 5人でつくっている「オール讀物」の裏話、日ごろ編集部内で起きているよしなしごとについては、note不定期連載の編集部だより「オールの小部屋から」で(本当に不定期です、すみません)発信しておりますので、チェックしてみてください!

 こちら「本の話」の月イチ連載「オールの讀みどころ」では、最新号について、渾身の企画の数々を紹介していきます。

 というわけで「オール讀物」6月号。まずは第31回松本清張賞の発表です。


「オール讀物」6月号

 松本賞はなんといっても選考委員が超豪華なことで知られていまして、阿部智里さん、辻村深月さん、森絵都さん、森見登美彦さん、米澤穂信さんの5名が一堂に会します。人気作家5名が揃うだけでも贅沢なのに、4月におこなわれた選考会では、この5名がまっぷたつにわかれて大激論を繰り広げる驚きの展開に。まったくタイプを異にする2つの候補作をめぐって、「小説としてのよさ」はもちろん、それを「読者に届ける」技術や「サービス精神」といったところまで議論が進み、ある委員から「新人作家はとにかく生き残らなければならない」との発言まで飛び出すに至って、私、進行係の役目をすっかり忘れ、身を乗り出して聞き入ってしまいました。

 激論をへて受賞と決まったのが、井上先斗さん「イッツ・ダ・ボム」。筋金入りの清張ファンでもある井上さんは、受賞記念エッセイに、偏愛する清張短篇「賞」(!)への思いを綴ってくれました。この井上さん、学生時代はミステリークラブに所属していたほどの推理小説マニアで、本格ミステリからネオハードボイルドまで広くお好きなのだそう。受賞決定後にお目にかかった席では、島田荘司さん『北の夕鶴2/3の殺人』や、結城昌治「真木3部作」の話などで盛りあがり、楽しいひとときを過ごしました。大型新人のデビューにどうか注目してください。受賞作は9月に刊行予定です。

「松本清張賞」発表号といえば、北村薫さんと有栖川有栖さんの清張対談でしょう。これまでおふたりには『点と線』『砂の器』『ゼロの焦点』といった人気長編を読み解いていただいたり、傑作短篇を選んでいただいたりしてきました。今回、この6月号を「松本清張&歴史時代小説」特集にしようと思っていた私は、名コンビであるおふたりに「松本清張の歴史時代短篇から傑作を選んでいただく対談はどうですか」とお願いしました。すると北村さんから「歴史時代小説ということになると、われわれふたりだけでは心もとない。宮部みゆきさんに加わってもらえないでしょうか」とのご提案。さっそく宮部さんに連絡したところ、即座に「こんな楽しそうな企画、参加したくない人はいませんよ!」とのお返事が。みなさんそれぞれ気合い充分で短篇選びに臨んでくださって、充実のセレクトが揃いました。傑作短篇9作。歴史に材をとった史伝、史談あり、本格ミステリの捕物帖あり、清張が大好きな「牢屋もの」あり……。鼎談「清張さんの『歴史時代短篇』を選びぬく!」をお楽しみください。永久保存版の傑作リスト付です。


清張鼎談に臨む北村薫さん(左)、宮部みゆきさん(中央)、有栖川有栖さん


清張特集のグラビア「作家と遊戯」にて、パチンコに興じる松本清張(右)とボードゲームをする小川哲さん

 歴史時代小説特集の目玉は、なんといっても林真理子さんの「皇后は闘うことにした」でしょう。主人公は大正天皇の妃、貞明皇后。明治33年、数え年17歳で、皇太子嘉仁親王(後の大正天皇)に嫁した妃を待ち受ける運命を描いていきます。一夫一妻制を導入し、揺れる皇室。新たな時代の皇太子妃に求められるものは、美貌か、健康か、それとも聡明さなのでしょうか。涙なしには読めない慟哭の短篇です。

 ちなみに、この短篇について、「週刊文春」5月23日号の林さんのエッセイ「夜ふけのなわとび」に、GW中ホテルにこもって執筆されていた時のことが綴られています。オールの編集部員も少しだけ登場しますので、ぜひ週刊文春とともにお楽しみいただけたらと思います。

 時代小説の名手・あさのあつこさん新連載「八州の風手控え帳」では、若き関東取締出役(八州廻り)が首吊り事件の謎に挑みます。『まいまいつぶろ』が話題を呼んだ村木嵐さんの新シリーズ「畸人・大田南畝」もスタート。天明期を代表する狂歌師の、知られざる家庭人としての苦悩が描かれていくことになりそうです。

 ほか、畠中恵さん「まんまこと」阿部智里さん「八咫烏外伝」西條奈加さん「狸穴屋お始末日記」坂井希久子さん「江戸彩り見立て帖」川越宗一さん「満徳寺調べ帖」砂原浩太朗さん「藩邸差配役日日控」蝉谷めぐ実さん「獄卒譚々」といった時代小説人気シリーズがそろい踏み。千葉ともこさんの新境地「四星(しせい)の恋文」の回文謎解きも必読です!

 現代小説では、宮下奈都さん「ミジンコ」島本理生さん「家出の庭」といった強力な読み切り短篇のほか、万城目学さん「三月の局(つぼね)騒ぎ」がついに完結! ジェンダー対立を鋭く描く石田衣良さん「男女最終戦争」は読み始めたらやめられない面白さです。

 新連載コラムの目玉が2つ。ひとつは、2月号で黒川博行さんと対談していただいた警視庁初代科学捜査官の服藤恵三さん「科学捜査最前線」。生成AIなど新技術がもたらす犯罪の未来像を徹底レポートしていきます。

 もうひとつは郄見澤俊彦さんの「神様について語ろう」。神田明神の岸川雅範禰宜を講師に招いて、世界一わかりやすい「神道入門」をお届けしていきます。


「えびす祭」が開催された神田明神

 鼎談からコラムまで、とにかく楽しい「オール讀物」6月号をどうぞよろしくお願いいたします!


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