なぜインバウンド外国人は「日本の焼肉」が大好きなのか…肉YouTuberが「和牛の食べ方も輸出すべき」と言う理由
※本稿は、小池克臣『肉ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める肉の教養』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「和牛」の輸出量が年々増加している
年々増加している日本の和牛の輸出量ですが、その和牛は海外でどのようにして食べられているのでしょうか。
海外に輸出された日本の和牛は、高級レストランや特別な精肉店などで目にするケースが多いです。
和牛はその独特の風味と、外国産の牛にはない霜降りの肉質が評価され、高級食材として海外でも人気があります。
■薄切り肉はあまり置いていない
2019年、サンフランシスコに行った際に、日本から輸入した和牛を扱う精肉店やレストランを回る機会がありました。
高級精肉店では、4cmほどのアメリカ産のサーロインやリブロースがずらっと並んでいて、日本のような薄切り肉はあまり置いていませんでした。
肉はどれもそのままの状態で置かれていて、トレーなどには入れられておらず、陳列だけでも迫力がありました。
アメリカ産の牛肉の最高グレードであるプライムも並んでいました。
アメリカ産の牛肉も、米国農務省(USDA)によって日本と同じように格付けが行われ、牛の種類、成熟度、脂肪交雑、性別などを基準にグレードが決められています。
■日本に比べるとかなり高価
グレードは上位から、プライム、チョイス、セレクト、スタンダード、コマーシャル、ユーティリティ、カッター、キャナーの8段階です。
ちなみに現在日本に輸入されるアメリカ産の牛肉は、プライム、チョイス、セレクトの上位3グレードのみです。
高級精肉店で販売される日本の和牛は1cm程度の厚さで、部位はしっかりとサシの入ったサーロインかリブロースがほとんどです。
ただ、1枚ごとに真空パックをされた状態で置かれることが多く、見た目には購買意欲を刺激するものではありませんでした。
高級スーパーでも日本の和牛は販売されていますが、こちらでは日本と同じように1枚ずつトレーでパッキングされ、日本に比べるとかなり高価ですが、現地の日本人も購入しているようです。
■アメリカ産の牛肉の調理法を和牛に変えただけ
アメリカの高級レストランでは、米国産の牛肉だけでなく、和牛を食べる機会もありました。
メニューには宮崎県産から、茨城県産、岐阜県産、兵庫県産、宮城県産など、様々な産地の黒毛和牛が並んだ圧巻のラインナップでした。
ただ、その調理法は日本の和牛の肉質に合わせたものというよりも、アメリカ産の牛肉の調理法を和牛に変えただけという印象でした。
特に海外に輸出される和牛は、格付け等級はA5が中心で、かなり霜降りが強いものが多いので、分厚いステーキや塊のまま調理する料理など、霜降りの和牛よりも赤身の強い牛の方が適していると思います。
焼肉やすき焼きなど、日本の和牛を美味しく食べる方法を最も知っているのは日本人と言えます。
だからこそ、日本の和牛の輸出を今後も継続的に伸ばしていくためには、単に品物を送るだけではなく、現地の消費者に喜んでもらえる食べ方も一緒に届ける必要があるのではないでしょうか。
■日本へのインバウンド需要が大きく増加
2024年現在、移動の制限が解除され、円安が進んだ影響もあり、日本へのインバウンド需要が大きく増加しています。
近年、日本は観光地として人気を集めていて、多くの外国人観光客が訪れています。日本の魅力的な観光地や文化、食べ物、テクノロジー、アート、伝統的なお祭りなど、多くの要素がインバウンド需要に寄与しています。
また、日本政府が観光業の振興に力を入れていることも、需要の増加につながっています。特に、アジア諸国からの旅行者が増加し、韓国、中国、台湾、香港などからの訪日観光客が大部分を占めていますが、最近では他の地域からも増えてきています。
■焼肉が大人気
日本のインバウンド需要は観光だけでなく、食文化も大きな割合を占めています。
以前からの日本食ブームは引き続き好調ですが、日本の食文化の1つである和牛を楽しみに来日する外国人観光客も増えています。
ステーキ店やすき焼き店も人気ですが、最近では焼肉が大人気です。
インバウンド需要を意識した焼肉店は、英語表記のメニューを用意するのはもちろん、ホームページも英語表示のものを作成し、語学の堪能なホールスタッフを雇うようにしています。
こういった企業努力を行う焼肉店の中には、お客さんの80%近くがインバウンドで占められている人気店もあります。
この数年で生活習慣が変わり、日本人の遅い時間での外食は減りつつありますが、代わりにその営業時間を埋めているのも外国の方だと言われています。
■「ほとんどのお客さんが外国人」も珍しくない
実際に都内の人気焼肉店でも、3回転目の遅い時間は、店内のほとんどのお客さんが外国人というのも珍しくありません。
日本の焼肉店は海外でも有名で、どうしても食べてみたいという旅行者が多いのを私も肌で感じています。
日本を訪れる外国人の中には、本気で和牛を求めている方もいます。
・日本で食事をするためだけに、年に3回以上も日本を訪れるグルメ
・自国で豪州産Wagyuを扱うレストランを経営し、和牛を学びに来日したシェフ
・プライベートジェットで来日し、最高級の和牛だけを召し上がりたい某国の王族
私もこういった方々と一緒に食事をしたり、おすすめのお店の予約をしてあげたりすると、彼らは正直な感想をダイレクトに伝えてくれます。
■和牛に求めるのは「柔らかさ」
興奮しながら賛辞を送ってくれる時もあれば、「あそこの料理はあまり口に合わなかった」といった感想もあります。
こういった際、必ず聞いているのが「どんなポイントが気に入って、どんなポイントが気に入らなかったのか」です。
こうして感想を集めていくと、日本を訪れる方が和牛に求めるのは圧倒的に「柔らかさ」だと感じます。
噛み応えのある部位を食べてもあまり喜んでくれないのです。
なぜなら、そういった肉は自国でも食べることができるので、せっかく日本を訪れたのであれば、和牛の特徴の1つである柔らかさを存分に味わいたいそうです。
脂質が悪くサシ重視の去勢牛のサーロインなどを食べると、胃もたれするとはっきりと言われるので、彼らを心から満足させるピンピンの和牛を食べてもらうのは大変なことでもあります。
■日本を訪れる外国人は「トリップアドバイザー」を使う
土地勘がない場所で飲食店を見つける際、食べログなどのサイトを利用して、評価やレビュアーの口コミを参考にお店を選ぶのが一般的かと思います。
海外旅行の場合も、語学が堪能でない限り、旅行雑誌や日本語で書かれたサイトで飲食店を探すでしょう。
逆に、海外から日本を訪れる外国人は英語などで書かれたサイトで飲食店を見つけるか、ホテルのコンシェルジュを利用します。
海外の旅行サイトで有名なものとして、「トリップアドバイザー(TripAdvisor)」があります。
日本国内の飲食店でも、例えば食べログとトリップアドバイザーでは、高評価のお店は必ずしも一致しません。
日本ではそれほど人気がなくても、海外のインフルエンサーが高得点をつければ、海外からの旅行者にのみ有名なお店が生まれるのです。
■食べログで低評価でもトリップアドバイザーでは高評価
例えば、渋谷に某Hという鉄板焼き店があります。
2023年12月時点で、食べログの評価は3.11、決して高評価とは言えません。このお店は創業50年以上ですが、口コミの件数は16件のみです。
一方、トリップアドバイザーでの評価は4.5と高得点で、なんと口コミは688件も投稿されています。
英語で投稿された口コミはどれも絶賛する内容ばかりです。
このように、日本では無名に近い鉄板焼き店が、海外では有名店というケースが結構存在しているのです。
■店内はインバウンドの外国人ばかり
私もつい最近、海外からの旅行者のInstagramで初めてその存在を知りました。
調べてみると、Instagramでの投稿数はすごい数で、そのほとんどが海外からの旅行者でした。
Hの創業は1966年で、神戸ビーフをはじめとした黒毛和牛を鉄板焼きでリーズナブルに食べられるお店です。
Hの店内は、お店の店員に間違って英語で話しかけられる日本人のお客さんがいるほど、インバウンドの外国人ばかりです。
むしろ、日本人の方が肩身の狭い思いをしてしまうくらいの雰囲気です。
■kobe-beefのネームバリューは絶大
神戸ビーフは、素牛を但馬牛とする特別なブランド牛ですが、一般的な日本人には、数ある他のブランド牛との違いはあまり認知されていません。
しかし、海外では、kobe-beefのネームバリューは絶大です。
Wagyu=kobe−beefだと思われていたり、Wagyuの中の最高品質のブランド牛がkobe-beefだと認識されています。
だからこそ、本物の神戸ビーフ、目の前で調理される鉄板焼きのライブ感、1万円でお釣りがくる比較的手頃な価格帯、どれをとっても旅行者に人気があるのは納得ができます。
今後インバウンドが増えることを考えると、英語でのウェブサイトを充実させることで海外旅行客が入りやすくなり、予約や注文をオンラインにすれば、海外のお客さんの利便性を高めることができます。
また、メニューや案内の多言語化だけでなく、外国語が話せるスタッフの配置などを検討するのも良いでしょう。
これらの対策をしっかりと実施することで、飲食店はインバウンドの集客効果を高められるのではないでしょうか。
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小池 克臣(こいけ・かつおみ)
肉YouTuber
1976年、神奈川県横浜の魚屋の長男として生まれたが、家業を継がずに肉を焼く日々。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、さらには和牛そのものの生産過程、加工、熟成まで踏み込んだ研究を続ける。著書に『肉バカ。 No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社)がある。2024年現在、Instagramフォロワー4.2万人、YouTube「肉バカ 小池克臣の和牛大学」の登録者は2.7万人。
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(肉YouTuber 小池 克臣)