次の大規模災害に向け、ソーシャルメディアの活用ではなく、信頼できる情報をどのように収集し、ニュースを伝えていくかに考えを大きく変えていく必要がある(写真:genzoh/PIXTA)

東日本大震災以降、災害情報におけるインフラとしてのSNS、ソーシャルメディアの占める割合は高くなったが、今回の能登半島地震においては、特に「インプ稼ぎ」を企図する偽・誤情報も横行した。改めて、信頼できる情報発信のあり方について、藤代裕之氏に論じてもらった。

ソーシャルメディア=情報インフラという認識を捨てる


『GALAC』2024年5月号の特集は「能登半島地震 その時、メディアは」。本記事は同特集からの転載です(上の雑誌表紙画像をクリックするとブックウォーカーのページにジャンプします)

1月1日の能登半島地震で明らかになったのは、ソーシャルメディアが災害時の情報インフラとして機能不全であるということだ。それは災害時の情報をソーシャルメディアに頼ってきたテレビ局の取材方法も問われることを意味する。次の大規模災害に向け、ソーシャルメディアの活用ではなく、信頼できる情報をどのように収集し、ニュースを伝えていくかに考えを大きく変えていく必要がある。

「SNSにどのような対策が必要か」「利用者が注意することは何か」。能登半島地震発生の直後からテレビ局や新聞社からいくつかの問い合わせがあったが、「対策は実現性が低く、利用者の対応は困難」と言うと、コメントは使われることがなかった。既存メディアでは「プラットフォームを運営する企業が対応を」「利用者は不確実な情報に注意しよう」といった識者のコメントが並ぶが、このような取り上げ方はソーシャルメディアを災害時の情報インフラとして認識していることを示している。

かつて「便所の落書き」と呼ばれたインターネットは、ブログやツイッター(現X)といったソーシャルメディアの登場により大きく変化した。転機の一つは、2011年に起きた東日本大震災で、既存メディアよりもリアルタイムであること、給水所や食料配布など地域の細やかな情報が手に入ることで、人々の被災生活を支えるよりどころとなった。

ほかにもGoogleの安否確認サービスやAmazonの仕組みを利用した物資支援が行われ、テレビとの関係では動画配信サービスを利用してニュースを同時配信するという画期的な取り組みもあった。

これらの動きを受けて、総務省は2012年に「大規模災害時におけるインターネットの有効活用事例集」を取りまとめた。自治体や省庁がアカウントを開設するだけでなく、ソーシャルメディアを運営する企業側も積極的に取り組みを行い、ツイッターは救助要請ツイート「#(ハッシュタグ)救助」のルール周知、消防庁や気象庁との意見交換や自治体との防災訓練実施で連携を深めた。

大規模な災害時に役に立ったという人々の記憶、行政の後押し、企業の努力、これらが重なりソーシャルメディアは災害時の情報インフラとして社会的に位置づけられたといえる。

災害時に携帯電話やインターネットが利用できるように通信インフラの強化も進められた。東日本大震災では沿岸部を中心に、携帯電話基地局の流出や水没、ケーブル切断により通信インフラが大きな被害を受けた。そこで、通信事業者により基地局のバッテリー強化、基地局車や電源車の配備が進められた。

これらの対策が功を奏し、2016年の熊本地震では通信インフラの被害が最小限に抑えられ、被災地からの情報発信を支えたと評価が高まった。しかし、今回の能登半島地震ではソーシャルメディアが情報インフラであるとの認識を捨てざるを得ない状況がはっきりした。

メディアは報じ方を変えよ

地震や台風などの災害時にはソーシャルメディアの投稿がテレビで使われる光景は当たり前となっているが、能登半島地震では状況が違った。発災直後の現地映像は少なく、取材が被災地に入るとようやくスマートフォンで撮影した映像により津波被害が明らかになっていった。その理由は発信を支える通信インフラの甚大な被害と、高齢者が多いという地域特性にある。

インターネットが利用できず、ソーシャルメディアに投稿される被災地の情報は乏しくなる。そこを埋めたのは「インプ稼ぎ」による不確実性の高い投稿だ。インプ(インプレッション)稼ぎとは収益を得ることを目的にXの投稿に閲覧や反応を得る行為で、能登半島地震では東日本大震災の津波動画が投稿されたり、偽の救助要請が投稿されたりした。

NHKはアジアや中東地域からインプ稼ぎが広がっていると報じている(*1)。インプ稼ぎは1月2日の日航機と海上保安庁機の羽田空港衝突事故でも起きており、人々の注目が集まる話題やニュースがあれば不確実性が高い投稿が溢れる状況に陥っている。

*1 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240202/k10014341931000.html

偽の救助要請は大きな問題だ。筆者は、熊本地震、西日本豪雨でツイッターを対象に救助要請ツイートの研究を行っているが、これまでは番地などが具体的に書かれている場合は実際に救助を求めているケースが多かった。

能登半島地震では「石川県川永市」という実在しない地名の救助要請で詳細な住所を記載されていた。図はX上で大量に存在する同じ住所を投稿する別々のアカウントの一部をキャプチャしたものだ。このようなコピー投稿は実際の救助要請でも行われており、オリジナル投稿かどうかを見きわめることが困難になっている。

共同通信の取材では(*2)、偽の救助要請に基づき消防が出動したケースが少なくとも2件あったことが明らかになっている。消防の担当者は、不確実性の高い投稿でも本当かもしれず無視できないと取材に回答している。ソーシャルメディアに投稿された救助要請を見た人による110番通報で警察の対応が割かれるという問題も起きている。

*2 『京都新聞』2024.2.9朝刊など


実在しない地名を使った偽の救助要請投稿

インプ稼ぎや偽・誤情報対策の不十分さは、2022年に起業家のイーロン・マスクがツイッターを買収したことによる。イーロン・マスクは、Xと名称を変更しただけでなく、偽・誤情報対策チームをリストラし、収益化を強化するなど運営方針や機能変更を矢継ぎ早に行っている。

その結果、自治体との連携も不透明になっている。自治体の運営するアカウントが突然凍結されるようになった。読売新聞によると、沖縄県では県の防災サイトに投稿を転載していたが、最新の投稿ではなく反響が多い過去の投稿が表示されるようになり、地震や津波が新たに発生したと誤解される可能性があるため転載を中止している(*3)。このような凍結の理由や解除の方法、アルゴリズムの変更が説明されることはない。

*3 https://www.yomiuri.co.jp/national/20231004-OYT1T50142/

収益を得るための不確実な投稿が溢れるにもかかわらず、消防、警察、自治体は対応せざるを得ない。情報インフラという社会的な位置づけがむしろ課題になっている状況がある。ソーシャルメディアは機能不全であり、被災地の活動に悪影響を及ぼしているという現実を受け止め、報じ方を変えていく必要がある。

従来対策と取材の限界

偽・誤情報対策のための議論は、プラットフォームの対策と利用者のリテラシー向上が2本柱となっている。これは冒頭のメディアからの問い合わせにリンクしている。

対策は表現の自由への配慮があり自主規制が基本となるが、そもそもプラットフォームを運営する企業のほとんどが外資系であり実効性は乏しい。偽・誤情報対策を放棄し、陰謀論に同調することもあるエキセントリックな起業家であるイーロン・マスクが話を聞くなら苦労はない。イーロン・マスクの動きを横目にフェイスブックやGoogleの対策も後退している。

リテラシーはどうか。災害の混乱に乗じてお金を儲ける行為は問題だが、法的に規制されているわけでもなく、運営企業からペナルティを課せられるわけでもなく、外国からの投稿者にモラルの問題と言ったところで通じる可能性が低い。現実問題としてインプ稼ぎを減らす方法はない。家族や知人を心配したり、善意で情報を提供したりする人たちも投稿が増える要因だが、その人たちをリテラシー不足として批判するのも酷だ。

2022年の台風15号ではドローンで撮影された静岡県の被害状況として、生成AIで作られた偽画像がXに投稿されて拡散した。生成AIの登場により真偽の見きわめはさらに困難になっている。生成AIでは動画も作れるようになり技術の進化はとどまるところがないが、人が備えるリテラシーには限界がある。

災害時の情報をソーシャルメディアに頼ってきた取材方法も変更が求められている。カメラ機能がついたスマートフォンを持つ人は、既存メディアの支局や記者、カメラの数より圧倒的に多く、それらを簡単でコストが安い取材網として活用してきた。

ただ、災害時は既存メディアも混乱しており、誤報が繰り返されている。筆者は以前からソーシャルメディア投稿の安易な報道利用についてリスクが高いことを指摘してきた。不確実性の高い投稿には、陰謀論や他国や組織による影響工作も入り交じるため、リスクはさらに増している。

プラットフォーム運営企業の姿勢は大きく変わり、偽・誤情報すら収益にしようとしているが、テレビや新聞は誤報により社会的な信頼が低下すれば失うものが大きい。既存メディアは、ソーシャルメディアを玉石混交ではなく、「便所の落書き」だと捉え直し、情報インフラという前提を疑い、新たな対策を検討する必要がある。

トリアージによって必要な情報を収集する

信頼できる情報をどのように収集するのか。収益が細る既存メディアが取材網を拡大し、記者やカメラを増やすことは現実的ではない。

一つめは、系列や社、さらには媒体を超えて災害時の現場取材対応チームを作ることだ。能登半島地震ではNTTとKDDIという巨大企業による協力が協定に基づいて行われ、NTTグループの海底ケーブル敷設船にKDDIが衛星アンテナを利用した携帯電話の船上基地局を展開した。

東海地方では民放4局が系列を超えて災害時にヘリコプターの取材エリアを分担する「名古屋モデル」を構築して合同訓練を行っている。ヘリコプターは維持や運用に多額の経費が必要だが、支社・支局の統廃合が進み記者が減少しているなかで、災害時の現場取材でも連携を検討するタイミングではないだろうか。

二つめは、ケーブルテレビやローカルメディアとの連携だ。すでに進めているところも多いと思うが、ニュースを扱っていないメディアや自治体の広報、図書館を含めて地域の信頼できる人や組織とのネットワーク構築と広く捉えたい。

町の話題やお店を紹介するローカルメディアは、現状では災害時の連携対象とは見られていないが、町の情報や人のハブとなる人や組織が運営に関わっていることも多く、信頼できる情報を収集する連携先となりうる。

三つめはソーシャルメディア取材のための「情報トリアージ」チームを創設することだ。いくら「便所の落書き」とするにしても、報道の情報源としてソーシャルメディアをゼロにすることはできない。膨大な投稿から必要な情報を取り出す情報トリアージを行うため、専門的な知識を有するチームを系列や媒体を超えて組成する。発災直後に現場に急行して医療を担当する災害派遣医療チーム(DMAT)をイメージするとよいだろう。

いずれも災害発生時から1週間や1カ月など期間を決めた時限的対応とすると導入しやすいのではないか。最も混乱して、現場での取材が厳しい初期段階において信頼できる情報を確保し、現場が落ち着けば各社が独自に取材をすればよい。

仕組みを担う媒体を超えた教育プログラムとネットワークも重要になる。ソーシャルメディアからの取材方法だけでなく、影響工作への理解、災害取材のノウハウも必要だろう。教育プログラムだけでなく、ネットワークを構築して定期的な訓練や研修を行う必要もある。ネットワークがあれば、災害時に各地から現場に派遣して相互協力することで情報空白を埋めることが可能になる。実現のためにはより詳細な検討を行いたい。

信頼できるニュースを自ら伝える

信頼できるニュースを伝えるためにテレビ局が取り組むべきゴールは、災害時に「何かあればここを見ておけばよい」と人々が想起する媒体になることだ。そのためには、ソーシャルメディアなどのプラットフォームに頼らずに、人々に直接情報を届けることができるルートの確立が重要になる。

テレビ各社はYouTubeのような動画サイトに映像提供したり、ヤフーなどポータルサイトへの配信も強化している。しかしながら他企業が運営するプラットフォームを利用しているに過ぎず、人々への情報伝達はコントロール不可能であり、災害時には膨大な玉石混交のコンテンツに飲み込まれてしまう。

人々はテレビ放送から離れつつあり、29歳以下男性単身世帯では7割程度しかテレビ受信機を持っておらず、テレビ受信機離れが進んでいるとの指摘がある(*4)。(普段から)遠い存在となれば災害時に頼りにされることもない。

*4 https://minpo.online/article/part1.html

民放各局が運営するTVerはリアルタイム配信が可能ではあるが、見逃し配信用であることがプロモーションでは強く打ち出されており、災害時に見るべきサイトと認識されていない。ラジオは災害時に有力な媒体であるが、ラジコはインターネットが断絶すると届かなくなる。民放連は能登半島地震でラジオ受信機を被災地に配布しているが、ラジオ受信機は停電時にも電池があれば長時間使える。地域の公共施設や学校も含めて配布を拡大していきたい。

正確なニュースを広く伝えるために

通信事業者との連携も検討したい。災害時にインターネットが利用できるように対応しても、不確実な情報が流通するのでは意味がない。日本国内ではヤフーやLINEが多くの接点を持つ。災害発生から1週間は信頼できるニュースを優先して扱うようプラットフォーム運営企業にガバナンスを求めることを検討したい。その際には偽・誤情報対策を名目に権力に都合が良いメディア規制が行われないように注意するべきだ。

インターネットで「バズる」「いいね」を増やそうとするテレビ局もあるが、それではインプ稼ぎと変わらない。正確なニュースを広く伝えることは災害時の命綱であり、偽・誤情報の対策となりうる。そのための取り組みが求められている。

(藤代 裕之 : 法政大学社会学部教授)