自転車で“歩行者”にけがをさせたら“懲役刑”の可能性も リスクを弁護士が解説
4月6日から同月15日まで、交通ルールの順守や正しい交通マナーの実践などを呼び掛ける「春の全国交通安全運動」が実施されています。自転車に乗るときは安全運転を心掛ける必要がありますが、中には危険な運転をする人もいるようで、SNS上では「スピードを出して歩道を走る自転車がいる」「自転車に乗っている人のマナーがひどすぎる」という内容の声が上がっています、
自転車に乗っている人が路上で歩行者にぶつかってしまった場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
3カ月以下の懲役などを科される可能性も
Q.自転車の運転中に路上で歩行者にぶつかってしまった場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。自転車に乗っていた人と歩行者の過失の割合なども含めて、教えてください。
牧野さん「自転車の運転中に歩行者にぶつかってしまい、けがをさせてしまった場合には、道路状況や歩行者過失にもよりますが、民法709条の不法行為責任に基づき、歩行者に発生した損害を賠償する責任が発生します。自転車と歩行者を比較した場合、歩行者の方が交通弱者となるため、歩道上においては、基本的に自転車側が100%の責任を負うことになります。
また、自転車と歩行者の事故の場合、自転車側には刑事上と民事上の2つの責任が問われることになります。刑事上の責任として、不注意により相手にけがを負わせた場合は『過失傷害罪』(刑法209条、30万円以下の罰金または科料)、不注意により相手を死亡させた場合は『過失致死罪』(刑法210条、50万円以下の罰金)にそれぞれ問われる可能性があります。
また、重大な不注意により相手を死傷させた場合は『業務上過失致死傷罪もしくは重過失致死傷罪』(刑法211条、5年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金)に問われる可能性があります」
Q.自転車の通行が原則として禁止されている歩道を自転車で走行し、歩行者をはねてしまったとします。法的責任が重くなる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「歩道を通行できる例外に当たる理由がないのに、普通自転車が歩道を通行した場合、道路交通法63条の3に違反したとして、3カ月以下の懲役、または5万円以下の罰金を科される可能性があります。普通自転車とは、道路交通法と関連法令の用語で、自転車のうち、大きさと構造が基準を満たし、『自転車および歩行者専用(325の3)』の道路標識が設置された歩道を通行することができるものを指します。
普通自転車は、歩車道の区分のある道路では、道路(車道)の左側端に寄って車道を通行しなければならず、標識などによる自転車専用通行帯があるときはその部分を通行しなければなりません。普通自転車が歩道を通行する場合、道路標識などにより普通自転車が通行すべき部分として指定された部分または歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければなりませんが、通行指定部分に歩行者がいない場合などはこの限りではありません。
また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることになるときは、一時停止しなければなりません。当然ですが、自転車は、信号機が表示する信号または警察官などの手信号に従わなければなりません」
Q.自転車で歩行者にぶつかった後、そのまま現場から立ち去ってしまったとします。この場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。
牧野さん「自転車で人身事故を起こした後に逃走する行為も、道路交通法では、『ひき逃げ』と見なされます。道路交通法72条では、車やバイク、自転車の運転者は、交通事故の際に死傷者の救護および事故の報告が義務付けられています。
救護義務に違反すると、自転車などの軽車両を運転していた場合は『1年以下の懲役または10万円以下の罰金』(道路交通法117条の5第1項1号)が、自動車やバイクなどを運転していた場合は『5年以下の懲役または50万円以下の罰金』(同法117条1項)が、それぞれ科される可能性があります。報告義務違反の法定刑は『3月以下の懲役または5万円以下の罰金』(同法119条1項17号)です。
これに加えて、ひき逃げによる人の死傷が、運転に起因するものであるときは、道路交通法117条2項により、『10年以下の懲役または100万円以下の罰金』を科される可能性があります」
Q.自転車を運転中に歩行者にぶつかってしまった場合、どのように対処したらよいのでしょうか。
牧野さん「先述のように、道路交通法72条では、車やバイク、自転車の運転者は、交通事故の際に死傷者の救護および事故の報告が義務付けられています。自転車で交通事故を引き起こした場合、まずは負傷者を救護するとともに、警察に必ず連絡しなければなりません」