学会婦人部の「アイドル」公明・山口代表の苦悩
山口那津男・公明党代表(写真:時事)
山口那津男・公明党代表(71)が「自公連立」を巡る“不協和音”に苦しんでいる。2009年8月の「政権交代選挙」での太田昭宏前代表の落選を受け、同年9月に党代表に就任してからすでに14年半。支持母体の創価学会婦人部のアイドル「なっちゃん」として、「平和の党」のトップリーダーを務めてきた山口氏だが、故安倍晋三元首相の「保守路線」の踏襲・強化が際立つ岸田文雄政権との“あつれき”で、自公双方に「連立解消」論がくすぶるからだ。
公明党立党の立役者で、「学会のカリスマ」として同党に君臨し続けた池田大作氏が、昨年11月に95歳で死去したことで、同党内の権力構図も変容した。このため、熱烈な“池田教”信者が支える学会婦人部の支持を集める山口氏が、「定年(任期中に69歳を超えない)」を無視する形で代表を続けざるを得ず、党内外から連立与党としての同党の立ち位置も問われる状況となっている。
麻生、茂木両氏が画策する「公明外し」
そうした中、岸田首相は総裁任期中の「憲法改正」実現を公言。さらに、次期戦闘機の第三国への輸出解禁と防衛装備移転三原則の運用指針改正でも、慎重論を唱えた公明を押し切る格好で決定するなど、「与党の圧力」(自民幹部)をかける場面が相次ぐ。その一方で、公明サイドも次期衆院選での自民との選挙協力には腐心せざるを得ず、その“政治的矛盾”が、山口氏の心労増加の原因だ。
しかも、自民党内ではここにきて、麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長を中心に、次期衆院選に合わせて、日本維新の会や国民民主党の取り込みによる「新たな連立の構築を模索する動き」(自民幹部)も台頭している。この「あからさまな公明外し」(公明幹部)には公明内の反発が拡大、それも山口氏の“悩みの種”となっている。
もともと山口氏は「代表就任までの経緯も順風満帆ではなかった」(周辺)とされる。東大法学部卒で弁護士という経歴は「超エリート」にみえるが、司法試験に合格したのは26歳と遅く、1990年の衆院選旧東京10区で初当選したが、新進党公認で東京17区から出馬した1996年衆院選から連続落選。このため、参院にくら替えして、2001年7月の東京選挙区での当選で中央政界に復帰した。
「八方美人」の山口氏が裏金事件で苦言
もちろん山口氏は、政界入り直後から「将来のリーダー候補」とみられていたが、創価学会の中枢だったことはなく、「人当たりの良さだけで代表になった」(学会幹部)と揶揄されてきたのも事実だ。このため、党内外で「敵はいないが、味方も少ない」との評も付きまとう。その一方でこうした「八方美人にもみえる山口氏の政治的対応が、基本政策が大きく異なる自民との協力維持の源泉」(自民長老)となってきたのも否定できない。
ただ、ここにきてその山口氏でも、様々な問題での自民党の対応に苦言を呈する場面が相次ぐ。その典型が、安倍派などの巨額裏金事件での自民の迷走への苛立ちだ。3月18日の下村博文元文科層の衆院政治倫理審査会への出席で、衆参政倫審での関係者弁明が一区切りとなったことを受け、山口氏は19日の記者会見で「信頼回復につながることを期待していたが、ますます不信を強める結果になっている」と非難した。
そのうえで山口氏は、今後の焦点となる安倍派元幹部ら関係議員に対する自民党内の処分に言及し、「政治責任はあるという認識のもとで処分するわけだから、国民の納得感が得られるように臨んでもらいたい」と厳しい処分を求めた。
また、これに先だつ17日の自民党大会でも、連立与党の党首としてあいさつした山口氏は「連立政権は2012年に政権奪還して以来、最大の試練に直面している。連立合意には、国民の声を聞き、謙虚な姿勢で真摯に政権運営に努めると書かれている」と指摘したうえで「その言葉が今ほど胸に響く時はない」と自民党の猛省を促し、そそくさと退席した。
「武器輸出」問題では“腰砕け”に
その一方で、政倫審騒ぎと同時進行となった「武器輸出問題」では、自民、公明両党が19日、それぞれ開いた党会合で、次期戦闘機の第三国への輸出を解禁する閣議決定案と、防衛装備移転三原則の運用指針改正案を了承。これを受けて政府は来週26日の閣議と国家安全保障会議(NSC)9大臣会合で決定する段取りを決めた。極めて異例な個別の装備品輸出に関する政府方針の閣議決定の背景には公明への配慮があり、公明側も“腰砕け”となったのが実態だ。
このように、現在の自公関係は「相互批判となれ合いが複雑に交錯している状態」(自民長老)だが、「双方が不協和音を飲み込まざるを得ないのは、次期衆院選での選挙協力が不可欠」(同)だからだ。岸田首相にとって当面最大の関門となる4月28日投開票のトリプル補選でも、「自民が全敗を免れるには、公明との協力がカギ」(自民選対)であることは間違いない。なかでも、与野党入り乱れての大乱戦となる東京15区で、自公都連が水面下で小池百合子知事との連携を模索しているのは、その延長線上の動きでもある。
そもそも、山口氏は2022年の代表8選後、「次こそ後進に道を譲る」と周囲に漏らしてきた。ただ「その前提は、退任前に衆院選実施だった」(側近)とされ、公明党内でも衆院選前の代表交代に慎重論が強まっている。それもあって、ここにきて「岸田首相による解散断行は困難」(閣僚経験者)との見方が広がると、山口氏はさらなる続投にも含みを持たせるようになった。
その最大の要因は、後継代表候補と目される石井啓一幹事長(66)の立場の弱さだ。基本的に次期衆院選では、参院議員の山口氏は選挙応援に全力投球できるが、衆院埼玉14区から出馬予定の石井氏は「当選確実とは言えない」(公明選対)ため、自らの選挙に専念せざるを得ないからだ。
しかし、山口氏が続投して代表9期目に突入すれば「党内での長期政権批判は避けられない」(若手)ことから、衆院選対応を理由に山口氏の任期を延長する「弥縫策」も浮上している。ただ、その場合も「そんな状況で代表を続ければ、いわゆる『下駄の雪』からの脱却は不可能とのそしりは免れない」(同)だけに、山口氏の苦悩は深まるばかりだ。
(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)