「卵子凍結」流れを不妊治療の専門医が解説 将来に向けて良質な卵子を保存するには?
将来、子どもを産み育てたいと望んではいるものの、仕事や家庭の事情などで、すぐに妊娠・出産するのは難しいという方は少なくありません。そうした問題に一筋の光となるのが卵子凍結です。今回は卵子凍結の適応条件や治療の流れ、費用や補助金などについてShinjuku ART Clinicの阿部先生に解説していただきました。
≫【体験談】「不妊症」と「不育症」を併発、三度の流産を経て体外受精で第一子を出産監修医師:
阿部 崇(Shinjuku ART Clinic)
平成12年川崎医科大学医学部卒業。平成13年日本医科大学付属病院女性診療科・産科 入局。平成21年医学博士号取得。平成22年日本医科大学付属病院生殖医療主任。平成23年加藤レディスクリニック勤務。平成26年Shinjuku ART Clinic 院長就任。医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会臨床遺伝専門医、日本医科大学付属病院非常勤講師。
将来の妊娠に備えるための不妊治療「卵子凍結」とは? 適応条件や対象年齢について
編集部
「卵子凍結」とはどのような治療ですか?
阿部先生
受精前の卵子を採取し、将来の妊娠に備えて凍結保存することをいいます。受精前の卵子を凍結することを未受精卵凍結といいますが、そのほかに「受精卵凍結」といって、受精後に凍結する方法もあります。
編集部
受精前の卵子をあえて凍結保存する理由は何ですか?
阿部先生
未受精卵凍結には2つの側面があります。一つは「医学的適応」です。がんや白血病、悪性腫瘍などを発症している場合、薬の副作用で卵子の数が減少し、卵巣機能が低下することで将来妊娠する力が損なわれることがあります。そうしたケースに備え、前もって卵子を凍結保存しておくことがあります。
編集部
もう一つの側面とはなんでしょうか?
阿部先生
「社会的適応」です。卵子のもとになる卵祖細胞は、出生時には200万個あったものが思春期には30万個と次第に減っていき、新たに作られることはありません。卵子の数は年齢を重ねる毎に減少し、卵子そのものの質も低下していくため、妊娠の確率も下がっていきます。今すぐに結婚や妊娠の予定がない場合でも、来たるべき将来に備え、少しでも若いうちに質の良い卵子を凍結して保っておくことが社会的適応の考え方です。
編集部
社会的適応の場合、卵子凍結は何歳までに行うのが理想的ですか?
阿部先生
医療機関によって考え方は異なりますが、私たちのクリニックでは妊娠した際の母体や胎児への影響などを考え、卵子凍結は20~39歳までを基本としています。実際の妊娠率や出産率も考えますと、36歳未満が理想的と考えます。
卵子凍結の流れを不妊治療の専門医が解説 採卵方法やクリニックへの通院回数・凍結保存期間は?
編集部
卵子凍結をするにあたっての流れを教えてください。
阿部先生
まずは基礎的な検査(ホルモン値、超音波検査、感染症検査など)を行います。その上で問題なければ、排卵誘発剤の服用や注射などで卵胞の発育を促し、採卵に適した状態になることを確認します。通常3~4回の診察が必要になります。
編集部
採卵はどのような形で行われますか?
阿部先生
卵胞が十分に発育したら、卵子の成熟を促す薬を使い、通常その2日後に採卵を予定します。採卵は、膣から細い針を卵巣に挿入して行います。強い痛みを伴う場合は局所麻酔や静脈麻酔を行い、最後に採取した卵子を凍結保存します。
編集部
どれくらいの期間、冷凍保存が可能なのですか?
阿部先生
凍結した卵子は保存期間の長さによって質が落ちることはほとんどありません。そのため最長保存期間は医療機関によって異なりますが、女性の年齢が45~50歳くらいまで対応しているケースもあります。保存は通常1年単位の契約となり、延長する毎に更新の手続きが必要となります。
編集部
卵子凍結を行う場合、通院は何回くらい必要ですか?
阿部先生
初診から採卵、経過観察などを含めるとだいたい5~6回程度、期間にすると1~2か月が目安です。
卵子凍結にかかる費用は? 保険適用や不妊治療の助成金・補助金はある?
編集部
卵子凍結にかかる費用はどれくらいですか?
阿部先生
医療機関によって大きく異なるので一概には言えませんが、およそ30~50万円が目安になると思います。採卵の回数や凍結する卵子の数が増えれば、その分の費用も加算されます。また、治療とは別に保管費用が年間4~6万円ほど必要になります。
編集部
卵子凍結は保険適用になりますか?
阿部先生
現在のところ卵子凍結は保険適用の扱いがなく、日本のクリニックではどこも全額自己負担になります。因みに東京都では少子化対策の一環として、加齢やさまざまな理由による卵巣機能の低下によって卵子凍結を行う際、1人あたり最大30万円を助成しています。
編集部
助成金制度の有無や金額は各自治体によって異なるのですか?
阿部先生
現段階ではどこの自治体でも助成が受けられるわけではないのですが、今後は整備が進められていくようです。そのほかにも不妊治療をサポートする企業への助成金制度も整いつつあり、ご自分がそれを活用できるものか一度調べてみるとよいでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
阿部先生
キャリアの形成と出産のどちらを優先させるべきか、この問題に対処できるのが「卵子凍結」です。将来妊娠したいと思った時に備えて、質の良い卵子を保存しておくことは大きなプラスとなります。もちろん将来の妊娠・出産を100%保証するものではありませんが、卵子凍結は女性のライフプランをサポートし、良き方向に導いてくれるでしょう。今や社会的な認知度も拡大していて検討しやすい状況にあるので、興味がある方は自治体や医療機関で一度説明を聞いていただければと思います。
編集部まとめ
「今は妊娠の予定はないけれど、将来のことを考えて卵子凍結をしておこう」と考える女性が増えています。自治体によってはさまざまな助成制度を用意しているところもありますから、もし興味がある場合には住んでいる地域に利用できる制度がないか、役所に問い合わせてみると良いでしょう。
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