「イマーシブ・フォート東京」のオープニングセレモニーでスピーチする森岡毅氏

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USJ再建の立役者となり、その後、株式会社 刀を設立。西武園ゆうえんちやネスタリゾート神戸、ハウステンボスなどを次々と再生し、また42万部のベストセラー『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』の著者としても知られる森岡毅氏の率いる刀が 、新たなステージへ踏み出した。2024年3月1日、東京・お台場に「イマーシブ・フォート東京」をオープンしたのだ。イマーシブ・フォート東京が打ち出す「完全没入体験」とはどんなものなのか? 早速チャレンジしてみた。(取材/亀井史夫)

19世紀のロンドンにタイムスリップしたような街並み

 ほのかな明かりの中に、古びた洋館が静かに立ち並んでいる。見上げると、空は薄青く、綿のような雲が浮いている。その街の中を、シルクハットを被りダークスーツに身を包んだ紳士や、艶やかなドレスを纏った貴婦人が歩き回っている。どう見ても19世紀のロンドンの街並みそのものだ。まるでタイムスリップしたような感覚に陥る。

 突然、大柄な男が何かを呟きながら早足で歩き出した。「警部!」と警官らしき男たちが叫び彼を追いかける。つられて私も追いかけていた。長い階段を上がり2階へ。道を進むと奥の部屋で何かが起きているようだ。誰かの啜り泣く声が聞こえる。恐る恐る部屋の中に入ると、ベッドの上に血だらけの女性が!

 3000平米の広大な舞台を使って約90分にわたり繰り広げられる「ザ・シャーロック―ベイカー街連続殺人事件―」の空間である。客席はない。観客は通行人になって名探偵シャーロック・ホームズや相棒のワトソンの会話に耳をそばだて、至近距離で事件の傍観者となる。時には何らかの形で事件に巻き込まれることもある。

 舞台は広い。教会広場、ストリート、オフィス、バー、娼館……。歩き回る演者たちを夢中で追いかける。階段を上がったり、降りたり、ストリートを見下ろしたり、広場に戻ったり。しまいには疲れ果ててホームズを追いかけるのを諦めてしまったが、それでストーリーが追えなくなるわけではなかった。背後で別の演者によるストーリーが進行しているのだ。同時多発的に色んな場所でストーリーが展開されている。

「物語の全貌を理解するためには、何回も通いたくなるな」と私は思った。
 今後参加する方に是非しておきたいアドバイスは、「コートや荷物はエントランス側のロッカーに預けること。靴はスニーカー推奨」だ。歩き回ることでかなり良い運動にもなる。

「イマーシブ」とは「没入」という意味だ。2000年代にロンドンで「イマーシブシアター」と呼ばれる体験型演劇作品が上演されるようになった。客席はなく、演者は舞台上ではなく会場全体に出没する。時に観客が物語に巻き込まれることもある。

 そんな最先端のエンターテイメントに、森岡毅率いる刀も目を早くから目をつけていた。そもそも刀には、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで大好評を博した「ホテル・アルバート」「ホテル・アルバート2」を手掛け、日本でのイマーシブエンターテイメントを牽引するクリエイティブメンバーが複数在籍している。西武園ゆうえんちではイマーシブ・フォート東京に先駆けて「没入型ドラマティック・レストラン 豪華列車はミステリーを乗せて」を上演し、今も完売回が続出するほど好評を得ている。準備は着々と進んでいたのだ。

 とはいえ、テーマパークを都心に作ることは簡単ではない。広大な敷地の確保が困難だし、場所が決まっても施設の建築には莫大な資金と時間がかかる。
 刀にとって幸運だったのは、最高の舞台が手に入ったことだ。

 2022年2月にショッピングモール「ヴィーナスフォート」は閉鎖された。中世ヨーロッパの街並みを再現した施設で、室内なのに照明で空を映し出したり、迷路のように入り組んだ階段や通りを見下ろすバルコニーを造ったり、凝りに凝った施設だった。取り壊す予定だったその巨大な建物を「居抜き」のようにほぼ活かして生まれたのが「イマーシブ・フォート東京」なのである。

 ただしそのまま建物を使い回しているわけではない。ヴィビーナスフォートはショッピングモールゆえに明るくせざるを得ず、そのためどうしても「作り物感」が出てしまっていた。「イマーシブ・フォート東京」は、照明を少し落とし、建物にエイジング加工を施し、リアルな中世ヨーロッパの街並みを再現している。まるで最初から「イマーシブ・フォート東京」のためにこの施設が造られたのではないかと錯覚するほど見事な出来栄えだ。
 もしゼロから建築していたならば、100億円単位の資金と数年の時間が必要だっただろう。そこを魔法のように飛び越えることができたのだ。

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