ランボルギーニ成功裏にある「戦略のプレゼン」
ランボルギーニ躍進の理由をステファン・ヴィンケルマンCEOに聞いた(写真:Lamborghini)
イタリアのハイパフォーマンスカーメーカーであるランボルギーニ、その2023年の業績が発表された。
年間の全世界販売台数は、好調であった昨年をさらに10%上回る1万112台。ついに念願の1万台超えを達成した。北米、ドイツ、中国(香港、マカオ含む)、英国に次いで日本も5位の販売台数を誇り、前年比でも21%アップと好調だ。
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年間1万台といえば、たいしたことがないと思われるかもしれないが、ラインナップは下限でも3000万円レベルのラグジュアリーモデルであり、500万円程度のオプション追加は普通である。その高い利益率は、量産メーカーとは比較にならない。
現在、ランボルギーニはフォルクスワーゲングループの一員であるが、傘下となった1999年時点の年間販売台数はわずか264台であったから、隔世の感がある。
フォルクスワーゲングループからのリソースによって大きな改革が行われ、順調に販売台数を伸ばしていったが、2017年の時点ではまだ3815台であった。
ターニングポイントは「ウルス」
実は、ランボルギーニにとっては2018年が、ひとつのターニングポイントの年であった。彼ら曰く“スーパーSUV”である「ウルス」がラインナップに加わったのだ。
ウルスの進化版であるウルスS(写真:Lamborghini)
V10エンジン搭載の「ウラカン」、フラッグシップであるV12エンジンの「アヴェンタドール」、そしてSUVのウルスという3本柱の体制となって、ランボルギーニの販売はブーストアップした。
ちなみに2023年は、ウルスが6087台、ウラカンが3962台、そしてアヴェンタドールが63台(最終モデル12台と限定モデル51台)デリバリーされている。
イタリアの同地域にあるブランドでランボルギーニのライバルと目されるフェラーリは、2023年の全世界販売台数を1万3336台と発表した。こちらも過去最高だ。
ちなみにフェラーリの1999年の年間生産台数は3775台であり、こちらはコンスタントに販売数量を伸ばしてきたところがランボルギーニとは異なる。さすがはスーパーカーブランドの王者であり、利益率も非常に高い。
2023年の純利益は、なんと12億ユーロ超えだというから驚きだ。フェラーリは限定モデルをシリーズ化してコンスタントに発表するなど、ハイエンドモデルの販売増に熱心だ。
フェラーリ初のSUVとして話題となったプロサングエ(写真:Ferrari)
そう、この手のハイパフォーマンスカーブランドにおいては1台あたりの単価を上げ、「いかに利益率を上げるか」が大切であり、それが戦いの術になっているのである。
しかし、イタリア・サンタアガタの“中小企業”が、フェラーリに肉薄する販売レベルを達成したことは大健闘である。この結果を出せたのが、明確な事業戦略をぶれることなく追求し続けたためであることは間違いない。本稿では、その勝因を分析してみた。
明確なラインナップとサプライチェーンの活用
前述したように、ランボルギーニの商品群には現在、3つのカテゴリーが存在する。ウラカン(2023年で販売終了。本年に後継モデル発表が予測される)は、ウルス誕生までエントリーモデルの役割をもつモデルであった。
小規模なランボルギーニのアッセンブリーラインでも十分な台数が生産できたのは、フォルクスワーゲングループ内でのコンポーネンツの効率的な活用のおかげだ。グループ内にあるポルシェ、ブガッティ、アウディなどのサプライヤー網をうまく用いている。
ランボルギーニのファクトリーに並ぶレヴェルトのエンジン(筆者撮影)
エンジンがドイツからほぼ完成形で送られてくるのはもちろん、ボディまでペイント(例外もあるが)されて、サンタアガタの工場へ送り込まれる。そのおかげで、スケールメリットを利用して原価率を下げ、開発リスクを軽減することもできた。
現在、販売のメインであるウルスは、この方式をさらに進めている。ウルスのための特別なアッセンブリー棟も設けられ、グループ内コンポーネンツを活用し、ごく短期間でSUVの量産体制を作りあげた。
そして、フラッグシップであるアヴェンタドールは昨年、後継の「レヴェルト」へとモデルチェンジされたが、こちらはランボルギーニのDNAを強くアピールする“Made in Santa Agata”を具現化している。
エンジンはゼロから熟練工が手作業で組み立て、ファクトリー内の複合素材製造棟にてCFRP(カーボン)製シャーシとボディが作られる。すべて内製なのだ。そして、希少性維持のため、生産台数をいたずらに拡大することもない。
こちらはレヴェルトのアッセンブリーライン(筆者撮影)
つまり、フラッグシップモデルでランボルギーニの技術と歴史の正統性をうたい、2つの量産モデルでしっかりと利益を確保するという戦略である。
ここでひとつ、疑問を生ずる。昨年の1万112台のうち、6000台以上をSUVのウルスが占めている。それによって「通好みのスポーツカーメーカー」というブランド価値が変質してしまうことはないのだろうか、と――。
4つ目のカテゴリーも加えてボリュームアップを目指す
おりしも先日、ランボルギーニCEOであるステファン・ヴィンケルマンとのインタビューがかなったので、その点を聞いた。
ステファン・ヴィンケルマンCEO(写真:Lamborghini)
「大事なのは『つねに需要よりも供給が下回る』ということです。これがブランドの価値を維持するポイントだと思います。私たちはランボルギーニの潜在的なオーナーが、各国にどのくらい存在するかを絶えずリサーチしています。昨年の全世界の自動車登録台数は7500万台でした。そのこと考えれば、私たちの数字はまだ微々たるもので、大いに伸びしろがあると考えます。ですから、ウルスで新しいマーケットに参入したことは、大きなチャンスをつかんだと同義なのです」とヴィンケルマンは語った。
全体のバランスから考えれば、まだまだウルスも伸び代があり、現在の3カテゴリー体制はバランスよく稼働するという予測が、彼の意見であった。
ヴィンケルマンCEOと2028年に発売予定だというランザドール(写真:Lamborghini)
さらに、昨年夏に発表されたBEVのコンセプトモデル「ランザドール」も、近い将来には4つ目のカテゴリーとなり、さらなる企業としてのボリュームアップを目指すことになるであろう。
現状の3カテゴリーがお互いを食い合うことがない、つまり差別化できた商品群を作りあげたランボルギーニの戦略はうまく稼働しているようだ。
もう一点、筆者が「うまいな」と思うのは、CEOであるヴィンケルマンをスポークスマンとして、具体的な方針をわかりやすく伝えるプレゼンテーション力だ。
多くのブランドを持つフォルクスワーゲングループ内で企画を通し、投資を求めるプレゼンテーションの難しさは「顧客にクルマを売る以上だよ」と、かつて某エグゼクティブが筆者に語ってくれたことがあるが、そこでブラッシュアップされたステートメントはシンプルでわかりやすい。
ランボルギーニはCO2削減のロードマップとして、2021年に「コル・タウリ戦略」を発表している。これはモデルの電動化と生産拠点の脱炭素化という両面からの取り組みから追求するものであり、先日2023年までの計画が順調に進んでいることを発表した。
コル・タウリ戦略で示されたCO2削減ロードマップ(写真:Lamborghini)
インタビュー時にヴィンケルマンはこう語っている。
「2030年までにCO2の排出量を40%削減するという目標を再設定しました。これはクルマそのものの排出だけではなく、いわば“ゆりかごから墓場まで”、つまりサプライチェーンやディーラーを含めた、生産から廃棄の工程すべてを含むものです。もちろん、ロジスティクス関係も含めています」
サンタアガタの工場内部はもちろん、周辺の環境や世界各地のショールームまで、相対的にCO2削減に取り組んでいるという意思表示はぬかりない。加えて内燃機関スポーツカーを延命させたいという想いも忌憚なく発信している。
スポーツカーメーカーの現実解
ヴィンケルマンは常々「ランボルギーニのスポーツカーは走行距離も短く、環境に与える負荷も少ないからハイブリッド化がもっとも適しているし、合成燃料のリサーチも行っている。それに対して、日常使用の比率が大きいSUVはBEVが向いている」という現実的な主張を明確に行っている。
ウルスのアッセンブリーライン(写真:Lamborghini)
ランボルギーニは「スポーツカーとして欠かすことのできない内燃機関を当面残しつつも、持続可能な社会の実現に向けての取り組みをプライオリティ高く行っている」と、絶えず繰り返しているのだ。
つまり、“やっている感を出すこと”に抜かりはない。そんな確固たる姿勢を持つブランドだから、世界のランボルギーニ・ファンも安心して彼らのハイパフォーマンス・モデルを選び、楽しむことができるというワケだ。
2023年に創立60周年を迎えた、自動車ブランドとしてはまだ若いランボルギーニであるが、そのアグレッシブなスポーツカーへの取り組みは要注目である。
(越湖 信一 : PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表)